表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣人の姫  作者: MTL2
平穏の日々で
369/876

女王の赦しと包帯男の示し

【サウズ王国】

《王城・王座謁見の間》


「今回の一件は不問とするわ。以上」


吐き捨てるように下された赦しに、スズカゼとリドラは唖然としていた。

聖死の司書スレイデス・ライブリアンの一件、スズカゼは暴走して仲間に襲い掛かりリドラは独断で国を出たのだ。

本来ならば追放、軽くても謹慎は与えられてもおかしくないというのに。

然れどメイアウス女王は彼等を赦した。一切の罰則を与える事無く、解放したのだ。


「ま、待たれよメイアウス女王! こやつ等は我が国を捨てようとしたのですぞ!? ただで赦して良い物か!!」


無論、それに異論は上がる。

その中でも筆頭するかのようにナーゾル大臣は大きく声を荒げた。

特にスズカゼなどは諸問題の権化。そのように甘やかせてはまた問題を起こしますぞ、と。

如何にもスズカゼを目の敵にしたような発言だったが、メイアは聞く耳を持たない。

彼女は手を振り払ってスズカゼ達に帰るよう指示すると共に、未だ喚くナーゾルを一睨みして黙らせた。

そんな状態になってしまったのだから、スズカゼ達もどうしてこうなったのか聞けようもない。

彼女達は仕方なくその場を後にし、王座謁見の間より退出していった。



《王城・廊下》


「お、出て来た」


王座謁見の間から出て来た彼等を迎えたのは全身包帯の怪人男だった。

声や口調からどうにかメタルと判断出来るが、物言わなければスズカゼが斬り掛かったとしてもおかしくないだろう。

少し身構えていた彼女とリドラに手を振りながら、彼は軽快な足取りで二人の元へ歩んでくる。


「傷はもう大丈夫なんですか?」


「へーきへーき! 王城守護部隊の連中も出歩くぐらいなら良いってよ!」


「とてもそうは見えないが……」


「細けぇ事は良いんだよ。それで、どうだった? メイア、赦してくれたろ?」


「……お前が手引きしてくれたのか?」


「まさか。元からメイアも今回の一件を大事にするつもりは無かったみたいだしさ。でもスズカゼにはアレやらせるらしいぜ」


「アレか。まぁ、仕方あるまい」


「いや、アレって何ですか。お仕置きですか? メイア女王になら喜んで……」


「お前の頭は相変わらずお花畑だなぁ……。そうじゃなくて挨拶回りだよ。各国に、な」


「はい? 何で?」


「お前を助けるために総攻撃を待ってくれたお礼に、だよ! 本人が行くのが礼儀だろーが」


「あぁ、それもそうですね……」


聞けば各国の長。

西のベルルーク国、バボック。

南のシャガル王国、シャーク。

北のスノウフ国、フェベッツェ。

彼等はスズカゼの来訪を心待ちにしている、と言い残していったらしい。

若干一名は別の意味に聞こえなくもないのだが、挨拶参りというか文字通りのお礼参りと言うか。

何人せよ一度は尋ねて謝礼を言わねばならないだろう。

最低限の礼儀というのもあるし、何より国家間に無駄な摩擦を起こしたくはない。


「どうしましょう。今すぐにでも出発しようかな」


「いやいや、流石に今すぐは止めとけ。お前を補助できる……、つーかぶっちゃけお前を監視できる人員が居ないんだよ」


「監視って何ですか」


「そのままの意味に決まってんだろ」


ただでさえ爆薬を全身に巻き付けて面倒事という火花一つで爆発するような人物だ。

沈静とまでは行かずとも、その火花を遠ざける人員が欲しい所である。

……尤も、今までその火花を遠ざけて何事も無かった事がないのだが、それはそれ、これはこれだ。


「ゼルとジェイドは負傷で駄目だしバルドと俺は論外だろ? ハドリーとデイジーだって怪我してる上にサラは騎士団で街を復興しなきゃならねぇ。今んトコ、動けるのがファナぐらいだしなぁ」


「モミジさんとか、尋ねて来てくれてる方々は?」


「お前、他国の親善大使を同行させるとか国際問題待ったなしだろ。その上、女をお前に同行させるな、ってゼルとジェイドから堅く言われてるんでな」


「何故!?」


「リドラ、こいつ記憶飛んでる」


「頭の螺旋、の間違いじゃないのか」


「乙女に向かって何て言い草!!」


ぎゃあぎゃあと喚きながら、彼等は廊下を歩き去って行く。

しかし、決して静かと言えないその後ろ姿を見送るように、一つの憎悪があった。

脂ぎった指で扉の端を握り締めながら、汗の滴る顎肉を揺らし。

大臣、ナーゾルは彼等に憎悪の念を送り続けていた。



《王城・東門》


「何たったんですか、アレ。感じ悪いなぁ」


「……何がだ?」


「リドラ、お前気付かなかったのか? ナーゾル大臣がメッチャ睨んできてたぞ」


「そ、そうだったのか……」


「嫌われてますねぇ、私達」


「むしろ好かれる理由が無いしな」


スズカゼ、リドラ、包帯男の三人組は東門へと差し掛かる。

その先の街並みはいつも見慣れた物で、遠目でも行き交う人々が見て取れた。

思い出せばここに帰っていて、この景色を見るのも大分久々な気がする。偶にはそよ風に紙を揺らしながら、のんびりと佇むのも良いかも知れない。

そうだ、久々に第三街の食事処[獣椎]に立ち寄ろう。丁度小腹が空いてきた頃だし、何か小品でも頼んでーーー……。


「オイあの野郎何処に行きやがった!?」


「探せ探せ!! もう十回ぐらい脱走してんだぞ!!」


「くそっ! 見張りは何をやってたんだ!!」


「少し目を離した隙に窓から飛び降りたらしい! 瀕死の重傷じゃなかったのかよ!!」


聞こえてくる喧騒に、スズカゼとリドラはメタルへ視線を向ける。

そこには何の事か知りませんと言わんばかりに顔を逸らす包帯怪人の姿があった。


「……メタル」


「だって暇なんだもん!!」


にこりと微笑むスズカゼ、こくりと頷くリドラ、嫌な予感に顔を青ざめさせるメタル。

その数分後、王城守護部隊専用の治療室で本を読むバルドの隣に、白目を剥いた包帯男が放り込まれるのは別の話である。


読んでいただきありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