四天災者は同族を語る
《南部・大通り》
「……メッチャ爆笑されましたね」
「まぁ、そうでしょうね」
喉が裂けるのでは無いかという爆笑を受けてから早数十分。
取り敢えずの承諾を受けたスズカゼとメイアは会合を終えて南部の大通りを帰路としていた。
行きとは違って人影もちらほら。どうやらこの数時間である程度落ち着いたようだ。
この対応力の速さはギルドという組織の規模故だろう。割と率直に凄いと思う。
「おっかしーな……。現世じゃ毎日数万人以上が利用するのに……」
「何か言った?」
「い、いえ、何でも。それにしてもそんなに悪いアイデアでしたかね……」
「悪くはないと思うわ。仕事を紹介するなんて考えつきもしなかったし。確かに人手が足りていないのなら人手を作るために仕事を紹介すれば良い。……成る程、中々考えてるじゃない」
「は、ははは……。サウズ王国でも採用したり……」
「しないわね。サウズ王国は別に目立って人手が足りてないわけじゃないし、そういう者を取り入れるのは[元]を壊しかねないのよ」
「……[元]ですか」
第一街、第二街、第三街。
恐らくはこのシステムのことだろう。
第三街に獣人や犯罪者を排出するというこのシステムは自身の存在にてある程度はマシになったと思う。
それでも、メイアの言葉からして未だに彼女の中にはそのシステムを利用する気はあるという事だ。
ハローワークのように仕事を紹介するようなシステムを使えば、間違いなく最も利用するのは第三街の住民だ。
そして、人手を欲するのは第二街と第一街の住民だろう。
……未だ獣人差別がある第二街や第一街に彼等を向かわせたくないという意思は解る。
だが、メイアはもっと別の意味でそう言ったのだろう。
「あの、メイア女王」
「何かしら」
「メイア女王はどうして……、第三街を作ったんですか?」
「それが国だからよ」
迷うことも無く、メイアはそう答える。
スズカゼは恐る恐る彼女を見上げたが、その瞳にも迷いは無かった。
本気で言っているのかなど、無駄に等しい問いだ。
彼女の言葉を聞けば、目を見れば、必然的に解る。
「獣でも階級を作るわ。人は階級を作る上で役目を作り、役目を作る上で協同的に生き、協同的に生きれば国を成す。なれば獣人の役目は壁、我々の役目は頭となること。……解る?」
「解りたくないです」
「言うようになったわね、スズカゼ・クレハ。嫌いじゃないわ」
微かな笑みを浮かべ、メイアの瞳色は再び元に戻る。
いや、或いはこの瞳の色こそが作られた物なのかも知れない。
普通に話して居れば彼女がただの人間に思えてしまう。ただの女王に思えてしまう。
四天災者などという、化け物には思えなくなってしまう。
「メイア女王……、四天災者は、どんな人なんですか?」
「あら、どういう意味かしら」
「あ、いえ……、特に意味はないんですけど、興味本位で」
「……そうね。敢えて言うなら馬鹿の集まりよ」
「馬鹿て」
彼女の口端はいつの間にか緩んでいた。
先の微笑みとは違う、本当に、楽しむように笑っているのだ。
四天災者の事がそんなに楽しいのだろうか? いや、それとも数少ない同類のことを語るのが楽しい……?
……流石にそれは無いと思う。
「[灼炎]には貴女も会った事はあるわね。あの男は武骨で目的以外には目もくれない厄介な男よ。軍戦略上は四天災者内でも随一ね」
「多数戦では強い、って事ですか」
「まぁ、そういう事よ。[断罪]は温和だけれど、あの男ほど敵に回して面倒な男は居ないわ。支援系能力に置いては四天災者内で最高よ」
「……そう言えば[断罪]のあの方って、獣人なんですよね。何で魔法が?」
「大量の魔法石と魔具を有しているわ。それら全てを使用できる許容量こそ彼が四天災者たり得る所以でしょうね」
「成る程……」
「私は、[魔創]はそうね。魔術魔法を放つだけよ」
「は、ははは……」
等と言っているが、実際は国一つ吹っ飛ばすレベルの、だ。
その時点で並の魔術師は凌駕するし、一流や二流すらも遙かに超えるだろう。
国を吹っ飛ばす、というのすらも控えめな表現なのだと思う。
「で、あの、まだ会った事ないんですけど[斬滅]は?」
「……[斬滅]、ねぇ」
その時、彼女は初めて困惑の色を見せた。
四大国首脳会議でも姿を見せなかったその人物。何処の国にも属さず、未だ話でしか聞かないような四天災者その人だ。
いや、正確には人か獣人か、男か女なのかすら解らない。
[斬滅]は斬って滅すると書く事からしても、かなり攻撃的な人物なのだろう。
メイアが口籠もる事からしても、かなり危険な人物だと思うが……。いや、同じ四天災者のメイアが口籠もる時点で[かなり]等という言葉は甘ったるい程なのかも知れない。
「その人は、どんな」
「会わない方が良いわ。[灼炎]は厄介だと言ったけれど、[断罪]が面倒だと言ったけれど。あの男はそんな次元じゃない。会えば、終わりよ」
「会えば、って……」
思わず口元が引き攣ってしまう。
メイアにここまで言わしめる人物は、果たしてどんな化け物だと言うのか。
思考を張り巡らせるスズカゼは恐怖に心底を振るわせて助けを求めるようにメイアを見るが、彼女は未だ困惑の色を消し切れては居なかった。
「……会わない事が一番なのよ。[斬滅]とはね」
彼女は言葉を濁しながら、少し歩行速度を上げて綺麗な道を歩んでいく。
道行く者達は彼女の風に揺れる長髪の香りや美貌に振り向くが、その表情を見るなり怪訝そうに眉根を寄せる。
その、困惑に染まりきった表情を見れば。
彼等の怪訝も、当然なのかも知れない。
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