白い影の正体
「ひぅ……、ひぅ……」
カタカタと小刻みに震えながら、ファナはスズカゼの二の腕に抱き付いて異常なほど周囲を警戒していた。
捜索を始めて既に数時間。最も頼れるヨーラの姿が消えて暫く経つ。
流石のスズカゼもこんな状態に陥ってはファナをからかう所ではない。
彼女も紅蓮の太刀を構えながら周囲を警戒して一歩、一歩と慎重に歩く始末だ。
「ファナさんくっつかれると歩きにくいので、もっと胸を押しつける感じでお願いします」
然れど本質は代わらない辺り、流石スズカゼである。
まぁ、そんな事でファナが胸を押しつける訳もないのだが。
「ど、どうするんだ……? ヨーラが消え、消えたぞ」
「ちょっとマズいですよねーーー……。ヨーラさんなら心配ないとは思いますけど、流石に幽霊は蹴れないし……」
「こ、こうなったらもう全部吹っ飛ばすしか……」
「いやだから駄目ですって」
しかしヨーラが消えたというのは、やはり気になる。
自分達の中でも戦闘面ではズバ抜けた経験値を持つ彼女だ。
何か異変があったならそれを察知し、伝えるぐらいの事はするだろう。
然れどあの場所にそんな痕跡は一つも無かった。はて、これはどういう事か。
「取り敢えずモミジさんとピクノちゃんに合流しますか。何か変なことになってますし」
「や、奴等も既に連れ去られていたらどうするんだ……?」
「有り得ませんって。幽霊なんて居ないんですから」
スズカゼはへらへらと笑いながらファナの手を引っ張っていく。
未だ紅蓮の太刀を構え続ける彼女だが、何処か楽観的にも思える。
何も無ければ良いのだが、と体を強張らせるファナと何かあったのかなと首を傾げるスズカゼ。
彼女達は元の場所へ戻るべく歩き始める。
然れど、彼女達は気付いていなかった。
自分達の後ろ姿を眺める、幾多かの小さな影がある事に。
《廃墟街・入り口》
「……そんな」
モミジは少女の小さな手を握りながら、目の前の光景に愕然としていた。
大きく聳え立つ、瓦礫の山。塞がれた入り口。真っ赤に塗れた煉瓦の数々。
音も届かぬ静寂の中、確かにその真っ赤な瓦礫の壁は聳え立っていた。
「い、いつの間に? こんな物無かったはず……!」
慌てるモミジとは裏腹に、少女は酷く落ち着き払った様子だった。
いや、むしろその様子に慣れていると言うべきだろうか。
何度も何度もその様子を見てきたと言わんばかりに、その少女の表情は動かない。
モミジは彼女の様子に何処か恐れを成しながらも、気を取り直して眼前の瓦礫の壁へ指を沿わせてみた。
やはりビクともしない。押そうが引こうが揺れもしない。
……どうやら完全に閉じ込められてしまったようだ。自分の知る出入り口は封鎖されてしまった事になる。
せめてここが自国ならば別の出入り口も知っていようが、生憎とここは他国。
スズカゼかファナに合流しなければ出口すら解らないだろう。
「ねぇ、このままここで待つ?」
「……うん」
「寒かったりしたら言ってね? 私、何だか肌寒く……」
そこまで言って、モミジは気付いた。
いや違う。[やっと]気付いたのだ。
自分の後ろに誰かが居る。自分より一回り大きな誰かが。
気配を感じなかった? いや、目の前に気を取られ過ぎていたのだ。
動けない。後ろで呼吸音すらなく立つ者を感じれば感じるほどに、動けなくなる。
「……減った」
《廃墟街・西部》
「い、今のはモミジさんの悲鳴!?」
スズカゼは踵を返して走り出そうとするが、その瞬間に彼女は思いきり仰け反った。
と言うのも自分の腕を掴む少女がその場にへたり込み、動こうとしないのだ。
「こ、腰が抜けた……」
両足を逆ハの字にしたまま少女はスズカゼの腕を掴み続ける。
このまま振り払って走っていく訳にもいくまい。かと言って引き摺る訳にもいかないし、背負えば両腕が塞がってしまう。
いざというとき、すぐに下ろせて走りやすい形で彼女を運ばなければーーー……!
「あ」
《廃墟街・入り口》
「大丈夫ですかモミジさんッ!!」
空を舞うするが如く廃墟街を疾駆するスズカゼと、彼女に膝裏及び胸元をしっかり掴まれ顔を両手で覆い隠すファナ。
端から見れば明らかに異端なその光景であるが、スズカゼはそれ以上に異端な光景を目にしてしまった。
全身真っ白な人物がモミジの肩に手を置いて、彼女の顔を覗き込んでいるのである。
「モミジさんから離れぇやこのド阿呆がぁああああああああああああ!!」
ファナを御姫様抱っこしたまま繰り出される強烈な脚撃。
揺れるファナの胸に気を取られたせいで少し威力は落ちたが、包帯男を蹴っ飛ばすには充分な威力だ。
スズカゼは着地と共に靴先を回転させてモミジの側に膝を突き、彼女の顔を覗き込む。
「無事ですか! モミジさん!!」
「ひゃっ!?」
モミジの視界に映ったのはファナを御姫様抱っこしたスズカゼ。
……そりゃ吃驚して当然だろう。
「あ、い、いえ、失礼……。それより良かったです。無事だったんですね」
「……無事だった、というのは?」
「それがピクノさんが消えてしまって」
彼女の言葉にスズカゼの腕の中で少女がびくりと震える。
彼女達はそんなファナに一度視線を向けてから、再び話に筋を戻した。
「実はこっちもヨーラさんが……、あの人なら大丈夫と思いますけど。それはそうと、さっきは誰に襲われてたんです?」
「わ、解りません。急に背後から……」
スズカゼが蹴り飛ばした包帯男を見ると、その人物は壁にめり込んでぐったりと頭を落としていた。
腹部に直撃だったのだ。恐らく今頃、気を失っていなければ酸素を欲しがる体内の激痛に苛まれていたことだろう。
「……ん? 包帯男?」
何か引っ掛かる。
思い返せば立ち入り禁止区域に入ってくるような包帯男を一人知っているような……。
そうだ、確かこの前に腹部を殴打した時もあんな感じで気絶していた気がする。
そうだそうだ、確かその人物は……。
「……あ、それメタルさんです」
「えぇー……」
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