閑話[海賊との対談前に]
【トレア海】
《海賊船・船長室》
「ちょっと聞きたいんですけど」
全ての一件が終わり、カイリュウとゼルが今後について話し合うより少し前。
船長室には椅子に踏ん反り返るカイリュウと、暇そうに部屋を物色するメタル、そして今し方疑問の声を上げたスズカゼの姿があった。
揺り椅子のように背もたれを逸らしていたカイリュウは少女の質問に身を起こす。
「何だよ」
「眼帯とかフックってしないんですか」
「……はぁ?」
「いや、だから眼帯とフック」
海賊船長と言えば眼帯とフックだ。
あと髭も蓄えてガハハハかゲハハハと笑えば完璧だとスズカゼは熱弁する。
何の事は一行に理解出来ないカイリュウは助けを求めるようにメタルへと視線を向けた。
その救いの手を差し伸べるはずの男は彼の視線に気付いたのか、物色していた手を止めて立ち上がる。
「もっと野蛮な感じが良いんじゃね?」
「それだ!」
駄目だった。
「上半身脱いで体毛生えさせようぜ!! もっさもさに!!」
「そんでボロ布腰に巻かせましょう! あと髭! もっさもさ!!」
「おい待て、勝手に話を進めるんじゃねぇ」
「あ、海賊船長の帽子も要るんじゃね!? 髑髏に剣で×印!!」
「良いですねぇー! あ、さらに素手じゃなくて湾曲刀も!!」
「待て、おい。人の話を」
「でも海賊船長と言えば悪者だろ!? もっと極悪非道の性格にしよーぜ!!」
「それは間に合ってますね」
「張っ倒すぞ」
《海賊船・甲板》
「……何か船長室が騒がしくねェか?」
「気のせいじゃないでしょうけど気のせいと思いましょう」
甲板上で船の復興を、具体的にはゼルの開けた大穴を塞ぐ作業を眺めながら。
彼等は呑気に潮風を背に受けて言葉を交わしていた。
ゼルとハドリー。何とも妙な組み合わせだが、二人の間に擦れはない。
と言うのも、やはりジェイドという獣人を通しているからだろう。
そうでなくとも普段からスズカゼを裏から支えている陰の功労者のハドリーだ。
事務面ではゼルも大いに世話になっている。
「……で、だ。お前を連れ出してきたのは、少し話があってからでな」
「何でしょうか?」
「そこで告白ですかとかボケない辺り、本当にお前は貴重な人材だよ」
「ご、ご苦労様です……」
「ホントにな。で、相談したいっつーのはカイリュウ海賊団のこれからについて、だ」
「大抵の予想は付きます。シャガル王国に統治権を譲るんですね?」
「お前、文官に向いてるわ。いや、今が文官ですけどね!」
「は、ははは……」
「ま、俺はその通りカイリュウに提案する。奴も何らかの条件を突き付けてくるだろうが、それは可能な限り全部飲むつもりだ」
「それが良いでしょうね。私達は今回の一件で中間者であるべきですから」
「その通りだ。で、その交渉時にお前も同席して欲しい」
「カイリュウさんとの、ですか? えぇ、お安いご用ーーー……」
「いンや、シャーク国王との」
「すいません。第三街の様子が心配ですので、そろそろサウズ王国に帰らないと」
「逃がさねェからな!? 畜生! こんな所だけ他の連中と似やがって!!」
「いや、一国の長と対談に連れて行くとか本当に勘弁してください。リドラさんで良いじゃないですか」
「何かよく勘違いされてるけど、アイツ普通の[鑑定士]だからな? もう一回言うぞ? [鑑定士]! 物の価値を見極めるのが仕事なんだよ!!」
「……忘れてました」
「だろうと思ったよ畜生!!」
「で、でも交渉に置いてはあの人が一番なんじゃ……」
「一々、アイツの別荘に帰ってリドラ連れて……、内面はバラせないからトレア王国の獣車も使えない。獣車を傭うことも出来るが、その手続きと料金含めシャガル王国まで一直線……。さて、この手間暇費用は幾らだ?」
「あぁ、そういう事ですか……」
「事態は急を要する。今交渉が終了次第、俺達は即刻シャガル王国に向かうぞ」
「スズカゼさんとメタルさんはどうしますか?」
「アレ連れて行くのは爆薬庫の中に爆弾投げ込む行為に等しいんだけど、どう思う?」
「駄目ですよねーーー……」
そうして、彼等がカイリュウと対談をするのは数十分後となる。
尤も、その前に馬鹿騒ぎをする二人を止める事になろうとは、彼等も要していなかっただろうが。
読んでいただきありがとうございました
そして! 今話を持ちまして200部達成でございます!!
ここまで来れたのも皆様のご閲覧と声援の御陰です!
これからも精一杯、精進して連載を続けていきますのでよろしくお願いします!




