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獣人の姫  作者: MTL2
魔法石の暴走
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クグルフ国への道中にて

【荒野】


「えーっと、これで良いんですか?」


サウズ王国領域とクグルフ国領域の間にある、名も無き荒野。

そこには一つの獣車が止まっており、その周りには四人の人影があった。

人影はそれぞれ二つずつに分かれており、片方は固まって、片方は少し離れて位置取って居る。

固まった方の人影はメイドとファナで、少し離れた方の人影はスズカゼとメタルだ。

メイドの手にはお茶やクッキー等の食べ物があり、彼女はそれをファナと協力して用意している。

一方、スズカゼとメタルは少し距離を取って、互いに向き合っている状態だ。


「それで良い。よーし、始めるぞ」


メタルの持つ魔具が輝き、何もない空間から二本の木刀が出現する。

その木刀は非常に簡素な物で、見るからに安っぽい。

だが、スズカゼは得に何を言うでもなくそれの一本を受け取って一回、二回と素振りする。


「……悪くはないんですけど、雑な作りですね。振りやすさとか形状の美しさとかがない。ただ頑丈なだけで……。これじゃ、丸太の方がマシですよ」


「フッフッフ。それで良いんだよ! 俺は毎度のこと武器をぶっ壊しちまうからな! 頑丈なのが一番なんだ!!」


「……それは、どうして?」


「いや、単に武器が脆」


「ほう?」


メタルの言葉を遮って、スズカゼはにこやかに笑む。

いや、にこやかに、というのは語弊があるだろう。

それはただ冷悪に、冷徹に、冷淡に。

嘗てのファナのような非常に冷たい笑みだった。


「何はともあれ、ジェイドに頼まれてるからな。訓練するぞ!」


黒尽くめの件もあって、ジェイドはスズカゼへの授業内容に戦闘訓練を追加した。

彼女は剣道による経験で、ある程度の戦闘力こそあれど、それは所詮のところスポーツの域を出る事はない。

ならばそれをより昇華させる為にとジェイドが提案したのが戦闘訓練である。

だが、流石にジェイドの居ない国外で素振りでもしていろと言うわけにもいかず、武器の扱いに心得のあるメタルへと訓練を委託したのだ。

前回の歴史授業と似たような物だが、今回はメイドの補助がない事が異なるだろう。

そしてスズカゼが酷く冷たい表情だという事も。


「所で提案なんですけど、三本勝負にしませんか?」


突然の、スズカゼの提案。

彼女は本来ならば勝敗のない訓練に、勝ち負けを付けようと言い出したのだ。

しかも三本勝負という、実戦ではない、訓練形式で。


「良いけど、死ぬなよ?」


「えぇ、勿論。はい」


メタルの得意げな笑みに対し、スズカゼは健気な微笑みを返した。

訓練後の休憩のために紅茶を用意するメイドから見れば、それはとても微笑ましい光景だっただろう。

しかし、彼女の作業を手伝うファナからすればそれはどう映ったのだろう。

余裕そうに笑む男と、殺意を充満させた笑みを見せる少女。

その二人の姿は、どう見えたのだろうか。




「えー、三本勝利で私の勝ちですね!」


地面に突っ伏したメタルと、そんな彼に木刀を突き立てるスズカゼ。

勝負は非常に速攻で片が付いた。

と言うのも、一本目はスズカゼがメタルの木刀を弾き飛ばして勝利。

二本目はメタルの面に一撃を入れて勝利。メタルは動く事すら出来なかった。

三本目はメタルから飛び掛かり、カウンターよろしく胴に一撃。

因みにだが、これらの勝負時間は総計で五分以下である。


「……何でそんなに強いの」


「四国の鬼神とは私のことです」


「シコクって何処だよ……、グフッ」


「そもそもメタルさんは武器の扱いが雑過ぎなんですよ! 強度どうこうの問題じゃなくて、扱いが雑だからすぐ壊れる!! 道具は大事にしなさい!!」


「訓練してると思ったら説教されてます……。どうしてこうなった」


