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獣人の姫  作者: MTL2
魔法石の暴走
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召喚魔法石

「それで、用件は何だ」


記憶喪失について適当な事を喋り続けていたスズカゼ。

それを信じて興味深そうに聞いていたメタル。

そんな二人のせいで一行に進まない会話に痺れを切らし、遂にファナは眉根を寄せてその言葉を述べたのである。


「お、忘れてたわ」


男は本当に忘れてたのか、ファナの言葉に反応してから暫く何も言わずに固まっていた。

それから数分して、漸く思い出したかのように人差し指を立てて、にやりと笑んだ。


「サウズ王国から少し離れた場所にある、クグルフ国っつー所がある」


「何? ぐーぐる?」


「そんなグルグルみたいな名前じゃねぇ。クグルフだ」


「……サウズ王国じゃない、国」


「外に出るのは初めてか?」


メタルの問いに、スズカゼは戸惑いながらも首肯した。

とは言っても彼女が居たのはサウズ荒野。

本来は王国外領地であれど、国の外ではある。

それが彼女の戸惑った理由という事だ。


「まぁ、良い。それでな、その国である事件が起きた。小さな事件だ。本来ならその場で解決されて犯人共が取っ捕まえられて、終いな事件だ」


「それはどうでも良い事だ。本質はそこではない……。そうだろう?」


「その通り」


差し込まれたファナの言葉。

メタルは彼女越しの壁に指を差すかのように人差し指を立てて、再びにやりと笑んで同意した。

夜遅い、静寂の中に沈む空間。

そんな中で行われる妙なやり取りの中で、何も理解出来ていないのはスズカゼだけ。


「……つまり?」


結果、言える言葉はそれだけだった。

くぐるふ、という聞けば何でも答えてくれそうな。

正しくは検索すれば何でも答えてくれそうな先生の名前のような。

そんな国名の国で起きた小さな事件。

どうやら、今回はそれが原因のようだ。


「その小さな事件ってのは、魔法石の無断発掘だ」


「……クグルフ山岳にある洞窟は魔法石が発掘出来るのだったな。それを無断発掘した馬鹿共が居る、と」


「そういう事だ。……それで済めば良かったんだよ、それで済めば」


何処か苦笑するような表情となったメタルは、腕を組んで小首を落とす。

今度はファナまで何があったか解らないように、何があったと言葉を続けた。


「その魔法石ってのが召喚魔術系統の媒体になるモンだったんだが……」


「……召喚特化の石、とでも?」


「おう。かなり珍しいだろ? これが原因で大変な事になっちまってな」


「焦らすな。何があった」


「まぁ、聞け。その場で採られていた魔法石ってのはその魔法石の欠片だったんだよ」


「欠片、ですか」


「あぁ。その召喚魔術系統の媒体となる魔法石は通常の数十倍はあるデカさだ。そこから長年を掛けて少しずつ、少しずつ、剥がれた魔法石が山岳に現れて、それをクグルフ国の採掘人は採ってたわけだ」


