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獣人の姫  作者: MTL2
平穏の日々で
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段々と消え失せて

《廃墟街・東南部》


「うーん、居ないデスねー」


精霊イングリアズの群れに囲まれながら、少女は進む。

その眼はきょろきょろと忙しなく左右を眺めているが、目的の人々を見つけることは無かった。

彼女同様に周囲を索敵するイングリアズもそうだ。数多の目を持ってしても、放浪者の一人すら見つけられない。


「結構奥まで来ちゃったデス。余り離れすぎるとモミジさんとの連絡が付かなくなるデスし……」


彼女は踵を返そうとした。

戻ろう、と。ここまで来ても仕方ない、と。

そうしようとした、が。

自らの背後に居たイングリアズの一体が消えた事で、返すことは出来なくなった。


「え?」


自分の視界半分を埋め尽くす、イングリアズの群れ。

魔力に無理のない程度で広げていたから、魔力不足で消えた訳ではない。

ならば消える理由は一つ。何物かに破壊されたのだ。


「い、イングリアズを破壊するのは相当な力が要るはずなんデスけど……」


彼女が、ピクノが周囲を見回してもそれらしき影はない。

そうしている内に一体、また一体と反応は消えていった。

その速度も始めは大した事は無かった。一分に一体ぐらいだろう。

しかしそれも段々と上がり始め、気付いた時には消失反応が重なるほどの速度になっていた。


「ちょ、ちょっと……」


周囲を見回しても敵の姿は見えない。

なのにイングリアズは次々に消えていく。

ピクノは段々と恐怖心に押し潰され、慌てながら周囲を見回すが結果は変わらない。

イングリアズが消えて消えて消えて、遂には自分の目の前からイングリアズは居なくなって。

やがて最後、自分だけとなった時ーーー……。


「……った」


「え?」


視界の端に、真っ白な影を捕らえて。

彼女の意識は闇へと落ちていった。



《廃墟街・東北部》


「あれ?」


ぽんっ、という軽快な音と共にイングリアズはモミジの頭上から消え失せた。

まさか離れすぎたのだろうかと一瞬の焦りを見せる彼女だが、それはないと自身の思考を打ち消す。

距離にはずっと気を配っていたし、周囲の殺気にも気を付けていた。

なので外的要因で破壊されたはずはない。自分が気付けない程の速度で攻撃されたのならば話は変わるだろうが、そんなはずもないだろう。

もし、そうだとしたら疾うに自分の首は飛んでいるのだから。


「となると、ピクノちゃんの身に何か……」


彼女も北国からの親善大使が一人。戦闘力は低くとも不良者に後れを取るはずがない。

となれば傭兵の生き残りが居た? それとも、本当に幽霊がーーー……。


「いえ、そんなはずは」


首を振る彼女の裾を引っ張る、小さな手。

思わず悲鳴をしゃくり上げたモミジは急いで飛び退くが、ナイフを構えようとした彼女の瞳に映ったのはボロ布のような白い服を着た、一人の獣人だった。

年齢は五歳か、それより少し低いぐらいだろう。見た目と髪の長さから女の子というのは解るが、身の不潔さはとても女の子のそれとは思えない。

獣人である証の獣の耳も片方が力無く垂れているし、髪はボサボサで汚れだらけ。衣服も白のはずなのに埃や土汚れで真っ黒だ。

全く、親はいったい何をーーー……。

……いや、そう言えばここは嘗て獣人差別が酷かった国だ。きっとこの娘も親が居ない孤児なのだろう。

そうとなればこの廃墟街に居る事も頷ける。ここならば雨風ぐらいなら凌げるからだ。


「だ、大丈夫?」


「…………うん」


少女はそうとだけ言うと、その場に蹲ってしまった。

自分が飛び跳ねたときに怪我をさせてしまったのだろうか?

いや、そうでなくとも、あんなにボロボロの状態なのだ。何処か怪我をしていてもおかしくないだろう。


「確か今は第三街に緊急医療所が設置されてて手当も無料だから……、傷の手当てをしに行く?」


「ううん……」


少女は蹲ったまま、寂しそうに首を振る。

まぁ、知らぬ女性から急にこんな事を言われても信用は出来まい。

仕方ないかなとモミジは少女と共に蹲り、彼女を慰め続ける。

年下の慰め方にはある意味慣れている彼女だが、流石に子供を残して捜索を続ける訳にもいかない。

ピクノの事もあるし、ここは一度スズカゼ達との合流を試みるべきだろう。


「ピクノさん、無事だと良いんですけど……」



《廃墟街・西部》


「ほらファナさん! しっかり歩きましょうよ」


「うー……、やぁー……」


「何で幼児退行してんのかね、この娘は」


半泣きになるファナを連れて廃墟街を行くスズカゼ一行。

既に数十分近く歩き回っているが、浮浪者一人見つけることはない。

割と奥まで入ってきたのか、周囲は廃墟街らしく継ぎ接ぎな地面も増えてきた。

然れど、それでも人々の生活跡すら見当たらない。

もっと人手を連れてきた方が良かったか? いやしかしハドリーやデイジーは重傷だしサラは騎士団があるしメイドに肉体労働はさせられないし……。

何より、ファナの泣き顔を見る機会が失われてしまうではないか。

それだけは断固、避けなければ。


「しかし広いですねぇ。そんなに幅無かったはずなのに」


「全くさね。迷ったかな?」


「そんなはず無いんですけどねぇ……」


心なしか、段々と薄暗くなってきた気がする。

肌の上を薄らと寒風が撫で、背筋を嫌な汗が伝う。

気のせい、だとは思うのだが。思いたいのだが。

明らかに後ろを何かが付いてきている気がするーーー……。


「……ッ!」


思い切って振り返ったスズカゼの瞳には何も映らなかった。

ただ虚々と広がる闇が口を開けているばかり。


「い、行きますか」


「……よ、ヨーラは何処に行った?」


「え?」


気付けば彼女達の眼前からヨーラは消えていた。

スズカゼの服裾を掴むファナは遂に泣きそうな程に目を潤ませている。

彼女達は互いに顔を見合わせ、そして静かにため息をつく。


「あ、これアカン」



読んでいただきありがとうございました

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