「武器ってのはそもそも使い捨てじゃないんですよ!? 相棒的存在としてですね!!」



「……説教が終わりそうにない。先に食べた方が良い」


「も、もう少し待ちましょう? ね?」



【クグルフ荒野】


「……で? 結局、十本勝負でも勝てなかったんですか?」


ガタガタと揺れる馬車の内部に、女性の声が響く。

呆れ気味に肩を落としたメイドの前には、にこやかに微笑むスズカゼと椅子に顔を埋めるメタルの姿があった。

結局あの後、メイドが止めるまで十本ほど勝負を行い、メタルは全敗。

スズカゼは苦戦どころか息切れする様子すら見せていなかった。

筋力は遙かにメタルの方が上なのだろうが、技術に差があり過ぎるのだ。

これでは訓練どころか、ただのサンドバック殴りである。


「と言うか、メタルさんが諄く食いついてくるせいで私のお菓子がなくなったんですけど。どうしてくれるんですか」


「それは全部食ったファナに言えよ……」


「それはそうですけど……。……あ、そう言えば」


「何だ?」


「メタルさん、武器バンバン出してますけど[武器召喚士]なんですか?」


先程の訓練でもゼル邸宅での勘違いの一件でもそうだ。

メタルは腕輪の魔具を使用して様々な武器を出していた。

その光景を見てスズカゼが思い出したのは、暴動時の時に遭遇したバルドの事である。

彼も[武器召喚士]であり、手元に武器を召喚させたり消えさせたりとさせていた。

別にだからどうだという事ではないのだが、スズカゼは興味本位でそれを聞いたのである。

そうでなくとも、何かそのジョブの利点などを知っているかも知れない。

もしそれが自分に合ったジョブならば学んでみるのも悪くないかもーーー……。


「いや、違うけど」


「違うんかいっ!!」


「だって俺のは魔具から取り出してるだけだし」


彼はぶらぶらと手首を揺らし、そこにある腕輪をスズカゼに見せつける。

灰色のそれは獣車の窓から差し込む光に反射して、美しい輝きを放つ。

見る上では普通の、ブレスレットと言うよりはミサンガに近いかも知れない。

灰色と黒が編み込まれたそれはメタルの髪色と酷似しているようにも見える。


「[アビスの腕輪]。何でも仕舞える優れものだ」


「そこから武器を召喚してるんですよね?」


「おう、そうだ」


「だったら[武器召喚士]なんじゃ……」


「[武器召喚士]というのは武器を異空間で生成し、召喚するジョブの事ですね。彼のはあくまで倉庫から武器を取り出しているだけに過ぎませんから」


「割と境界は曖昧だぜ? 異空間から召喚するから召喚士だー、とか言うヤツも居るし」


「そ、そうなんですか……」


結局、何処の世界でも曖昧な物は存在するという事だろうか。

何処か悲しい物を覚えて、スズカゼはこっくりと小首を落とす。

個人的に、この世界に対する憧れがあったのだろう。

異世界召喚された先はファンタジー溢れる世界でした、と。

少し夢物語を見ていた気分になっていたのだろうが、それでもこの世界の実情を垣間見たことで少し意気消沈してしまう。

いや、自分の妄想故の結果だという事は重々承知しているのだけれども。


「どうかしましたか?」


「あ、いえ。何でも」


「こ、この魔具はやらんぞ!!」


「いや、要りませんから……」


「要らないって何だお前! 馬鹿にしてんのか!!」


「面倒くせぇえええええええええええ!!!」


ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人を横目に、メイドのもたれ掛かる壁にこんこんとノックする音が鳴り響く。

それは獣車を操縦するファナからの物であり、同時に到着の意でもある。

そう、遂に到着したのだ。


「皆さん、着きましたよ!」


サウズ王国ほどではない、小さな城壁に囲まれた国。

遠目でも解るほど緑豊かなその国こそが今回の目的地。


「クグルフ国です!」



読んでいただきありがとうございました

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