森の痴女
「……あの、リドラさん」
「何だ……」
「前回の苦労って、何なんでしょうかね」
「私に言うな。言ってくれるな」
彼等が歩く大森林。
嘗て包帯の塊とかしていたスズカゼを連れたリドラ一行が入った時はとんでもない苦労の上で漸く[森の魔女]の元へと着いた物だが。
今回に至ってはあの時のような木の根で作られた凹凸の道でもなく、苔で覆われた泥濘の道ではなく。
大鳥が襲ってくるような危険な道ではなく、触手に絡め取られるような異端な道ではなく。
様々な生物、触手、木々が道を作り、道端の小石ですら取り除くほどの大御所待遇。
汗すら掻かないように鳥達が羽で風を送るほどだ。前回の苦労など嘘のように、とんでもなく綺麗な自然道……、基、自然で作られた道なのだ。
「良い趣味だな、この道は」
「ジェイド、メイアウス女王が居るからだ。もし居なければスズカゼ以外は襲われているぞ」
「何者なのだ、いったい……」
ここら全ての生物が道を作っている。数は数百、数千を超えるだろう。
妖精含め精霊もちらほら。全てを操るには何百人何千人という召喚士が必要となるはずだ。
それを、一人でこんなに精密に操るなど有り得ない。
[森の魔女]とは何者だ? それこそ、四天災者に迫るのではないか?
いや、未だ四天災者の全力を直前で体感した事のない自分が連中を推し量るなど愚行だろう。
尤も、その推し量る機会など来ない事を祈るばかりだが。
「あと数分ね」
「前回の数十分の一で到着しそうだな……」
再び前回の苦労は何だったのか、とリドラは大きくため息をつく。
間もなく木々の間より見えてきたのは小さな木造の家だった。
前と来た時よりは少し庭にある畑の様子が違っているように思う。
違いと言えば精々それぐらいで、庭にあるベルですら前と同じで汚れているようにも見えない。
「まさか磨いてるんですかね、あのベル……」
「訪問者も滅多に来ないだろうにな……」
メイアは彼等の言葉に同意するかのように首を振り、ベルへと手を掛ける。
そのベルを鳴らす事を躊躇うように一瞬の停止を見せた後、彼女はそれを小さく左右に揺らした。
「結構、微妙な時間ですけど起きてますかね」
「……起きてないと、良いわね」
彼女がそう呟いた直後、木造の扉は破られんがばかりの勢いで開かれる。
振り返ったリドラの視界に映ったのは白い影。緑地の上を影すら残さない速度で疾駆する白い影。
アレは何だ、と彼が声を出すよりも前に、その白い影はメイアの胸元へと飛び込んでいた。
「むっっはぁああああああああ! メイアたん! メイアたん!! むふぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!! おっぱいおっぱい!! 物凄く大きい訳じゃないけど小さすぎる訳でもない美乳うほぉぉおおおおおおおおん!! スハスハスハスハァ!! 良い匂いぃいいいいいいいいいん!! すべすべお肌つるつる美味しいのぉおおおおおおおおおおおおおお!! 衣服にもメイアたんの香りが染みついてもちゅもちゅ食べちゃいたいよぉおおおおおお!! 髪の毛サラサラなのぉおおおおおおおおおおおおお!! 良い匂いがいっぱいいっぱいぃいいいいいいいいいいいい!! もっとぎゅっとしてぇえええええええええええええええええ!!! ほっぺたぷにっぷになのぉおおおおおおおおおおおお!! ちゅーしたいのちゅー!! お尻はむちむちなのぉおおおおおおおおお!! 顔埋めてぐりぐりしてスハスハしたいよぉおおおおおおおおおおおおお!! もっともっとメイアたんとイチャイチャラブラブチュッチュクリクリしたいのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
〔……万物詠唱の元に〕
「待て女王! 上級魔術を詠唱するな!! 思い止まれぇええええええ!!」
《森の魔女の家》
「緑茶で良いかしら」
顔に焦げ痕を作った少女は満面の笑みでメイアへと語りかける。
他の面々など知った事ではないと言わんばかりに無視。スズカゼの前には茶菓子が出ているが、他の面々の前には何も出ていない。
ジェイドはリドラに対し、この扱いの差はいったい何なのか、と言うかあの小娘が森の魔女なのか、そもそもあの姫すら上回る変態さは何なのか、と問う。
対するリドラはジェイドに、この程度はまだマシだ、あの小娘が森の魔女だ、変態さに対しては言及してくれるな、と答える。
「その、何だ。帰って良いか」
「駄目だジェイド。この非常識人共の中に私を置いて行くな。お前も道連れだ」
「貴様、その為に俺を連れて来たのか!?」
「メタルは逃げるしゼルは連れてきたら胃に穴があく。残った男がお前しか居なかったのだ」
「デュー・ラハンは!? サウズ王国に帰る前に寄っただろう!」
「外部の人間など連れて来れるか……」
「そ、それはそうだが……」
とんでもない事に巻き込まれた、と再認識しつつ、ジェイドは部屋の中を見渡してみる。
目に映るのは綺麗な本や家具といった、ごく普通の物ばかり。
魔女という呼び名とは反して、これではまるでただの別荘ではないかと思う。
はたして、変態さ以外にどの辺りが魔女だと言うのか。
「あ、そう言えばメイアたん。生える実験成功したんだけど、見る?」
徐に服を脱ぎ出すイトーとそれを拒否するかのように上級魔法を詠唱するメイア。
彼女の攻撃ならば大歓迎と身を悶えさせる魔女を前に、ジェイドはある事に気付く。
「……[森の痴女]?」
「ジェイド、大抵合ってるけど言うな。言ってくれるな、現実を見たくないから」
「手遅れだろう、既に……」
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