牢獄の海賊船と追う木船
《海賊船・船庫》
「ここに入ってろ!!」
数人の男達によって、スズカゼとメタルは船庫に放り投げられる。
彼等の全身は余す所なく荒縄で縛り上げられており、動かせるのは精々、首から上ぐらいだ。
現に、こうして投げられた後も受け身が取れず、モロに床板に叩き付けられている状態である。
「ったく、何てことしてくれたんだ……」
これから船長に酷く叱られるであろう船員達は恨み言を吐きながら過ぎ去っていく。
八つ当たりと言わんばかりに、凄まじい音を立てて締められる扉。
スズカゼはそれを見ながら深いため息をついた。
「駄目じゃないですか……」
「殺されなかっただけマシじゃないかな」
荷物の中に頭から埋まるメタルも同様にため息をつくが、その様子が見えることは無い。
と言うか、傍目に見れば荷物から這い出ようとする蓑虫にすら見える。
「と言うか、メタルさん。殺されなくて良かったですね」
「さらっと恐いこと言うよね、お前。いや、確かに見せしめにされてもおかしくなかったけどよ」
「武器は取られちゃいましたけどね!」
「[魔炎の太刀]だろー? 売れば幾らになるんだろうな」
「割とマジで売られそうなんで笑えないです。って言うか、何でメタルさんの腕輪は取られてないんですか」
「そりゃ、お前。普段の行動?」
「それはない」
実際は使っていない上に目立つ物でも無かったから、と単純な理由なのだが。
今はそれ所ではないのは彼等とて理解出来ている。
スズカゼもメタルも同じくして、今、この船が何処に向かおうとしているのか。
カイリュウ海賊団がどういう手を取ろうとしているのかが解らないのだ。
いや、それは恐らく本人達もそうなのだろう。
サウズ王国という未だ見えぬ象に怯えるしかない蟻の行く末など解るはずがない。
だからこうしてスズカゼも殺せず、縛り上げているだけなのだ。
「どうします? ここから」
「もう海旅行で良いんじゃないかな」
「一人で沈んでろ」
積み荷の中からしくしくと啜り泣く声が聞こえるが、彼女は取り敢えず無視しておく。
そもそも、こんなに縛り上げられては動くに動けない。脱出など以ての外だ。
それにここは海の上。逃げたとしても、何処かの島に辿り着く前に沈むことになる。
自分達に逃げ道は無いし、彼等にも逃げ道は無い。
誰が予想しただろうか。まさか、宝石の海が牢獄になるなどと。
「……ゼルさんとハドリーさんはどうしてるんでしょうか」
「今頃、捜索に来てると思うぜ。流石に見捨てるなんて事はしねぇだろ」
「有り難いですね、ホント。……それはそうと、私達は待ってるだけになるんですかね?」
「待ってるだけ、ってのは気に食わねェなぁ」
そう言うと、メタルは必死に足をバタつかせる。
尤も、蓑虫が幾ら足掻こうが左右にぶらぶらと揺れることしか出来ない。
何とも醜いその様子を眺めながら、スズカゼは深いため息をついていた。
《木船》
「見えました」
ニョーグの言葉に、長らく座っていた事により尻を痛めたゼルとハドリーが立ち上がる。
確かに彼の言う通り目的の海賊船は見えたのだが、それでも豆粒ほどしか無い。
この距離ではまだまだ時間が掛かりますね、とハドリーは肩を落として再び腰を下ろす。
ニョーグも彼女と同じく、まだ数十分は軽く掛かるでしょうと同意の頷きを見せた。
この距離だ、獣人である彼だから発見できたのであって、普通ならば未だ気付かなくてもおかしくない。
「いや、この距離で良い」
だが、ゼルだけは座らなかった。
彼は豆粒ほどの海賊船を眺めながら、大きく義手を回す。
この距離で良いとはどういう事です、というニョーグの問いには答えず、彼はただ、その小さな豆粒だけを見詰めていた。
「ハドリー、ニョーグ殿。今から[少し]揺れますので、決して振り落とされないように。あと、目を瞑って耳も塞いでください」
「それは、どういう意味で?」
「このまま接近しても、間違いなく見つかるでしょう。思ったより遮蔽物が少ないし、あの船も見晴らしが良さそうだ」
「えぇ、その通りですな。だからこそ、商人か何かのふりをして近付き、強襲するのが一般的な手はずでは?」
「不意打ちならば、ね。ですが現在、奴等はこちらをかなり警戒している。見知らぬ船が近付けば砲撃……、なんて事になってもおかしくはないでしょう」
「それはそうですが、元より賭けなのに変わりはありますまい」
「賭けならば確実に勝てる賭けをしようと言っているのです」
暫しの沈黙。
ゼルとニョーグは互いに鋭い眼光を交わしたまま動かない。
海の中で揺れ動き、豆粒ほどの海賊船が針の穴ほどになり。
ハドリーが何か言った方が良いのかと右往左往し始めた頃。
根負けしたかのように、ニョーグはため息混じりに何処か悔しそうな、しかし何処か嬉しそうな表情を浮かべた。
「結構。信じましょう」
「ありがとうございます」
ゼルは軽く頭を下げ、ニョーグは微かな笑みを浮かべながら瞳を閉じて耳を塞ぐ。
先程まで肝を冷やしていたハドリーも、彼の行動に続くように急いで目を強く閉じて耳を塞いだ。
「……まさか、こんな所で使う事になるとはな」
いつも通りの、気苦労が耐えない自分に同情しながら。
彼は的確に、素早く、慣れた手付きで。
鉄縛装を、外していった。
読んでいただきありがとうございました
そう言えば今日はクリスマスでしたね
編集君の予定は?
編集「編集。お前は?」
作者「小説執筆」
作者&編集「「HAHAHAHA!!」」
メリークリスマス!!




