彼女の衣
「お前、問答無用一発は止めてやれよ……。流石に気の毒だったぞ」
「自業自得です」
「なら仕方ないな」
食事処獣椎にて、スズカゼはゼルとリドラの席に居た。
本来はファナ達と食事に来た彼女だが、メタルを再び病院送りにした後、ゼルとリドラに呼び止められたのである。
本人としては早くファナ達の元へ戻りたいのだから、早急に事を終わらせて欲しい次第だ。
「で、用件って何ですか?」
「お前の精霊化について」
スズカゼの指先が震え、視線が軽く細められる。
必然、この話題が来ることは解っていた。
聖死の司書で自分がどうなっていたかは既に聞かされている。
記憶が無いことからも、それが事実だというのは解っていた。
……故に、この話題を出される事も解っていた。
「どうして奴等が、聖死の司書がお前の[霊魂化]を知っていたのかは知らねぇ。だが、それを利用してお前の境界線を取り払っちまったのは事実だ。……そうだな? リドラ」
「あぁ。ここ数日、自宅に籠もってスズカゼの身体検査情報と聖死の司書より押収した資料を洗っていた。その結果は間違いない」
「……幽霊騒ぎ行かせる前に言ってくれれば良かったのに」
「リドラが捜査を終えたのがつい先刻だったんだよ。それで退院祝いっつー事でメタル連れ出して、アイツの腕輪に封じられた魔力を調べる手はずだったんだが……」
「奴の魔具である腕輪は魔力量によって封じられる幅を決めているそうでな。限界も近かったからその場で解放してしまったそうだ。……尤も、さらに詳しく聞くためにこの店に連れてこようとしたら病院に再搬送された訳だが」
「自業自得ですよ」
「自業自得ならば仕方ないな」
スズカゼは遠目で、向こうの席にて煮付けを美味しそうに頬張るモミジを見る。
彼女に連られるようにファナも恐る恐る煮付けを口に運んでいる様だ。
あぁ、早く彼女達と共に食事をしたい。ファナの口端に着いた汚れを拭き取って上げたい。
「ファナたん可愛ぃわぁ……」
「なぁ、リドラ。もう真面目な話止めて飲んで良いかな? ボレー酒とボンボ鳥の焼き鳥喰いたいんだけど」
「もう少し我慢しろ。……で、スズカゼ。例の衣のことだが」
「……あぁ、私が装備してたあの衣ですか」
精霊化したスズカゼが纏っていた紅蓮の衣。
外見からはメタルの装備しているようなボロ布の外套に近いが、その性質には天地の差がある。
彼女の衣はファナの魔術大砲を容易く防いだのだ。極限にまで圧縮された魔力による白焔の大砲を。
「この衣について仮定を立ててみたが……、お前の[天陰・地陽]という技があるだろう? あの技と同質ではないのか、という結論に到った」
「どういう事です?」
「聞けばあの技は魔力を吸収する……、要するに反射撃に近い性質だそうだな。だが、重要なのはその点ではなく魔力を吸収する面にある」
「つまりあの衣は魔力を吸収する、って事か?」
「無論、何から何まで全てという訳ではないだろうがな。ファナにしても五大元素から考えてスズカゼの性質と同じく火だったから吸収出来ただけなのかも知れない」
「つまり私とファナさんは赤い糸で結ばれている、と」
「どうしてそうなった。つーかファナがメッチャこっち睨んでる怖い怖い」
「馬鹿は置いておくとするが……。あの衣は強力な防具と成り得るだろう。一応、いつでも出せるように鍛錬はしておくと良い」
「いつでも、ねぇ……。スズカゼマント?」
「何でそこで技名から入る?」
「いやだって技名は重要でしょう!!」
「確かにスズカゼの言う通り、技名は重要だ。一個一個を個々に認識する印にも生るし、それに対する想像も固めやすい。ゼルも技はあるだろう」
「いや、まぁ、持ってるけどさ……。だからってその命名は無いだろ」
「名前、どうしましょう」
「まずは技を出せるようになってからでも良いと思うが……。どうしても決まらないなら誰かの案を借りてはどうだ?」
「案を借りる、ですか」
「幸い、今この店には東西南北各大国の使いが揃っている。何なら彼女達の意見を仰ぐのも悪くないと思うがな」
「成る程。……あ、でもピクノさんには」
「[霊魂化]の事は言うなよ? フェアリ教を国教としているスノウフ国だ。お前の体質がバレたら何言われるか解ったモンじゃない」
「流石にこれ以上外交問題を起こそう物ならメイアウス女王より制裁が下るだろうな。消し炭にされ……、消し炭すら残らないぞ」
「あっ、今は気絶して寝てるので手込めに出来ますよ!」
「それこそ外交問題待ったなしだわ。絶対やるんじゃねぇぞ」
「個人的に……、なら?」
「リドラ、書類持って来い。男爵権限でコイツ追放する」
「スズカゼは男爵より上階級の伯爵だぞ」
「そうだった畜生。誰だよコイツ伯爵にしたの。……メイアウス女王じゃねーか」
「ゼルさん疲れてます?」
「誰のせいだと思ってんだ。あ、胃が痛い……」
「胃薬を出そうか」
「頼むわ、リドラ……」
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