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獣人の姫  作者: MTL2
鉄の王子様
212/876

長机での朝食

《王城・一階》


「買い出し、ですか」


「はい」


スズカゼ、ミルキー、ゼル、ファナ、リドラ、ジェイドの総勢6名により囲まれた真っ白な長机。

その机の上には言うほど豪華ではないが質素でもない、そこそこ豪勢な料理が並んでいた。

彼等はその料理を朝食として食べながら、言葉を交わす。

いや、彼等と言うよりはリドラとミルキーなのだが。


「町への買い出しでしたら、そこの二人に行かせますが」


彼の言う馬鹿二人とは頭に大きな瘤を作って机に突っ伏している少女ことスズカゼと、マナーが今一つ解らず苦戦気味のジェイドだった。

彼等なら実力的にも自衛は問題無いし命令もジェイドが居れば真面目にこなしますよ、とリドラが付け足してもミルキーは首を縦に振らない。


「町への買い出しは民へ会うことも含め、週に一度は必ず行う事なのです。顔を出さないと何があったのかと心配を掛けてしまいますし……」


「だが、事実何かあったではないか。今ここで出て行くのは阿呆のする事だぞ」


ファナの厳しい指摘に、思わずミルキーは口を噤んでしまう。

確かに、こんな状況で外に出ては敵の思う壺だ。

何せ殻で守られている雛が自らそれを破って出てくるような物なのだから。


「ですけれど……」


「……風邪だとか、そんな理由では駄目なのですか」


「うぅん、私、自慢ではないけれど滅多に風邪にならないんです。なったらなったで町中の皆が城を尋ねて来てくれるし……」


「慕われているようで何よりですが、今回はそれが徒になりますな。尋ねてくる民の中に忍び込まれてはどうしようもない」


「そうですか……」


残念そうにミルキーは肩を落とし、リドラは彼女のそんな様子に小さな罪悪感を覚えながら珈琲を口に含んだ。

実際、未だミルキー女王は狙われる立ち位置にあるのだ。

易々と外に出しては危険性が増すばかり。ここは我慢して貰わなければならないだろう。

と、そんな彼の考えを意外な人物が否定する。


「別に、良いんじゃないか」


リドラは思わずその声に驚愕し、目を見開きながら視線を向けた。

声の主、ゼルは食卓の肉を切り分けながら、それに視線を向けたまま言葉を続ける。


「逆に引き籠もっていては相手に余計な勘ぐりをさせるだけだろう。気付かれたんじゃないか、ってな」


「だ、だが、それを上回る危険がだな」


「どの道、このまま放置して置いても来る危険だ。何なら警備の数を増やすか? 数十人の敵か飛び道具ぐらいなら、俺とジェイドが居れば確実に対処できる」


「……ふむ、そうだな。それならば文句はない。ミルキー様の護衛にスズカゼとゼル、ジェイドを付けて町に買い出しに行って貰おう」


「万全の陣形だな」


ジェイドは満足げに頷き、やっと切れた肉を頬張った。

まぁ、フォークで刺してナイフで切るのは諦めたらしく、人を斬る容量で肉を軽く浮かせてから腕の反動で切り裂いたようだが。


「あ、あのゼル様が来るのですか?」


「えぇ、そうですが。……え? ま、まさか、何かマズい事でも?」


「い、いえ。そういう訳では……」


ミルキーの声は言葉尻に窄んでいく。

窄みと同時に顔が真っ赤になっていくのをゼルは見て見ぬ振りをした。

まぁ、昨晩の出来事があれば当然だろう。

それを起こした馬鹿は現在、昨日の拳骨による痛みもあって飯も食えず机に突っ伏しているばかりだが。


「問題はない。それより、私は相変わらず城の警備と周囲の警戒に回れば良いのか」


「あぁ、頼む、ファナ。遊撃隊一つあれば物も変わってくるしな」


「隊というよりは個人だが」


「……ふん」


ジェイドの言葉に鼻を鳴らしながら、ファナはサラダを口へ運ぶ。

彼女は酸味と苦みの混じり合った味に眉根を顰めながらも、それを紅茶で異へと流し込んだ。

どうにも苦手な味だったらしい。ファナがその後、サラダに手を付ける事はなかった。


「買い出しは何を?」


「いつもは執事が買ってきてくれるので、少し書き記さなければなりません。朝食後に書き記すので、少し時間が掛かるかと……」


「そう急ぐことでもないのでしたら、私達は構いません」


リドラはファナが取らなくなったサラダを皿に山盛りにし、ぼりぼりと食べ始める。

酷い猫背の男がサラダを貪るその姿は傍目に見ればまるで妖怪の食事風景だったが、正面に居るミルキーもジェイドも、敢えてそれは言わなかった。


「ごめんなさい、皆様には迷惑を掛けて……。本来ならばギルドにでも依頼して私がどうにかすべき事なのですが」


「まぁ、費用も馬鹿になりませんし構わないでしょう。我々も一国の姫君を護衛できるなど光栄の極みですよ」


「嬉しい事を言ってくれるのですね」


くすくすと微笑むミルキーの姿は外見と相俟ってか、とても可憐に見えた。

リドラはそんな彼女に軽く頭を下げると、再び食事に戻る。

本来、その笑みを向けられるのはお前だろうと言わんばかりにゼルを一瞥してから、だが。


「……ところで、疑問なのだが」


彼等野会話が終わったのを見て、ジェイドは切った、否、斬った肉を呑み込んで声を上げる。

スズカゼとファナを除く皆の視線が集まると同時に彼は素朴な疑問を投げかけた。


「結婚相手引き連れて、町で騒ぎにならないのか?」


「「「……あっ」」」



読んでいただきありがとうございました

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