「それを盗賊団の奴等が一気に採ってな。それでも足りねぇと洞窟内を爆破し……、大本のそれを掘り当てちまった」


「それに何の問題がある? 今までよりも採掘しやすくなっただけの話だろう」


「言っただろ? それで終われば問題は無かったんだよ。……盗賊団が使ったのは爆薬じゃねぇ。魔法だ」


その言葉でファナも何があったか理解したのだろう。

彼女は見た事も無い盗賊団に対して侮蔑に口を歪ませながら、椅子に深く腰を沈め込んだ。

メタルも彼女と同様にため息を吐きながら頭を抱え、俯いてしまう。

相変わらず何があったかを理解出来ないスズカゼはそんな二人を前にして、ただ困惑する事しか出来なかった。


「えーっと……、魔法が使われると、何かマズい事が?」


「魔法石とは魔術を凝縮した物だ。それに魔法という魔力を与えれば内部から暴発する事となる」


「本来のデカさなら、ほぼ意味はねぇ。水の入った器に水滴が一滴は言ったとしても、大して変わらねぇだろ?」


「え、えぇ、はい」


「だが盗賊団の馬鹿共がやったのは、その器に注げるだけの水を注いじまったっつー事だ」


「……そんな事したら」


「溢れちまう。……そして、その魔法石もそうなっちまったんだ」


「壊れちゃった、とか?」


「いンや。逆に暴走したんだよ」


メタルが言うには。

トゥルーアの宝石のように、魔法石には一定の能力がある。

それは魔法石によって様々だが、件の魔法石は召喚系統。

即ち妖精や精霊を召喚する為に使用される物らしいのだ。

魔法石の大きさからしても件のそれは通常の数十倍の効果があるらしい。

ここまでは良い。だが問題は盗賊団がそれに大して渾身の魔法の一撃を浴びせた事にある。

その魔術に呼応して魔法石が暴走。結果としてーーー…………。


「大量の妖精と精霊がクグルフ山岳を占拠しちまったんだ……」


そう、今回の件で最大の問題がそれである。

魔法石の暴走により主なき妖精と精霊がクグルフ山岳を占拠してしまったのだ。


「危ないなら近寄らなきゃ良いんじゃ?」


「そうも言ってられねぇんだよ。クグルフ山岳がクグルフ国に近いからってのもあるんだが、何よりクグルフ国を支えてんのは魔法石の採掘業だ」


「サウズ国もその手の関連から友好的な関係を築いている。同盟こそ結んではいないが、今回こちらに助けを求めに来たのもそういう理由からか」


「おう、その通りだ。本当はゼル達を駆り出すはずだったんだが……。メイア曰くスズカゼに任せてみなさい、だとよ」


「何で私が!? ……あっ」


否定しかけた彼女の脳裏に蘇る、メイアへと切った大見得の数々。

それも国のトップにナイフを突き付けながら、だ。

確かにこちらの提示した条件は認められた、のだが。

その際に提示した条件としてゼルが付与した物。

メイアの依頼を請け負い、解決するという条件。

それが今回、適用される事となったのである。

流石にこれで断れるはずもない。

スズカゼはガックリと頭を項垂らせた。


「……でも、どうして私なんですか?」


「外交的な意味もある。地位のある人間が向かえば相手方も安心するし、こちらの名も売れる」


「そういう事だ。お前が行く事に何ら問題はないぜ」


「……いや、私、そんな妖精とか精霊が溢れかえって暴走してるような所に行っても何すれば良いんですか? 私、ごく普通の女子大学生ですよ?」


「ダイガクセイ? ……何のジョブか知らねぇが、戦闘は出来ないと?」


「まぁ、はい……」


どうにも言葉が通じる通じないの差に違和感を感じてしまう。

ある程度の言葉は覚えてきたのだが、それでも現世に居た頃の癖は抜けないようだ。

編集者を目指していた物だから、ある程度の言葉は使い慣れるのに早かったのだが……。


「そんなお前にコレだ」


メタルが自信満々に取り出したのは、小さな指輪だった。

恐らく年相応性別相応に細いファナの指でも中指には入らないだろう。

剣道をやっていたスズカゼなら尚更で、どうにか人差し指に入るだろうという程に小さい物だ。


「これは……」


それを受け取ったスズカゼの目に映ったのは、炎を閉じ込めたような赤色だった。

指輪の宝石部分に着いたそれは、正しく燃え盛る火が如き色。

まるでその宝石の中で火が灯っているかのようにすら思えるほどの緋。


「火属生の妖精を召喚する魔法石の指輪だ。[ファイムの宝石]だな」


「ふぁいむ……、ですか」


「使霊を召喚して見ろ」


「へ?」


「それはさっき話に出てきた補助じゃなくて、妖精が封じ込められた魔法石なんだよ。だから使霊召喚が出来る」


「……いや、やり方とか知らないんですけど」


「眼ぇ閉じろ」


「え?」


「良いから」


スズカゼは戸惑いながらも、彼の言う通りに瞼を閉じる。

瞼の裏にチカチカと形容しがたい模様が浮かび、消えていく。

そんな光景とも呼べない黒の中で、彼女はメタルの言葉に耳を澄ませていた。


「ファイムの宝石を指に填めろ」


小さな指輪はどうにも人差し指に入りにくい。

とは言え、小指は痛そうだし、死んでも薬指などには填めたくないので、意地で人差し指にねじ込んだ。

そうすると、何故か人差し指が仄かに温かく感じる。


「そしたら、指先のそれに意識を集中させるんだ。イメージ的には、そうだな。剣術やるんだろ? だったら剣先に精神を集中させるのと同じ要領だ。何もないところに意識を集中させろ。体の一部だと思い込むんだ」


彼の指示は的確だった。

確かに、指が腫れた……、とは少し違うが、指先に自分の一部があるような感覚がある。

集中を途切らせるとすぐに消えてしまうが、それでも確かにその感覚はある。


「意識を集中して……、力を込めろ」


自然と、その指輪には器のように自分の力を注ぎ込める感触があった。

己の力が吸い取られていくのが解る。

こう、体の中から空気が抜けていくのに近い感触だ。

指先の指輪という穴から、全身の血管にある空気が吸い出されるような感触。

そして襲い来るのは何とも言いしれぬ脱力感。


「止まれ!!!」


だが、彼女のそんな感覚を止めたのは自身ではなくメタルの叫び声だった。

いいや、それだけではない。

指先を焼き切られたかのように、熱い、灼熱の火。


「熱ーーーー……っ!?」


思わず指輪を放り投げそうになるが、その痛みは一瞬で無くなった。

いや、無くなったというのは少し違うかも知れない。

内部へと吸い込まれるように、その痛みは消えたのだ。


「…………ん?」


だが、彼女の意識は最早、痛みどうこうの部分にはなかった。

額の先辺りに、何やら暖かい感覚がある。

例えるならば暖炉に額を近付けたような、そんな感触。


「……何これ」


そこに居たのは火だった。

言葉としてはおかしいが、実際にそうなのだ。

何と言うか、灯火の人形とでも言おうか。

灯火の中に小さな瞳が二つと、小さな手足が計四つ。

その姿は正しく妖精。

それこそがファイムの宝石より生まれし、火の妖精だった。


読んでいただきありがとうございました

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