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獣人の姫  作者: MTL2
四つの国を結ぶもの
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言葉交わしは雲模様

「あぁ、その前に」


ネイクの言葉に横槍を入れるが如く、ダーテンは手を上げて言葉を述べる。

どうかしましたか、という彼の言葉に反応するようにして、ダーテンはメイアとイーグにそれぞれ視線を向けた。


「メイア、イーグ。放って置いても良いのかい?」


「別に」


「メイアに同じくだ」


四天災者間のやり取りの意味を理解した物は彼等以外、その場には居なかった。

だが、放って置いて良いと言った以上、急を要する用件ではないのだろう。

ネイクは場を取り直すように一度咳払いして再び会議を開始する。


「現状、世界の異変とも言うべき幾つかの事件があります」


「我がベルルーク国への精霊大進行や東にある商業国、クグルフ国での精霊大発生だとかね」


「どっちも精霊か」


「大事になっているだけでは、ね。それ以外にも我がサウズ王国への襲撃が幾つかあるわ」


バボックとメイアの述べた件に、シャークとフェベッツェは言葉を詰まらせる。

起きた事件は確かに数えるほどしかないが、その一つ一つが余りに大きく異変だ。

世界の異変と言えば大仰に聞こえるかも知れないが、実際はそれ程に異端な事なのである。

精霊や妖精とはそもそも人間が使役する物であって、自然発生などするはずもない。

現世で言うなれば地震や嵐のような物ではなく、言うなれば人工物と言い換える事が出来る。

それが世界中で大量発生、それも自然的にだ、と言えばその異質さがよく解るはずだ。

スズカゼもそんな風に例えてみれば、自分が経験したことでもあるが異質な事であるのはよく理解出来た。


「……ウチにはまだ被害が出てねぇが、時間の問題かも知れねぇな」


「スノウフ国もそうねぇ。何より精霊を崇めるフェアリ教の教皇としては遺憾でもあるわ。……何せ、精霊を軍事目的で使い捨て道具のように利用しているのだから」


フェベッツェがそれを口にすると同時に、周囲の空気は一気に張り詰めた。

それはあくまで一瞬のことであったが、ただの老婆から放たれる物ではない事は面々が良く解っている。

彼女もただの温厚な老人などでは無く、メイアやバボック、シャークのような一国の長なのだ。

何よりフェアリ教という精霊や妖精を神使と見る彼等だからこそ、今回の一件はより遺憾に感じているのだろう。


「けれどね、私としてはそちらを疑っているのも事実なのだよ」


バボックはにこやかな笑みを保ったまま、フェベッツェに対して特大級の爆弾を放り込んだ。

彼の言っている物を要約してしまえば、スノウフ国がベルルーク国へ精霊を差し向けたのでは無いか、という事だ。

精霊や妖精を神使として崇めている彼等に、道具として使ったのでは無いか、などと言うのは正しく侮辱以外の何物でもない。

いや、意味としてはそれ以上の物にもなり得るだろう。


「……[気遣い]は捨てましたか? バボック大総統」


ダーテンの冷ややかな、殺気の籠もった言葉にもバボックは眉端一つ動かさない。

それ所か何処か嬉々とした様子すら浮かべて、仰々しく両手を広げ挙げた。

まるでダーテンの言葉や殺気を歓迎するようにだ。


「おや、これは[腹芸]ではないかな?」


「……意趣返しか、テメェ」


張り詰めた空気の中にシャークの怒気も混じり、室内の雰囲気は益々険悪になっていく。

だと言うのに、当の本人はそれを祝福するが如く高々と声を上げだした。


「君達も理解出来ているだろう? 私が皆を集めて貰ったのには理由があるのさ。それは直接に顔を合わせたいという事もあったが、何よりここで引き摺りだそうとも思ったからさ」


「バボック」


「黒幕をね」


彼の笑顔に添えられる紅蓮の焔。

自らを守るはずの護衛に殺意を向けられているというのに、相変わらずバボックは笑みを浮かべたままだ。

部下の手により灰塊にされ掛けていると言うのに笑みを浮かべたままの男。

その姿は余りに異質で、先の話など消し去ってしまいそうな程な物だ。


「……イーグ。これは、いつも通りの牽制かな?」


「いつも通りと言うなれば理解しろ。貴様の口は余りに過ぎる」


「あははは。これが私なのだから、隠せというのは無理があるね」


「隠す必要などない。その口を閉じれば良いだけだ」


大袈裟に開いていた手を下げ、バボックは笑みを止める。

彼の表情はとても詰まらなさそうで、退屈げな物だった。


「ネイク。話を続けてくれるかな」


「……はい」


この様なやり取りには慣れているのか、他の面々と違って表情に呆れの色を持ったネイクはバボックの指示に従って再び口を開く。

尤も、彼が述べた言葉は各国の状勢や不穏な動きでこそあったが、どれも取るに足らない下らない事だった。

実際、今の話し合いで判明した物と言えば犯人は解っていない、という事実だけだ。


「……本題っつーか、問題っつーか。何も解ってないんじゃ話し合いも出来ねぇぞ」


「何もこの場で解決策を求められるとはベルルーク国としても進行者としても思っていません。現状、必要なのは認識です。各国の首脳として世界の異変を認識していただきたい」


「認識は充分だがよォ。……ちと、マズくねぇか? これ」


シャークの不安げな声は尤もだ。

現状は対策も無い為に完全な受け身状態となるしかなく、いつ自国へ矛先が向けられるかも解らない。

また、一つ一つの異変の強大さからしても少なくとも一国以上の力が掛かっているのは事実だ。


「……バボック。その精霊の話、詳しく聞かせて貰えるかしら」


「話と言っても、大した物じゃない。スズカゼ君がこちらに訪問しているときに、我が国の悩みの種であるアルカーと精霊の大群が一挙に攻めてきたという物さ」


「規模としては双方、砂漠を覆い尽くす程でした。アルカーはまだしも精霊は自然的な原因としては説明が付きません」


「ベルルーク国のも同様ね。リドラとメタルの報告によると魔法石の暴走らしいけど」


「……お前等の話を聞けば聞くほど解らねぇんだが」


シャークは頭を抱えて机に肘を突き、気怠い声を吐き出す。

そもそも被害だけ聞いても解決策を思い浮かべられるはずもない。

かと言って、これだけの情報では犯人の割り出しなど出来る訳もなく。


「……どーする、これ」


「私に聞かないで欲しいわ」


「こちらも解決策は提案出来ないかな」


「私達もそうかしら。ネイク少佐の言う通り、私達の出来る事と言えば互いに認識して相互監視、相互防衛ぐらいになるわねぇ……」


「……これじゃ、どうにもならないわね」


皆が皆、深くため息をつくと共に項垂れる。

解決策も無く原因も解らず手掛かりすら皆無などという、どうしようもない状況だ。

ため息をついている場合では無い、と言う方が酷だろう。


「メイア」


「……えぇ、仕方ないわね」


「中立的立場に聞くとしようかな」


そんな状況を打破するように四天災者の三人が言葉を交わし合う。

何か策があるのかい? というバボックの言葉には誰も頷きはしなかった。

その代わりに、と言わんばかりにイーグが掌に魔力を凝縮した一つの火炎弾を作り出す。

この場でそれを作り出すと言う事は他ならぬ戦闘の意思表示だ。

バルドとゼルはそれに備えるが如く主人の前に出るが、メイアは視線で彼等の行動を制す。


「どういうッ……!」


ゼルの疑問の声など通ることは無く。

火炎弾はスズカゼに向けられ、何の容赦も戸惑いも無く放たれた。



読んでいただきありがとうございました

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