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獣人の姫  作者: MTL2
女達と緑の海
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残された者達は行いを起こす

【謎の水域周辺】


「オクスさん、でしたか?」


「何ですかな、サラ」


草原の、獣車近く。

獣車の入り口に腰掛けた女性は柔らかな微笑みを浮かべていた。

彼女の問いを受けた女性は微かな警戒を表情に含ませながら、踵を返す。

当然だろう。サラの声には、彼女の警戒同様、微かな挑発の色があったのだから。


「余り穏やかな声色ではないようだが」


「うふふ、ごめんなさいねぇ? 一応は警戒してないと駄目ですので」


「……少し内側を表しすぎではないかな」


「そうかしら?」


オクスは自身の警戒を解き、頬端を撫でる風に頭髪を揺らす。

彼女が自身を挑発する理由は解る。至極当然の、とても解りやすい理由だ。

要するに疑われているのである、自分は。


「疑っているのだろう、私が[精霊竜・シルセスティア]を召喚したこの事態の黒幕ではないのか、と」


サラはその言葉に同意しない。その意識すら見せない。

然れど逆に否定もしなければ首を横に振る素振りすら見せない。

沈黙は金。同時に肯定をも表す。


「獣人は魔力を持たない。これは常識ではないか?」


「魔法石や魔具を使えばその類いではありませんわよね」


「精霊竜は最上級精霊だぞ……。私のような獣人が魔法石や魔具を使った所で召喚できる訳があるまい」


「貴方の属する[三武陣]は名前からして一名という所ではありませんわよね? それに、聞けば貴方はあのザッハー・クォータンと知り合いだったそうではないですか。間接的とは言えスズカゼさんに殺された方の友人なら、復讐に走ってもおかしくはありませんわよね?」


「……友人、か。自分でそう称したとは言え、何とも珍妙な呼称だな」


「どういう意味かしら?」


「ザッハー・クォータンと私の出会いは、まぁ、大した事ではないのだがな。幼い頃に少しあった程度だ。そこからの腐れ縁で権力闘争で互いに派閥が離れたとは言え、その腐った縁は切れなかっただけの話だ」


「うふふ、恋仲の幼馴染みの言い分のようですわねぇ」


「そんな可愛らしい桃色の縁ならば私も苦労しなかったのだがな」


肺底から吐き出されるようなため息からして、本当に[そういう縁]らしい。

ならば復讐の線はないようだ。まぁ、確かに話を聞く限りでは彼のような人間の為に復讐しようなどという物好きは居なくても仕方ないだろう。

その線は消えた。それで構わない。

然れど数多に別れた線は未だ途切れていない訳で。


「では、ギルドの命令ならばどうでしょう? あれ程の組織ならば最上級精霊を呼び出す事も不可能ではない……、それこそ西の大国で起きた、あの一件の様に」


この件は似ているのだ。何の意味があり何の目的があったか解らないという一点だけでなく。

最上級精霊という点、突発的な点、大国周辺という点も同様にそうだ。

余りに酷似している。ベルルーク国を襲った妖精と精霊の大津波の一件に。


「ギルドがこの一件を企んだ、と?」


「予想ですけれどね」


「恐らくそれを幾多の人間が聞こうと、一つしか返らない答えを返そう。……何の利益があって我々がサウズ王国を襲うのだ。四天災者という最強の剣を持たぬギルドが、何故に盾もなく剣へと挑めるのだ」


「盾ならあるでしょう? 肉の盾が」


嘗てサウズ王国も行っていた戦法。

人海戦術ならぬ、人盾戦術。

組織力を生かし人間という肉の盾を用いる。

ギルドという組織ならば可能だろう。いや、ギルドという組織だからこそ可能なのだろう。

最強ではなくとも充分に斬れる剣はある。弾けずとも潰れぬ盾もある。

武器は揃った。ならば残るは斬ろうという心のみ。


「残念だが、ギルドは国でない組織であるが故に統率が取れない。人員は豊富で機動力があるという点ではそれも長所たり得るが、組織としては致命的だ」


「それはつまりギルド統括長が命令を下そうとも、その為に動く人員が居ないという事かしら?」


「その通りだ。恥ずかしながら、な」


無論のこと皆無ではないが大国の人員には遠く及ばないだろう、とオクスは付け足した。

ギルドは大国に対し戦争を起こそうとしたのではないか、というサラの問いは結果として大いなる否定によって下された。

今回の一件も我々は関与していないと、オクスはそう言い切ったのである。


「……まず我々がすべきなのは竜だ。ハドリーとデイジーという人物、そしてスズカゼ嬢は喰われてしまった。死んでしまったとは考えたくないが、まぁ、あの人物ならば生きて居るだろう。問題はないと思う」


「えぇ、まぁ、あの方が死ぬなんて有り得ませんものね。色んな意味で」


二人の確信的な物言いに、今まで黙っていたレンは重々しく口を開こうとした。

どうしてそう言えるのですか、と。そう言おうとした。

然れどもその言葉が吐き出される事はない。自分も心の中でそう確信していたからだ。

あの人物がただで死ぬはずがない、と。


「悪いが私個人で、或いは貴殿達の力を借りても竜を屠る事は不可能と断定する。ならば我々が行うべきは」


「召喚者の排除、ですわね?」


「そういう事だ。召喚士を相手にする場合、最も基本的な戦略だろう」


その言葉と共にオクスは白銀の義手を握り締め、サラは銃を担ぎ出す。

明らかに空気の変わった二人を前に、レンは小さな尾の毛先をピンと怯え立たせた。

二人の恐怖を感じて、同時に何処からか感じる殺気を思って。


「さて、オクスさん。行きますか」


「嗚呼、行こうか。……召喚士退治に」



読んでいただきありがとうございました

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