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獣人の姫  作者: MTL2
聖死の司書
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紙食い蟲に本は囓られて


《地上図書館・第七十六書物庫》


「おい! 何処に行った!?」


「解りません! 急に消えてっ……!!」


数人の司書達が一瞬で意識失い、地に落ちる。

彼等が意識を失う刹那、その視界に写したのは自身の全身を這いずり回るが如く頸椎を突く、男の姿だった。

文字通り刹那。殺意も悪意もない、ただその目的の為だけに動く一撃。

故に防御も出来ず逃亡も出来ず、ただ沈むのみ。


「地下図書館への第七通行路、確保」


「良いだろう。そのまま通路を通って第零研究所に進め。既に襲撃から相当な時間が経過している。もう下準備も終わっているはずだ」


「了解」


黒き衣を纏った者達は闇夜に溶け、階段を駆け下りていく。

それに続く二人は懐かしき風景に思いを馳せながら、静かに息をついていた。

内、片方は醜く歪むほどに口端を歪め、笑う。


「行くと、しようか」


「……あぁ」



《地下図書館・司書長ライブラー私室》


「えぇー? お姉ちゃんの実験始めちゃったの!?」


「はい。もう時間もありませんでしたので」


老体の前で、巨大な天蓋付きのベットに座す少女。

いや、正しくは三つ編みの女性の上に座す少女と言うべきか。

司書長ライブラーと呼ばれる少女はつまんなーいと年相応の口調で頬を膨らませながら、黒ローブの女体へと顔を沈める。

女性は聖母が如く少女を優しく抱きしめながら、老人へとキツい視線を飛ばした。


「それでも無許可とは感心しないな、研究者スタウマン。貴様はそれほど馬鹿ではないはずだ」


整理者リアラーマン。儂とて何の考えもなく実行した訳ではない。簡易だがあの小娘に下準備は仕込んである」


「いつだ? 貴様が接触したのは……」


「本を見る振りをして、視線で魔方陣を描くなど容易い話だ」


「……この化け物め」


「ただの老齢の知恵だよ」


整理者リアラーマン司書長ライブラーを強く抱きしめ、老人に向ける視線をさらに鋭く尖らせる。

この老人は危険だ。先代からこの組織に使えているが、危険極まりない存在だ。

この老人は知識欲の塊だが、それ以上に狡猾な存在でもある。正直、組織という一部に置いておくには危険すぎるだろう。

……だが、この老人が聖死の司書スレイデス・ライブリアンを支える大切な支柱である事は事実。

最早、全盛期時の聖死の司書スレイデス・ライブリアン残員は研究者スタウマン保持者メンテナマン、そして司書長ライブラーのみ。

現在の人員など傭兵や知識欲に食い付いた奇人共でしかない。

彼等が居なければこの少女を、延いては世界を護る事も出来はしないのだ。


「どうかしたかな、整理者リアラーマン


「……いや、何でもない。それより彼女の経過はどうなのだ」


「順調だな。境界線など、もう殆どないような状態だった。消え去る前に保護できたことを僥倖と言うべきか、消え去っていなかった事を手間取らせおってと言うべきか……」


「どちらにせよ上手くいっているのなら構わない。今は侵入者に専念すべきか」


「だろうな。既にデモンが向かっておる。儂等も出るとしよう」


「……そうだな」


彼等は事務作業でもするかのように坦々と会話を終え、共に踵を返す。

司書長ライブラー整理者リアラーマンことチェキーが離れた事で頬を膨らませ、彼女はそれに応対するように頭を撫でる。

やがてチェキーの手が司書長ライブラーの艶やかな髪から離れた頃。

彼女達の姿はその一室から消え失せていた。



《地下図書館・第七通路》


「……駄目駄目だな、こりゃ」


たてがみのような頭髪を掻き毟るデモン。

呆れ返った彼の視界に映っているのは階段や床面に伏しながらうんうんと呻いている司書達や傭兵達の姿だった。

司書はともかく傭兵までこの始末とは、と彼は同業者ながらにため息を禁じ得ない様子である。


「い、急いで医務室に!!」


「ほっとけほっとけ。こうやって人員を割かせるのが敵の目的だ。あと数時間もすりゃ勝手に目ぇ覚ますだろ」


「ですか……、それだと傷付けた方が効果的なのでは?」


「この緊急事態だ。ちょっと頭回る奴なら見捨てるっつー事ぐらい解んだろ」


傭兵達は彼の言葉に背筋を凍らせる。

人脈が命とも言える傭兵業で、この男は平然と言い放ったのだ。

お前等が足手纏いになれば見捨てるからな、と。


「ま、そういう事だ。相手も馬鹿じゃねぇらしい」


彼の、デモンの頬はゆるやかに狂気を孕み出す。

傭兵とは本来、人脈を命とする物だ。

だが、それはあくまで生き残る術として、なのである。

この男からすればそんな事はどうでも良いのだ。生きることすら、彼にとっては目的ではなく手段でしかない。

強者と喰らい合うという為の、手段でしかないのである。


「精々、露払い頼むぜ」


牙を剥き、爪を尖らせ、眼光に殺気を孕ませる。

その男の一挙一動が強者を喰らうためのそれであり、一息一巡が戦人と斬り結ぶためのそれなのだ。

この男は余りに異常で、異端で、異質だ。

デモンを囲む傭兵達は本能的に恐怖を感じ取り、思わず彼から一歩引く。

この獣人は余りに危険だ、と。

そう確信を得たが故に。


読んでいただきありがとうございました

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