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獣人の姫  作者: MTL2
 
334/876

閑話[とある王城守護部隊長の報告書]

【サウズ王国】

《王城・王城守護部隊長執務室》


「……ふぅ」


男は一息つき、高価な万年筆を静かに置いた。

彼の視線は万年筆の下に敷かれた洋紙へ向けられている。

既に数時間近くこの洋紙と睨めっこだ。こうして休憩でも挟まないとやっていられない。

それでも洋紙へと視線を向けてしまうのは、やはり自分の性分と言った所か。


「事後報告書……、にしては杜撰かな」


今回の一件……、まぁ、端的に言えば傭兵達によるサウズ王国への襲撃だ。

メイアウス女王及びサウズ王国騎士団団長、序で[闇月]の不在。

非正規含め国家主戦力中の襲撃は最悪に近い形で幕を下ろした。

騎士団や民といった者達の負傷者は数多く居れど、死傷者は無し。

行方不明者も、一名を除いて無し。

そう、一名を除いては。


「サウズ王国第三街領主伯爵……、スズカゼ・クレハ嬢」


彼女は姿を消した。

サウズ王国へ襲撃を仕掛けてきた主犯の男が死亡したにも関わらず、姿を消したのだ。

自分の見解と相手の反応もあった事から、傭兵達の真の目的は間違いなくスズカゼ・クレハの殺害だったと見るべきだろう。

尤も、それを理解していたのは[沈魂歌アン・レクイエム]ことソーン・シングゥーただ一人。他の面々はそれを知らなかった、と思われる。

思われるというのは、単に全員の確認が取れていないからだ。

まず[頂の本(メニー・ブック)]。ワン・チェドス率いる彼等は襲撃中、スズカゼ・クレハ及びサウズ王国に滞在していたデュー・ラハンと戦闘、敗北し撤退。その後の足取りは王城守護部隊と残った騎士団の力を借りるも成果無しに終わってしまった。

彼等の背後には[聖死の司書スレイデス・ライブリアン]が垣間見えており、不穏を拭い去ることは出来ない。

次に[白き濃煙(ヘビー・スモーカー)]。四国大戦を生き延びた熟練者である老人率いるこの組織は、少しばかり特殊な終わり方を具現することとなった。

と言うのもこの組織に属するタヌキバ、キツネビという女性の実力を認めたシャガル王国第一王女が、彼女達のボスである老人含め自国に正式に雇い入れる事を表明したからである。

今回の一件の全貌や被害が粗方明らかになったのも、雇い入れられた彼等の協力があったからに他ならない。

尤も、依頼者については[沈魂歌アン・レクイエム]が兼用していたため、解らなかった。

だが、こちらについては既に解決の一途を辿っているため、下記で記すとしよう。


「……これは、どうかな。書かなくて良い気がするけれど」


そして、これは、まぁ、オマケというか何と言うか。

[沈魂歌アン・レクイエム]に[オマケ]として傭われていた[超獣団]。

彼女達は実力もそこそこで特筆すべき事もないがーーー……、襲撃中にサウズ王国騎士団の騎士達を治療するなど、献身的な態度だったことから無罪となった。

まぁ、スズカゼ・クレハのせいで特殊性癖に目覚めた人物も居り、それを憐れに思った故というのは否定出来ない所もあるが……。


「……ふー」


以上が襲撃者についての報告である。

あと一名、何物かが目撃ないし証言を得ているが、その人物については余りに情報が無さ過ぎるため割愛としよう。

それでも自身を咆吼で吹っ飛ばすだけの実力を持っているし、スズカゼ・クレハを攫った直接の人物と思われるのだから、調査は続けていきたい。


「さて、と」


さて、上記で述べた諸悪の根源、即ち襲撃のために傭兵達を傭った人物。

これについてはある噂、傭兵達の雇い主が判明したという物を流したところ、物の見事に数人の貴族達が引っ掛かった。

ある者は自首、ある者は首を吊り、ある者は国外逃亡しようとした所を逮捕されたのだ。

しかし、彼等の地位は孰れも子爵や男爵と言った下位の物であり、サウズ王国の内情をバラ撒くにはたり得ない。

ならばもっと高位の地位を持った協力者が居たはずだが、これについては目下調査中である。

件の犯人である数人の貴族達は、まぁ、切り捨てられたと見て良いだろう。


「……で」


以上が襲撃者及び黒幕についての報告である。

だが、現状の問題はここではない。

そう、スズカゼ・クレハが連れ去られた事だ。

現在、第三街は深い焦燥感に駆られている。過激な獣人などは全てはメイアウス女王の責任だ、などと襲撃者達の偽の目的に填まっている始末。

まぁ、彼等からすれば地獄から安寧を生み出したスズカゼ・クレハは救世主に近い存在なのだろうから、何かに八つ当たりするのも無理はない。

……しかし、その相手に国を選ぶとは随分迷惑な話だ。

いや、ある意味では彼等が正しいのだろう。

連中の真の目的からしてスズカゼ・クレハは既に死亡している可能性が高い。

高いが……、殺すのなら連れ去る必要などない。

その場で殺してしまえば良い話だ。連れ去るとなれば幾多かの危険性が出て来るのだから。


「……」


現状、出来るのはメイアウス女王の帰還を待つ事と、傭兵達から手掛かりを探すことばかり。

受け身の体勢を取るしか無い状態がどうにも腹立たしいが、近く動く事に間違いは無いだろう。

彼等の帰還を命じたのも、それが理由なのだから。


「そろそろ休憩にするかな……」


バルドは立ち上がり、何度か腕や首を慣らしてから、大きく腰を仰け反らせる。

やがて全身の[こり]を取った彼は扉のノブに手を掛け、それをゆっくりと回しーーー……。

喧騒に覆い尽くされた外へと、出て行った。



読んでいただきありがとうございました

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