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獣人の姫  作者: MTL2
トレアの海賊
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虚空の艦に攻める紅と鉄


《トレア王国軍第一軍艦・甲板》


「よろしいのですか? 隊長。あの船を砲撃しても……」


「構わない。ナランタ国王の命だ」


「し、しかし! あの船にはニョーグ副隊長もサウズ王国騎士団長のゼル・デビット様も乗っているはず! 彼等に掛かれば制圧など容易いのでは……」


「ニョーグには砲撃が始まれば信号弾を撃つように言ってある。それが無いという事は、制圧は疎か死亡している可能性もあるのだ」


「束縛されている可能性も……」


「諄い。そうならば捨てるだけだ」


隊長の表情は、ゼルと共にカイリュウ海賊団を追い返したときのそれとは全く違っていた。

酷く冷徹で冷悪な、人の命を羽虫以下と見直すような男の目だった。

部下も彼のそんな表情から異変を感じ取ったのだろう。

それ以上の反論はせずに、大砲を構える仲間達に命令を伝えに戻っていった。


「……さて」


ここからが勝負だ。

自分達はより的確に連中を殺さなければならない。

骸すら残さずに、だ。

死骸は海獣のザッパードが食い尽くすだろう。

だが、幾ら何でも衣服や装飾品は食わないはずだ。

ならば自分達はそれを回収して破壊、若しくは燃やさなければならない。

全ての証拠を消し去り、スズカゼ達はトレア王国から出国した後、盗賊に襲われて死亡したというシナリオを作り上げる為にーーー……。


ドンッ


それは、何か重い物を、それこそ砲弾を落としたような音だった。

部下の誰かが不注意で落としたのかと周囲を見回すが、そんな様子はない。

いや、それどころか部下達の視線は全て自分へと向けられている。

何だ? 何があった? 何がある?


「おい、何がーーー……」


彼は前に踏み出そうとして、それに躓いた。

痩けることは無かったが大きく前のめりになり、バランスを崩してしまう。

あぁ、ここに落ちていたのかと視線を向けた隊長の視界に映ったのは、白目を剥いた部下の姿だった。


「……何?」


死んではいない。呼吸はある。

それは一見で判断出来たが、何がどうなって、こうなったのかが解らない。

転んだ? まさか。その程度で気絶する物か。

ならば何故、どうして、どうなって?


「た、隊長……」


部下の一人が震える声と共に上空を指差した。

上に何があると空を仰いだ隊長の瞳に映ったのは、漆黒の天を泳ぐ一人の獣人の姿。

そして、その側の帆上にある見張り台に立つ一つの影。


「……まさか」


彼の予想は、的中という意味合いの自信で言うなれば、ただの空想の範疇だった。

そもそもあの船を撃ち落とすこと自体、賭けに近い。

第三街領主が海賊共より真実を知らされこちらの国を潰しに掛かる、と。

それはあくまでナランタ国王の予想だったが、その予想を後押ししたのは他ならぬ自国の防衛策でもあった。

サウズ王国という巨象に踏み潰されないためには、そもそもスズカゼ・クレハが自国が原因で被害に遭ったのでは無い、と証明すれば良い。

ただ、それだけ。それだけの案がこの作戦を決行させた。

と、ここまでは確定してもおかしくない事項だ。


「まさか……」


そう、その先。

例えばスズカゼ・クレハが海賊共の内情を聞いて同情したり正義感に狩られたりして。

我々と対峙する事を決意し、あの側近として付けていた獣人の飛行能力を持ってこの船に乗り込んでくる、とか。

そんな、実益的に見れば見捨てれば良いだけの話に無理やり介入し。

自分の同情心や正義感の為だけに行動する、だとか。

そんな、有り得ない話が、あるとして。


「有り得ない」


普通に考えれば有り得ない。

実益的に見ればこの惨状など無視してバカンスに帰るのが普通だ。

一国の長としても臣下としても、それが正しい選択だろう。

だが、スズカゼ・クレハは違う。

余りに異端で異常で異質な少女だ。

気に入らないことは気に入らないと叫び、それを改善するよう努力する。

長や臣下には実に向かない、現世ではごく普通の少女だ。


「……さて、行きましょうか」


漆黒の天を切り裂く紅蓮。

月星の光を反射させ、燃え上がる炎が如く。

晩天斬すは天女の一閃なり。



《トレア王国軍第三軍艦・甲板》


「どうだ、状況は」


「はっ! 海賊船はこちらと違って軽量型なのが幸いしているのか、どうにか逃げ回っている状態であります! しかし、そう遠くない内に三角陣営の中で沈むでしょう!!」


「結構だな。ニョーグ副隊長の仇はここで討つ事にしよう」


「はっ!!」


この第三軍艦は第一軍艦とは違い、件の事情を把握した者達が集結している。

隊長が何も知らぬ者達の集う第三軍艦に着任したのは統制するという意味合いからだ。

だからこそ、この第三軍艦は他の軍艦とは違って海賊船の後方、追い打ちを掛ける場所に配置されている。

より迅速に動き、証拠を隠滅する決め手として、だ。


「周囲に怪しい動きはないな? 小舟で接近された痕跡もないな?」


「ありません! 周囲の見張りは的確に行っておりますし、小舟で接近されれば乗っているのが誰であれ撃退する準備は出来ています!」


「そうか、それは……」


予想できるはずもない。

例えるならば今日の天気は雨だと言われていたのに、槍が降ってきたような物だ。

予想など、出来るはずがないのだ。

まさか、海から小舟で来るわけでもなく、船で直接攻撃してくる訳でもなく。

物理的に、船で飛んでこようとは。


「……はへっ?」


男は間抜けた声しか出せなかった。

虚空の中を一閃の光が駆けたかと思うと、自分の寸分隣に船が突き刺さったのだ。

既に拉げていた船先を、さらに凹ませた木船が。


「……ったく、この方法は金輪際使いたくなかったんだが」


その船からのそりと体を起こしたのは、一人の男だった。

鉄の義手で深緑の頭髪を掻き分ける、この場に存在する人物中、考え得る限り最悪の男。


「まずは二隻、沈めるとするか」



読んでいただきありがとうございました


編集「今年の初詣、どうだった?」

作者「おー! 聞いてくれよ! メチャクチャ可愛い子が居てさぁ!」

編集「ほうほう」

作者「和服が似合う子で! 髪も艶やかで! 歩く姿も凛としてて!」

編集「正しく和服美人、大和撫子だな。で、声ぐらいは掛けたのか?」

作者「男だった」

編集「……お前、遂にそっちの趣味に」

作者「ちげーよ! 後ろ姿が女に見えたの!! 俺が愛するのはふたなr」

編集「黙れよ。門松で刺すぞ」

作者「スイマセンでした……」


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