喧騒の中にて思惑に気付く
《王城・王座謁見の間》
「状況は?」
「第三街各地にて襲撃が起こっています。騎士団の半数以上は襲撃者の対応に、残りは民の救助に向かっています。しかし相手もかなりの手練れ。騎士団もかなり苦戦しているようですね」
「……ふむ」
バルドは顎元を摩り、思考に耽る。
此度の件、余りに不可解な事が多すぎるのではないか。
そんな思考を巡らせる彼に王城守護部隊の一人が書類を提出し、サインを求めた。
「……」
彼は無言でそれにサインし、ふと顔を上げた。
城内では慌ただしく王城守護部隊の兵士達が走り回っており、静寂という言葉は遙か彼方だ。
然れど、それに対するが如くバルドの思考は澄み渡る湖の水面だった。
その中に幾つかの糸を組み合わせながら、彼は小さく述べる。
「ナーゾル大臣」
「何だね!? 今、書類のサインと確認で忙しいのだが!!」
「今回の襲撃、どう思います」
「襲撃ぃ!? 前と同じだろう! 内通者が手引きしたに違いない!! 何物かが襲撃者共を引き入れたんだ!!」
「そこまでは前回と同じですな。ですが、あの人員は妙だ。報告によれば[聖死の司書]に属していた[頂の本]ワン・チェドス。四国大戦にて各地で目撃された老兵率いる[白き濃煙]。一切の経歴が不明の男、通称[沈魂歌]。この三組が主な襲撃者とされています」
「それがどうした!? 私は忙しいんだ! 世間話なら後で……」
「たったこれだけで、この国に襲撃を掛ける物ですかな」
「な、何?」
「余りに少な過ぎる。内部の状況を知っているのならば私が居ることすら理解しているはずだ。この国にギルド指折りの実力者であるデュー・ラハンが滞在していることも。そして外部の、大国の人間が居ることも」
「そ、それがどうしたと言うのだ? 連中ほどの実力者が手を組み、メイアウス女王不在の今、襲撃を仕掛けてきたのだ。何ら不思議では……」
「目的が解らないのですよ、大臣。連中の目的は何だ? 略奪か? ならばもっと小国を狙うはずだし、連中の腕ならこんな危険を冒す必要はない。ならば依頼か? では誰が何の為に頼んだのか。この四大国条約が結ばれたような時期に。何が目的で……?」
「い、今はそんな事を考えても仕方なかろう! それより対策だ! お前も戦闘力があるのだから連中を討伐してこい!!」
「せっかちですねぇ」
……恐らく、だが。
今回の襲撃、何もサウズ王国の壊滅が目的ではないはずだ。
となれば何だ? 壊滅や略奪が目的でないのならば、何を狙う?
四大国条約という、各国を結ぶ橋が渡されたこの時期に。
「……いや」
橋が渡されたからこそ、か?
その橋が狙いとすれば、どうなる。
そうだ、襲撃者の狙いを見るからいけない。
それを依頼した人間の意思こそが襲撃者の意思なのだ。
だとすれば、襲撃者の狙いはーーー……。
「ナーゾル大臣!」
「だから何だと言っているだろう!!」
「私は少し外します。後の作業、お願いしますね」
「ふ」
酷く出っ張った腹を揺らし、歯を思いっ切り食いしばって。
ナーゾルは王城を揺るがさんがばかりの叫び声を、口端と共に吐き出した。
「ふざけるなぁああああああああああああああああっっっっっっ!!!」
《第二街南部・南門》
「ぬ、う、ぇ、いあああああああああああああッッッッッッ!!!」
豪腕が空を潰すが如く振り回され、その先に掴まれた女性も連れて大きく回転する。
本来ならば振り回されながら嘔吐してもおかしくない衝撃だと言うのに、女性はまるで子供の遊戯でも体験するが如く何と言う事のない顔をしていた。
やがて老体の腕が女性を空中へと放り投げる瞬間に彼女は身を翻し、[空を蹴って]跳び蹴りを繰り出す。
剛脚から放たれるその一撃は頭蓋を砕くに充分なはずだが、老体の盾とも言える豪腕を砕くには至らなかった。
「ハッハァ!! やはりこうでないとなぁ!!」
「うっさいね、戦闘狂は」
老体に向けて幾十という破砕の脚撃が放たれ、彼はそれを全て叩き落とすか防御する。
仕返しだと言わんばかりに放たれる崩壊の拳撃も同様で、女性によって叩き落とすか防御された。
一進一退の攻防は優劣を見せず、ただ互いに必殺の一撃が繰り出され続ける。
常人とは一線どころか二線、三線を引いた、余りに異常な戦い。
「わ、私達はどうするたぬ? 見てるだけしか出来ないたぬ」
「もう見てるだけで良いと思いますわぁ。何ならお買い物でも」
「そういう事を言ってるんじゃないたぬ!」
一方、こちらは完全に見物へ回ったタヌキバとキツネビ。
彼女達もそこそこの実力は持ち合わせているのだが、流石にあの二人の戦闘を邪魔できるほどは持っていない。
恐らく下手に手を出そう物なら、その手が無くなってしまう事だろう。
「そ、そうたぬ! 今の内に次の街へと……」
「出来れば良いのですけれどねぇ。あの女性、ヨーラさんでしたか? あの人と隊長、ちょうど門の前に重なるよう戦ってますの。多分、端から同時に行ったとしても順々に頭が吹っ飛びますわ」
「何それ怖いたぬ」
「事実ですもの」
キツネビは扇を広げ、舞うようにしてそれを周囲の光へと照らしていく。
その行為を見てタヌキバは首を傾げていたが、直ぐに現状を理解した。
暗号だ。動きの一つ一つが言葉となる、暗号。
傭兵の必需品とも言えるこの行為が指し示すのは、狙撃手の存在だった。
「……太陽と対照?」
見れば、丁度自分達から影が見えない位置にそれは居た。
寝転びながら建築物の影に隠れているので明確な姿は見えないが、確かに狙撃手だ。
自分達に狙いを付けてない所を見ると、目標は恐らくーーー……。
「舐めたことしてくれるたぬね。……騎士団風情が!」
「是非、始末を付けましょうか」
読んでいただきありがとうございました




