もう一人の旅仲間
「これが、妖精?」
ふよふよと空中で揺らぐ一匹の妖精。
火の妖精であるそれは周囲を興味深そうに見渡し、やがて自らの身具合を確かめるように空中を泳ぎだした。
その妖精が泳いだ後には仄かな灯りが揺れ、正しく火の粉の舞とでも言うべき姿だった。
「……っ」
それを不思議そうに眺めていたスズカゼとは違い、ファナとメタルが目を丸くしてそれを見ていた。
正しく言葉も出ないと言った状態で、彼等はその妖精を呆然と眺めているのだ。
「……フフン?」
なるほど、と。
スズカゼはその状況を一瞬で理解した。
恐らく妖精召喚にしろ精霊召喚にしろ、非常に高度な物なのだろう。
それを一度で成功させた、この私に驚き戦いているのだ。
「フッ……」
華麗にドヤ顔を決めるスズカゼ。
才能溢れ過ぎる自分が怖いほどだ。
あぁ、余りに天才過ぎて彼等が言葉を失ってしまっている。
「「…………」」
彼女は気付いていなかった。
二人がその精霊に向けている視線が感嘆や驚愕のそれではない事に。
いや、ある意味では驚愕の視線だ。
「「…………小さっ」」
何せ、その精霊のサイズは通常の二分の一以下なのだから。
「えっ」
「いや、小さ過ぎだろ。何だ、それ」
「通常でも特殊でない限り人の頭ほどはある。だが、それは拳ほどしかない」
「かと言って特殊な魔力がある様でも無し……。単に魔力不足で召喚しちまったようにしか見えねぇぞ」
「え? いや、精霊召喚って難しいとか、そういう……」
「「子供でも出来る」」
目頭が熱くなってくる。
あ、涙出てきそう。
「……しかし、妙だな」
始めに疑問を口にしたのはメタルだった。
だが、彼だけでなくファナも同様に眼を細め、怪訝の視線を妖精へと向けている。
妖精はそんな事を気にせずにただ自由気ままに飛んでいるようだ。
「俺、お前に怒鳴ったろ? 止まれ、って」
「え、えぇ。はい」
「魔力を込めすぎてたんだよ。あのままじゃ、件の魔法石の暴走と同じ事になっちまうからな」
「……さっき、魔力不足って言ってませんでした?」
「だから妙、だ。ホントなら精々、暴走して制御の効かなくなった精霊かやたら肥大化した精霊が出てくるようなモンだが……」
「だが、出てきたのはこんな出来損ないの妖精。話にならないな」
「そこまでボロクソに言わなくても……。あの、何が原因なんですか?」
「知るか! こんなの今まで見た事もねぇよ!!」
メタルはぶっきらぼうにそう言い放った。
本当に彼も今までこんな現象を見た事が無いのだろう。
彼はその妖精を目で追うだけで、それ以上の言葉を落とす事はない。
ファナも同じで、スズカゼの周囲を楽しそうに舞う妖精を物言わずに見ているだけだった。
「……うーん、解らん」
「元から貴様のような人間に期待はしていない」
「なぁ、この女、辛辣すぎるんだけど。涙出てきそうなんだけど」
「解らないでもないですけど……。……と言うか、これどうするんです?」
「小さくても妖精は妖精だからなァ。護身代わりに持っとけ。仕事終わったら返して貰うけどな!」
「あ、やっぱり返すんですね……」
取り敢えず、妖精召喚の一件はこれで片が付いた。
この問題を続けても原因が解らない限り時間の無駄でしかない。
そもそも、それを言ってしまえばトゥルーアの宝石の一件もある。
リドラですら解らなかった事をここに居る者達が解るはずもない。
「えーっと、妖精の話で大分飛んだな。何処まで話したっけ?」
「クグルフ山岳での一件が説明し終わり、それでスズカゼに護身用の物を渡す所までだ」
「あー、そうだったな。しかし、護身用のモンなんてそれしか持ってきてねぇぞ」
「護身なら私の役目だ。問題はない」
「いや、今回のは人手が欲しいらしいからなァ。……あと一人、誰か居ないか?」
彼の言葉でスズカゼとファナの脳裏に過ぎった人物。
スズカゼはジェイド。ファナはゼル。
そして彼女達の脳裏に次に浮かんだ人物。
スズカゼはゼル。ファナはリドラ。
さらに最後に脳裏を超していった人物。
スズカゼはハドリー。ファナはバルド。
「「……いや」」
しかし、彼女達はそれら全てに頭を捻る。
ゼルは王国騎士団長という立場で、本来行くはずだった人物だ。
しかも騎士団を率いずに単独で行くというのは少し都合が悪いだろう。
ジェイドとハドリーは獣人だ。
ファナを連れて行けば間違いなく問題が起きる。
それが小競り合いにしろ、そうでないにしろ、問題を起こす事が問題だ。
ではリドラとバルドはどうか。
リドラは一件、問題無いようにも見えるがそうではない。
国家お抱えの鑑定士である彼だ。魔法石という非常に希少な物である事を考えればクグルフ国から睨まれかねない。
かと言ってバルドは論外だろう。
彼のような国城守護の要を連れて行く訳にはいかない。
「「…………むぅ」」
では、他に誰を連れて行くというのか。
ゼルもジェイドもハドリーもリドラもバルドも駄目。
スズカゼとファナは頭を捻って考えるが、どうにも浮かばない。
「あー、何なら戦闘なら俺が補助するから。クグルフ国は今じゃ件のせいでかなり貧困してるんだ。そういうのを補助できるような人間でも良いぞ」
「「……あっ」」
スズカゼとファナは即時的に一人の人物を思いついた。
先程は全く思い浮かばなかった人物だ。
だが、彼女等はそれを同時に、そして一瞬で思いついたのである。
「……あ、居た?」
「居ました!」
自信満々に答えるスズカゼ。
そんな彼女の言葉に同意するようにファナも頷いており、メタルは満足そうに頷いて小さく笑みを見せる。
彼は手元にあった漆黒の衣を身に纏い、そして立ち上がった。
「それじゃ、迎えに行こうぜ。あと一人の旅仲間をよ」
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