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獣人の姫  作者: MTL2
聖死の司書
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不利なる捜索

【サウズ王国】

《第三街東部・ゼル邸宅》


その邸宅に近付く者は居なかった。

いや、違う。近付けないのだ。

常人が近付けば汗が噴き出し目眩がするほどに、殺気めいているのだから。


「……全員、集まったな」


低くドスの効いた男の声が静寂を這う。

つい数十分前に帰還したというのに疲労の一つも見せないその男達は、全員が全員殺気を放ちながら眼光を呻らせているのだ。

例えるならば一つの国を潰すが如く集まった集団のように、否。

事実、一つの組織を潰し一人の少女を救い出すために。


「バルド、作戦の概要を」


ゼルの指示に従い、バルドは机上に大きな紙面を広げてみせた。

それをリドラ、ジェイド、メタル、そしてゼルの四人が覗き込む。

彼等の視界に映るのは見慣れた世界地図の、赤黒く染まった点の数々だった。

いや、正しく言えばこうだろう。

赤黒く染まった点の数々が菱形を作り出している姿だった、と。


「……何だ、これ」


「[聖死の司書スレイデス・ライブリアン]の被害にあった国々です」


「いや、だってこれお前。四大国ばっかじゃねぇか」


「そう、四大国が狙われているんですよ、メタルさん」


彼の言葉に、その事実にメタルは思わず口を覆う。

四大国を襲うなど馬鹿のすることだ。いや、馬鹿では表せないほどの馬鹿がする事だ。

それもこの時期に、全て同時に襲うだと?

自殺行為に他ならない。最早、何をどう足掻いても死しか残されていないではないか。


「馬鹿じゃねぇの……?」


「その馬鹿に第三街領主を攫われた我々は大馬鹿物ですよ。……さて、ここからが重要です。[聖死の司書スレイデス・ライブリアン]は今現在何処に存在しているか解らない……、という事になっています」


「どういう事だ」


「どうにも各国の重鎮が大層お怒りのようでしてね。聖死の司書スレイデス・ライブリアンを潰せだの四大国条約初の実績にせよだの何だのと」


「つまり総攻撃を仕掛ける、という訳か。そしてそんな事になれば姫は……」


「無事では済まないでしょうね、間違いなく」


四大国の総攻撃だ。

文字通り、全てが残らぬ砂地になったとしてもおかしくない。いや、事実そうなるだろう。

だが、そんな事になればスズカゼ・クレハという少女は決して無事では済まない。

巻き込まれて死ぬか、盾にされて死ぬか。

どちらにせよ、ろくな運命を辿るはずはないのだ。


「そういう事になってる、ってのはつまり……、各国長の好意だな?」


「その通り。期限は一週間。その間にスズカゼ・クレハを救助するのが我々の使命です」


「一週間で相手の場所を突き止めてスズカゼを救出しろ、ってか。何つー……」


「何もクソもねぇ。やるしかないだろ」


ゼルは立ち上がり、大きく肩を回す。

彼に続くようにしてリドラが立って、共に部屋から退出していった。

ジェイドは暫く無言で黄金の隻眼を空へ向けていたが、やがて緩やかに立ち上がって扉より退室していく。

そんな彼等を眺めるように見送ったバルドとメタルは互いに視線を交差させて、軽く息をついた。


「……何か、ピリピリしてるな」


「当然でしょう。彼等にとってはスズカゼ・クレハ嬢は関係性が深い」


「いや、それなら俺も心配だけどよぉ。そうじゃないんだよ。もっと別の意味でピリピリしてるっつーか……」


メタルは何か言いたそうに口籠もるが、どうにも頭の中からその言葉が得てこないのだろう。

暫しの思考の後、彼は諦めたように肩を落として頭をボリボリと掻き毟った。


「もっと味方、増やせないのか」


「正直、この作戦だけでも極秘事項でしてね。まさかメイアウス女王を招集した会議の内容が聖死の司書スレイデス・ライブリアンについてとは思いませんでしたよ」


「俺達が来る前に会った襲撃っつーの、それが仕組んだんじゃねぇの?」


「資金提供程度はあったそうですが、実際は貴族達の意向に合わせたようですね。各国への襲撃も我が国への襲撃に合わされていますし……、良い具合に利用されたみたいです」


「何つーかホント……。で、俺達は一週間以内にスズカゼを救出しなきゃなんねぇ上に他国の力は借りられない。相手の場所は不明で戦力も不明。それに対してこっちはたった6人。つーか実際は5人か」


「ヨーラさん達の力を借りれれば良かったのですが、こればかりは自分達で解決しないといけませんからね。さて、どうした物か……」


バルドの言う通り、外部の手は一切借りられない。

とは言っても騎士団は先の一件で機能麻痺状態だし、王城守護部隊はサウズ王国を離れる訳にはいかない。

6人だ。それも非戦闘員のリドラを省けば5人。

それぞれが、一部を除いて相応の力を持っているが各大国に襲撃を掛けるような組織を相手取れるほどの兵力ではない。

いや、或いは可能だろう。出来ない事はない。

だが、だ。そうなれば必然的にこちらの被害もーーー……。


「つーか、スズカゼがそう簡単に捕まるモンかね? 相手何者だよ」


「さぁ? 私を咆吼で吹っ飛ばす程度の相手ですよ」


「化け物じゃねぇか……」


「……それに、解らない事もあります。まず彼等の目的だ。四大国に挑めばどうなるかなど解りきった事でしょうに。そしてスズカゼ・クレハ嬢を誘拐した理由です。あの状況下だ。彼女ではなく、もっと高位の貴族を拉致することも出来たはず」


だが彼、或いは彼女はスズカゼ・クレハを狙った。

他の国で誰かが誘拐されたという話は聞かない。

他の国の重鎮と彼女に何の違いがある? 戦闘力か、性別か、容姿か、年齢か、所属国か。

……それとも。


「まさか……」


「ど、どうした?」


「メタルさん、これは少しーーー……、いや、かなりマズいかも知れません」



読んでいただきありがとうございました

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