表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣人の姫  作者: MTL2
襲撃者達の宴
325/876

少女と本の会合

《第三街東部・ゼル男爵邸宅周辺》


「怪我人はこちらに! 非難してきた方々は怪我人の搬送を手伝ってください!!」


モミジの叫び声が響く中、それを掻き消すほどの喧騒が邸宅の周辺を覆っていく。

既に数百、いや、数千と居てもおかしくないような人混みが第三街東部各地に集まっているのだ。

北部、西部、南部が襲撃を受けている中、何も起こっていないこの東部に人が集まるのは必至であろう。


「モミジさん大変デス! 北部、西部、南部に重傷の騎士達が倒れてるって……!」


「ピクノさんは急いでその方達の救護を! こちらは既に手一杯ですので現地で治療を行ってください!!」


「了解しましたデス!!」


モミジとピクノは互いに怪我人の手当に奔走し、とても周囲の状況に気を配れる状態ではなかった。

今現在、何が起こっているのかを微かながらに理解出来ても、それに対応する術が思い浮かばないのだ。


「モミジ様! もう治療用の道具が足りません!」


それに追い打ちを掛けるが如く、邸宅より飛び出してきたメイドの悲痛な叫び声が周囲に谺する。

役職的に治療道具を多く揃えているゼル邸宅の物品ですら、既に底をついた。

モミジはメイドに町中の医療所から道具を持ってくるよう指示したが、それもいつ来るか、そもそも持ってこられるか解らない。

余りに、状況が切迫しすぎている。


「……ッ!」


恐らく、いや、確実にサウズ王国は現在襲撃を受けている。

相手は相当な手練れであり、内部の状況を知り得ている事からも内通者が居るはずだ。

状況的にこの地点が狙われていないのは僥倖だが、これも罠と見るべきだろう。

まさか襲撃を掛けておいて一方向を空けるなど、そんな間抜けなはずがない。

となれば、恐らくここに人を集めてから一気にーーー……。


「……けれど」


ここ以外に逃がす場所はない。

かと言って、国外に逃がすとなればハイエナが如き野盗によって蝕まれるだろう。

これほど怪我人が多い状態で迂闊に行動するなど危険極まりない。

そして現状を垣間見れば尚更だ。

人手が足りず、怪我人が増加する一方のこの現状。

外に逃げられないとなれば、今尤も必要なのは人手だ。

だが、騎士が襲撃者から民を救出している今、この治療に回せる人手などーーー……!


「やっと脱出出来たぞ!! 何だあの牢屋!!」


「キシシシシッ! 私の技術あってこそだな」


「スズカゼお姉様……、あぁ、何処……」


「おいもうコイツ病院連れてこうぜ」


ゼル邸宅より飛び出してくる三人組。

彼女達は飛び出すと同時にモミジと視線を合わせ、硬直する。


「……えっ、シャガル王国第一王女じゃね?」


「キシッ。いやいやいや、そんなまさか」


「美しいお人……、でもスズカゼお姉様の方が……」


「……人手、居ました」


「「えっ」」


「嗚呼、艶やかな夜を一緒に……」



《第二街北部・北門》


「く、ぅ……!」


地に沈む黒尽くめの男。

その者の眼前には紅蓮の太刀を構え、息一つ切らさず傷一つ負っていない少女が居た。

黒尽くめの男、ラウは何の手も出さなかった訳ではない。

[始まりの栞(ブクマ・ビギンズ)]と[終わりの栞(ブクマ・エンディン)]を組み合わせた予測不可能の戦法。

一介の兵士どころか、不意打ちに限定すれば熟練者すら討ち取れるはずの戦法、だった。


「それで、手品はもうお終いですか?」


この女には何も通用しない。

真正面から挑もうと、不意打ちを行おうとも。

全て予測され、迎撃され、追撃される。


「貴様……、何物だっ……! 普通じゃない……!!」


「奇遇ですね、よく言われます」


苦笑いを零しながらも、彼女の紅蓮は大きく弧を描く。

その一閃が振り下ろされるであろう位置は、自らの片腕。

殺しはしない、然れど片腕一本は貰い受けるぞ、と。

そう言わんばかりの、構え。


「待っーーー……!!」


「断る」


振り下ろされる斬撃は紅の尾を引いて、地に衝突する。

凄まじい金属音と火花が飛び散り、少女の姿勢は大きく崩れた。

その姿勢を案ずる者も、振り抜かれた刃に喝采を浴びせる者も、飛び散るであろう血液に目を伏せる者も居ない。

ただ気絶した者ばかりであったはずのその場で、少女は物共の呻き声を聞きながら一つの確信を得ていた。

手応えが、ない。


「……人は愚かだ」


遠方、数十メートル左方。

少女はそちらの方向にギロリと視線を向け、牙を立てた。

それこそまるで獲物を逃した猛獣のように、真剣勝負を邪魔された剣士のように。


「誰ですか」


「ワン・チェドス。[頂の本(メニー・ブック)]の首長を勤めている」


「そうですか、貴方がこの暴動の首謀者ですね」


「いや、そうではない。協力してはいるがな。……むしろ私の目的は別にある」


「別?」


男は、その本を片手に持ち、ラウを肩に担ぐその獣人は。

静かに眼光を呻らせ、口端を裂き、殺意を露わにし。

明確な言葉を持って少女へと問うた。


「リドラ・ハードマンは……。[解析者(ハードマン)]は何処に居る?」


少女はここで刹那の思考を巡らせる。

今し方、彼の言った言葉の意味が解らない。

[解析者(ハードマン)]? 何かの通称か二つ名か異名か、その類いだろうか?

いや、しかしハードマンというのはリドラの名前だし……。

混乱させようとしている? だったら、どうしてリドラの名前を出す?

それにあの目。こちらを睨むあの目は違う事無く本気の目だ。

彼はいったい、リドラと何の関係があると言うのだ?


「……あの人は今、この国には居ませんけど」


「何処に居る」


「答える義理はありませんね」


「ならば聞かせて貰うのみよ」


ワンが一歩を踏み出し、スズカゼは呼応するが如く構えを取る。

自分から近寄ってきたという事は恐らく接近型。それも、先の黒尽くめ達とは格が違う。

見た所傷一つ負っていない。先の男は騎士団により多少の手傷は負っていたのに。

……ならば、だ。結論としては超高速の戦闘か、かなりトリッキーな戦法を行うと見た方が良い。何せ鳥の獣人だし。


不確かな存在(ロスト・ディサペラム)


二歩目。

スズカゼが太刀の照準を相手の手首に定めようという、まさにその時。

ワンの姿は消えた。いや、違う。

スズカゼ以外の全てが、景色を除く全てが消え失せたのだ。


「なっ……!?」


ワン本人が消えるだけなら解る。何らかの高速移動だと予測もつく。

だが、まさか自分以外の全てが消えるとは思っても見なかった。

まさか気絶している騎士まで高速移動した訳でもあるまい。奴の仲間も同様だ。

と、なれば何だ? 何が起こっているというのだ?


「死に際に、良い事を教えてやる」


何処からともなく聞こえてくる、獣人の声。

右から左から上から下から、或いは全方向から。

まるで反響し合うように、その声は聞こえてくる。


「私は[記録者(ブックマン)]だったよ、小娘」


スズカゼの首筋に当てられる、一筋の刃。

彼女が振り向き紅蓮の刃を振り抜くよりも先に。

その刃を持つ腕は、一気に引き抜かれた。



読んでいただきありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