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獣人の姫  作者: MTL2
傲慢なる王の誘い
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傲慢の待つ元へ

「少しお待ちを」


ヌエの声でスズカゼ達は立ち止まり、彼女が入っていった扉へと視線を集める。

その扉は他の物とは逸脱して豪華であり、木材の香りも何処か重圧的だ。

彼等はこの部屋こそが、と確信し、喉奥へ感触が確かに伝わるほどの生唾を呑み込んだ。


「ここが、か」


「ん? ニルヴァー、お前はギルド所属なんだから知ってるはずだろ?」


「いや、フレースはともかく、俺は入りたての新入りだ。ギルド統括長ともなれば、そう人の前に姿を晒すことは多くない。俺は部屋の位置所かギルド統括長の姿すら見たことは無いな」


「へぇー、そうなんですか。フレースさんは?」


「ひっ……。わ、私は何度か謁見した事はありますね……」


「敬語なんて使わなくても良いのに」


フレースの尻をなで回しながら、スズカゼは残念そうに肩を落とす。

流石にそろそろ止めようかとメタルが慌てだした頃、彼等が視線を集めていた扉は重圧な音を立てて開いた。

中から出て来たのはヌエであり、彼女は後ろ手で扉を閉めてスズカゼ達の前に立つ。


「申し訳ありませんが、スズカゼ様以外はここでお待ちを。ギルド統括長は彼女だけをお呼びです」


「お、おいおい。そりゃねぇだろ? 俺達は一応、護衛っつー名目で来てるんだぜ?」


「そうは仰られましても、込み入った話だそうですので。護衛とは言え外部の人間が聞くべき事柄ではありません」


「聞くべき事柄ではありません、ってお前……」


「それに、貴方達が居たとしても護衛の意味を果たすとは思えませんね」


その一言に、ファナは組んでいた腕を解いてヌエへと魔術大砲を向ける。

放ちこそしなかったが、撃てばヌエの頭を穿つだろう。

尤も、当の本人は一切動じる様子は無いのだが。


「良いんじゃないですか? メタルさん。別に戦いに行く訳じゃないし」


「いやいや……」


「ま、どうせ話だけでしょう。のっそりやってきますよ」


ヌエに連れられ、彼女は躊躇う様子もなく室内へと入っていった。

その時に[魔炎の太刀]を取り上げられなかったという事はヌエの言葉は大凡、的を外しているという訳でもないようだ。

だが、スズカゼはそれを理解した上で躊躇無く入っていったのだ。


「大丈夫なのかよ……」


「そう容易く死ぬような人間ではあるまい」


「いや、そりゃそうだけども」


「……舐められた物だな。私ではスズカゼを守るほどの力も無いと言うか」


「いや、あの、俺も居るんだけど」


「黙ってろ暇人」


廊下の隅でしくしくとイジけるメタルを無視し、ファナは再び舌打ちした。

ニルヴァーからすれば、彼女の言う事も尤もだ。話に聞く彼女ほどの実力者からすればギルドの半数を潰す事は容易いだろう。

あぁ、容易い。

そして残り半数が彼女を潰す事も、容易い。


「……妙な考えは起こさないことだ、ファナ・パールズ。貴様も知っているだろうがギルドには荒くれ者や盗賊崩れ、俺のような傭兵崩れが居る。それが半数であり、彼等の目的は主に金稼ぎだ。だが、残り半数は違う」


「残り半数は私のような戦闘や仕事を主とした殺戮集団って訳ね」


フレースの補足にニルヴァーは素直に頷く。

彼女曰く、その半数のさらに半数は一国の兵士と比べても遜色無く、さらにその半数には大国の兵士に及び、その上での半数は大国の精鋭に拮抗し、最後の半数は大国の精鋭頭と拳を交えられる、と。

即ちデューやフレースのような実力者ならばサウズ王国騎士団長のゼルや王城守護部隊隊長のバルド・ローゼフォンと戦えるだけの力を持つという事だ。


「尤も、私はその部分に小指を入れてる程度だけどね。デュー・ラハンだって本気を出した所を滅多に見ないからこの部分に入れて説明してるけどね」


「……それは裏を返せば奴が本気を出さなくても、そこに入れる程の力があるという事か?」


「そういう事だね。私だって条件が揃えばある程度は戦えるけどね」


「ふむ。……奴の相方は、どうなんだ。確か」


「ダリオ・タンターね。彼女も相当な実力者だけど戦闘には余り向いてないって聞くけどね」


「……そうか」


彼女から説明を聞き終え、ファナは唇に指先を這わせる。

有り得ない話ではない。いや、むしろ当然であって然るべきだ。

ギルドは嘗て四国大戦に介入した世界的中立組織であり、現状まで世界的中立組織という立ち位置を守り続けている。

ならば、その介入するだけの、継続するだけの力があるという事だ。

四大国に拮抗できるだけの力があるという事なのだ。


「しかし、フレース。急に元気になったな」


「解放されたからね!」


微かな悲痛さを含みながら、彼女は満面の笑みを浮かべる。

未来の妻の悲しい笑顔を眺めながら、夫になるであろう男は肩を落とした。

廊下の端に縮こまる男、殺気を充満させて牙を剥く少女、何かを達観したように笑う未来の嫁。


「何故、数人加わっただけでこんな状態に……」


嘆く彼の言葉を聞く者は居ても、反応する者は居ない。

たった二人でこの状況だ。先日戦った[闇月]やサウズ王国騎士団長の苦労は計り知れないだろう。

全く、自分はこんな立場にはなりたくない物だ。


「俺だって役に立つもん。ちょっとぐらい役に立つもん……」


「ギルド……。世界的中立組織……」


「あははははは。まさかあの仕事がこんな結末になるなんて思ってなかったねぇー」


尤も、今その立場なのは否定できないが。

速く話し合いが終わってくれないだろうかと切に願うニルヴァーであった。



読んでいただきありがとうございました


作者「そう言えば今日、何かイベントなかったっけ?」

編集「2月14日……、平日じゃないか?」

作者「平日か」

編集「平日だ」

作者「そうかそうか、HAHAHAHAHA!」

編集「まぁ、俺は既にチョコ貰い済みだけどね」

作者「う、うぉぁああああああああああああああ!!」


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