白黒の騎士との別れ
「改めて自己紹介させていただきます。スズカゼ・クレハです」
「サウズ王国騎士団所属、騎士のサラ・リリエントですわぁ。そしてこちらで眠っているのが同じくデイジー・シャルダ。もう一人がスズカゼさんの秘書的存在であるハドリー・シャリアさんですわぁ」
「で、私はベルルーク国軍中佐、ヨーラ・クッドンラー」
「スノウフ国聖堂騎士、ピクノ・キッカー……、デス!」
「シャガル王国第一王女、モミジです」
「以上三名が四大国条約親善大使さね。ま、今じゃ異常事態解決部隊みたいなモンだけどね」
サウズ王国各名と四大国条約親善大使達の紹介を終え、端で固まっていた女性達はおずおずと立ち上がる。
白黒の騎士と獣人の行商人がそれぞれ自己紹介の機会が被ったので、白黒の騎士が頭を下げて譲ろうとし、獣車の行商人も頭を下げて譲ろうとする。
二人がそんな事を数回繰り返した辺りでスズカゼが痺れを切らし、獣車の行商人から紹介を行うよう命じた。
「え、えーとですネ。行商人のレンでス。今回はただ移動手段として参加したんですけド……。取り敢えず皆さん、怪我の手当は出来ますし道具もありますので言ってくださイ」
では有り難く、とモミジはスズカゼを始めヨーラとオクスをそちらへと向かわせる。
そんなこんなで獣車の隣に正座した三名の中から、端の一人が立ち上がる。
「私はギルド登録パーティー[三武陣]のオクス・バームだ。一応、ギルドから今回の異変調査の為に来たのだが……」
全員の視線が草々靡く草原に向けられ、元に戻される。
暫くの沈黙を経て皆が視線を合わせ、再び草原へと向けられ、元に戻す。
「……来たのだがなぁ」
結局、今の草原は何もなかったかのように平和だ。
厄介な精霊竜も居なければ海もない。
本当に、何が何だか解らない内に始まって何が何だか解らない内に終わってしまった。
いや、来たことが無駄な訳ではない。竜退治が出来ただけでも充分に意味はある。
あるが……、何も解らぬ内に始まって何も解らぬ内に終わるというのは、何ともやるせない話な訳で。
「……精霊とは言え、最早現存しない伝説のドラゴンを退治出来たのだ。武勇伝が創れただけ儲けものだろうか」
「竜とドラゴンは別物さね……。そもそも精霊と生物じゃ別物過ぎる」
「それもそうだな……、ヨーラの言う通りか」
各々は肩を落とし、今回の事は何だったのかと思考を巡らせて、それが無駄だと再確認しては肩を落とす。
そもそも精霊竜の召喚者も捕らえられなかった。いや、この場合は召喚者達と言うべきか。
「そもそも、最上級精霊など個人で召喚するには相当な実力者が必要です。間違いないですよね? ピクノさん」
「その通りデス。最上級精霊は一体召喚するだけでも腕利きの召喚士、数十人が必要となりますデス。あんな、精霊が司っていらっしゃる海まで具現化させるとなると、それこそ数百人……」
「と、まぁ、このお嬢さんが言うにはこの通りだ。ギルドにも幾多かの召喚士は居るから数百人体制で動人する難しさはよく解る」
「まぁ、ただごとじゃないさね。もし今回のがサウズ王国を襲うための計画だったとしても、まさか最上級精霊ごときで倒せるわけもなし」
「否定したいところですけど、確かにその通りデス。我がスノウフ国の誇る四天災者[断罪]ことダーテン・クロイツ様でもサウズ王国に攻め込んで勝てる自信は無いと苦笑するほどデスから」
「条約前は互いに牽制し合ってた存在ですからね。四天災者を持たない我がシャガル王国ではその脅威はよく解りますよ……」
「貴女様も苦労なさっているのですね……、モミジ様」
「い、いや、ははは……」
長い苦労を思い出しながら、シャガル王国第一王女であるモミジは視線を横へと逸らす。
他の面々も彼女の思い出し苦労に誘われるように今回の疲労感をどっと浴びたせいか、大きくため息をつくばかりであった。
骨折り損の草臥れ儲けとは正しくこの事である。
「……取り敢えず、どうします? この素晴らしき団体の中で暫く居たい所ですけど、流石にいつまでもは滞在出来ないし」
「まぁ、スズカゼの言う通りさね。素晴らしき云々は置いといて」
「でしたら、サウズ王国に向かうべきだと思います。元より皆さんの向かうべき場所でしたし」
「私も同乗したい所ではあるが、残念ながらギルドに戻らなければならない。任務の報告があるのでな」
「……って事は」
サウズ王国組であるスズカゼ、ハドリー、デイジー、サラ。
そして四大国条約親善大使であるヨーラ、ピクノ、モミジ。
獣車の操縦者であるレンを含め、この八名はサウズ王国に。
オクスは今回の一件が解決した事を報告するためにギルドへ。
即ちこの団体の中より、オクスのみが離れる訳だ。
「……何だか寂しい気もしますねぇ」
「スズカゼ嬢、会って一日と経ってない相手だぞ? そう寂しそうな顔をするな」
「いや、[出会いもあれば別れもある。出会いとは別れの始まりだ]って言葉を思い出しましてね……」
「ふむ、良い言葉だ。まぁ、また機会があれば会おうではないか」
「ですね。では、また会いましょう」
スズカゼとオクスは握手を交わし、少女が胸に手を伸ばそうとしてサラがそれを打ち落とす。
そんな彼女達に苦笑いしながらも、オクスは他の面々と、特にヨーラとは熱い握手を交わしていった。
やがて歩き去る彼女の後ろ姿を見るのもそこそこに、面々は身支度を調え始める。
「この人数は獣車に入りきるかな?」
「大丈夫ですヨ。私の運転技術を持ってすれば不可能ではないでス!」
「……信じますよ?」
「勿論でス!!」
自信満々に胸を張る[荒野の暴走者]ことレン。
それから数十分後に出発してからサウズ王国に到着するまでに、スズカゼ、ピクノ、モミジが数十回の休憩を要求したことは言うまでもないだろう。
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