未だ退かぬ者を探して
《廃墟街・入り口》
「えーとですね。それじゃ、各員別れましょうか」
スズカゼは廃墟街の入り口で号令を掛けた。
流石に全員が固まって行動する訳にもいかない。だが、かと言って各自がバラバラに行動しても連絡に支障を来す。
ならば数人同士が別れて行動した方が幾分かは効率が良いと言う物だ。
「まずモミジさんとピクノさん。そしてヨーラさんと私、ファナさんは一人です」
「ふざけるな貴様ぁあああ!!」
「えー、仕方ないなぁ。じゃぁ私と二人っきりですね」
「うっ……、い、嫌だぁ……」
「じゃぁ一人ですねぇ」
「嫌だぁああ……」
「涙ぐむファナさん最高やでぇ……」
変態が法悦の表情を浮かべている隣で、ヨーラはモミジとピクノは東側を、自分とスズカゼとファナは西側を捜索するよう計画を立てていた。
この時点で既に、と言うか当然と言えば当然だが皆はスズカゼの計画に乗る気はない。
乗ったら乗ったで寝床に連れ込まれそうな気がするからだ。
「何だかあの人見てると私の国の聖堂騎士副団長を思い出すデス」
「……ろくでもない人物なんですね」
「もうアレに似てるって時点でね。それはそうと捜索に関しては先に言った通りモミジとピクノ、私とスズカゼ、ファナで行うさね。今回は戦力よりも索敵能力で分けてるから、もし不足があったら連絡するように」
「流石に無いと思うデスけどね」
「まぁ、何があるか解りませんから」
彼女等は互いに別れ、と言うよりもモミジ達はヨーラがスズカゼとファナを引っ張っていく様子を眺めながら散開する。
捜索にそう時間は要さないだろう。モミジとピクノもこの件が終わったら約束の買い物にでも行きましょう、と言っている始末。
ヨーラに引っ張られるスズカゼも怖がるファナの様子に惚悦しながら、あと何時間これを見続けられるだろうと思っていた。
そう、思っていたのだ。
この一件がどんな事件に繋がるかも知らずにーーー……。
《廃墟街・東部》
「それではピクノさん、お願いします」
「任せてくださいデス!」
ピクノが両腕を広げると微かな光と共に一匹の精霊が姿を現した。
精霊[イングリアズ]。ピクノが使役する最も常用的な使霊であり、使用者の魔力に反応して増殖するという索敵には持って来いの精霊である。
その数と大きさに見合わない力強さを生かして復興作業では大いに役立っていたようだ。
今回はその数が索敵に大いに役立つ事だろう。
「お願いするデス!」
{……ウォゥ}
イングリアズはぽんぽんぽんと倍々に増えていき、やがてモミジの足下一体を覆い尽くすまでになった。
一歩でも動けば踏み潰してしまいそうな程の密度だ。まさかここまで増えるとは思っていなかったモミジは足を固めてしまう。
そんな彼女の事など気にせずにイングリアズの一体は足を擦り昇り、やがて彼女の頭にちょこんと乗る。
……因みに、モミジは擦り昇られた際に変な声が出たがスズカゼが居ないので大事には到らなかった。
「連絡用に一体預けるデス! もし何かあったら皆に伝わるデスよ。でも距離は限られてるから遠くには行かないで欲しいデス」
「は、はい、解りました。それでは手分けして色々な所を見回りましょうか。私は右側を、ピクノさんは左側をお願いします」
「解ったデス!」
さて、こうなれば後は散歩のような物だ。
思いの外ピクノの使霊が大量だった事もあり、この一件は大した事もなく終わりそうである。
こうなったら後の買い物の道順でも考えて居た方がーーー……。
「え?」
「どうかしましたデスか? モミジさん」
「あの、今、笑いましたか?」
「……笑ってないデスよ?」
モミジとピクノは互いを見詰め、微笑み、もう一度見つめ合い、小さく笑いを零す。
二人が気のせいだと首を振りながらそれぞれの捜索場所へ足を進めるのはそれから実に数分後のことであった。
《廃墟街・西部》
「ガタガタ震えながら頭抱えて蹲るファナさんが可愛過ぎるわぁ」
「この辺に病院ってあったかねぇ……」
西部に進んだスズカゼ達だが、その進行状況は芳しくなかった。
と言うのも怖がったファナが蹲って動かず、それを眺めるスズカゼもまた動こうとしないからである。
今更ながらにこの二人を連れて来たのは失敗だったと頭を抱えるヨーラだが、流石に停滞し続ける訳にはいかない。
どうにかしてこの二人を動かさなければ。
「アンタ達、自分の国の事なんだからちょっとは自発的に動こうとか思わないのかい? いつまでも変態行為に走ってたら終わらないだろう?」
「もうこのファナさんを見れるなら終わらなくても良い気がしてきた」
「誰よこの娘伯爵に任命したの……」
さて、この状況をどうした物かとヨーラが頭を抱える中、ふとファナが立ち上がった。
その目には涙が溜められてこそいるが、決意がある。
そう、もう吹っ飛ばしちゃえば良いやという決意が。
「あ、これアカンやつです」
「流石に止めないとマズいね」
二人が鼻声で首を振り続けるファナを止めるまで、実に数十分を要す。
その間に数発の魔術大砲が天へ放たれたが、スズカゼ以外に被害が出なかったのは奇跡的だろう。
何はともあれ、流石にそんな事があってはスズカゼも変態行為を続ける訳にはいかず、渋々捜索を再開することになった。
「それにしてもうるさいですねぇ。さっきから耳鳴りみたいなのが……」
「そうかい? 私は何も聞こえないけど」
「え?」
「え?」
「……子供の笑い声みたいな」
「いや、聞こえないさね」
「…………」
「…………」
その後、二人が泣き出すファナを捕らえて落ち着かせるのに数時間かかったのはまた別の話である。
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