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獣人の姫  作者: MTL2
鉄の王子様
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見合い相手の元へ

【トレア平原】


「それで、結局はこの面々なんですね」


相手方の派遣した馬車の中、微かな揺れをを背筋に感じながら少女は呟いた。

少し苦い笑みを浮かべた彼女の瞳に映るのは。


「まぁ、大体の予想は付いてただろ」


「だな」


「当然と言えば当然でなかろうか」


「……ふん」


手鏡で頭髪の整い具合を確認するゼル。

右端の窓際に肘を突くジェイド。

ゼルの隣で童話集に目を通すリドラ。

左端の窓際で外を眺めるファナ。

スズカゼ含めこの5人が今回、相手方に断りを入れに行く面々だ。

ただし約半数名は興味本位である。


「相手方は、どんな人間なのだ?」


「元から断る予定だったからなぁ。大した事は調べてねぇよ」


「相手の名前はミルキー・シルカード・フェイデセンツェル。若くして一国を束ねる女王だ」


「女王ォ!?」


「シルカード国。中央寄りの東部にある、四国大戦を切っ掛けに一国の貴族が独立して作った新国だ」


「その貴族がフェイデセンツェル一家か」


「一家、と言うよりは個人だな、現在では。と言うのも新国の王となったフェイデンツェル家を狙って幾たびか襲撃があったらしい。国王の父、女王の母、王子の兄と死んで……、最後に残ったのがミルキー王女……、いや、今はミルキー女王と言うべきか。彼女が残ったらしい」


「そんな……」


「珍しい話ではないだろう。貴族が襲われるなど、よくある話だ」


苦々しく眉根を寄せながらファナはそう吐き捨てる。

嘗て賊に襲われた経験のある自分と重なる所もあるのだろう、とゼルは敢えて何も言わなかった。

彼女もそれを感じ取ったのか、一瞬だけゼルに視線を向けるも、何か言葉を掛けることはない。


「……所で聞きたいんだが、リドラよ」


「何だ、ゼル」


「何でお前そんなに知ってんの? 何で当事者より知ってんの?」


「貴様の結婚相手は大抵調べて居るぞ。最も酷かったのは相手がただの平民なだけでなく貴様の資産狙いの中年肥満女だったな」


「あー……、断りに言ったら喚きまくられたアレか」


「その後、貴様が殴り飛ばしてくれたのにはスカッとしたが。まぁ、あんなことが無いようにメイア女王やバルド殿からも頼まれているという訳だ」


「そりゃ有り難い事で……。いや、そもそも見合い話を持ってこない方が助かるんだけど」


「無理だろうな」


ゼルが両手で顔を押さえ塞ぎ込むのを幕切れとして、会話は終わりを迎える。

上下に揺れる獣車は道中の小石を乗り越えてはがたんと音を立てた。

その音が何度鳴ったか解らなくなった頃。

彼等の乗った従者は漸く目的地の前まで辿り着く。


「見えたぞ。アレがシルカード国だ」



【シルカード国】

《城下町・正門》


「ったく! 幾ら傭われだからって国に着いたらすぐに降ろしますか!? 普通!!」


「随分と適当な傭われ獣車だったな……」


傭われ獣車の杜撰な対応でシルカード国付近で降ろされた一行。

彼等はそれに愚痴を零しながら、数十分かけて漸く国に到着した。

サウズ王国に比べると果てしなく小さな門を抜けて、シルカード国へと足を踏み入れる。


「……国?」


スズカゼ達の目に飛び込んできたのは国、と言うよりは町だった。

街ではなく、町。住民数千にも及ばないような、小さな町だった。

至って平穏な町並みは見るだけで田舎という言葉を連想させる。

煉瓦造りの一階建ての家や畑、塗装されてない小道など正しくその物だ。

国というか街。街というか町。町というか最早、村。


「新国だからな。主産業も定まっていないし、自給自足が精一杯なのだろう。戦争を機に独立した国なのだから、まぁ、これが普通だ」


「平和という点では悪くないな。ゼル、リドラ、女王の住んでいる王城は何処だ?」


ジェイドの問いに答えるのは誰一人として居ない。

ファナを除く皆が周囲を見回すが、サウズ王国やトレア王国のような城は何処にも見当たらないのである。

あるのは一階建ての煉瓦家や畑、農牧、倉庫らしき建物に三階建ての民家……。


「……あの民家が城ではないのか」


ファナの言葉に皆が一度、その民家に視線を集める。

確かに他の家々よりも大きくて豪華に見えるが……。


「「「いやいやいやいや」」」


あれは紛う事なき民家だ。

それこそサウズ王国第二街の平民家と同じぐらいの大きさしかない。

他の煉瓦造りとは違って白色で塗装された綺麗な家ではあるが、とても城などとは思えない。


「いや、アレだ」


「リドラさんまで!?」


「他に城らしき物が見当たらない以上、アレしかないだろう。そうでなくとも倉庫より大きな家だ。何かしらの話は聞ける」


「……はぁ、解りました。て言うか、ゼルさんってこの国の女王様と結婚するんですか?」


「だから断りに来たっつってんだろ!」


平穏な村から明らかに浮いている一行はぎゃあぎゃあと騒ぎながら歩を進めていく。

目的の三階建ての家まで距離にして一ガロも無い程だ。

歩けば十数分程度で着くだろう。

彼等は雑談混じりに、その長くはない道を悠然と進んでいった。



《王城・正門》


「これ正門って言うか木の門……」


「言うな。言うんじゃねぇ」


小粋な庭師が趣味で作ったような木の門、基、正門を潜り抜けてゼルとスズカゼ、そしてファナとリドラは城内へと入っていく。

その足取りは先と違って少し小刻みに速くなっていた。



《王城・広間》


「……装飾品が何もないって」


「言うな。言ってやるなマジで」


広間と言うよりは玄関ホールという言葉が似合いそうな場所。

何も無いだだっ広い場と大理石の柱しか無い広間を抜けて、ゼルとスズカゼ、リドラは階段を駆け上がっていく。

その足取りは庭園の時と比べて明らかに早歩きとなっていた。



《王城・二階》


「……壺一つ無いな」


「つ、壺とかウチにもねぇじゃん。なっ?」


王城というか、ほぼ民家の二階。

壺も絵画も装飾品もない造りだけが豪華な廊下にはゼルとリドラの姿があった。

彼等は気軽に談笑しているように見えて、その実、ほぼ全力に近い形で走っている。

それこそまるで、何かを追いかけるように、だ。



読んでいただきありがとうございました

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