水着お披露目
【トレア海岸】
「……素晴らしい」
スズカゼは思わず称賛の拍手を送っていた。
いや、彼女だけでなく他の海水浴に来ていた男共も、或いは女性も同様に。
女神とも言えるその二人に惜しみない称賛を送っているのだ。
「あ、あのぅ、恥ずかしいです……」
「…………」
顔を真っ赤に紅潮させた彼女達。
ハドリーは胸元と股座を隠すように縮こまり、ファナは堂々と腕こそ組んでいるが顔は真っ赤に染まっている。
着ているのはごくごく普通のビキニだが、その称賛は彼女達の美しいプロポーションから来る物だ。
「あらあら、ハドリーさんは美乳ですのねぇ」
「大き過ぎず小さ過ぎず。ベストサイズと美しい体型が美を奏でてますね」
「ファナさんは大きいですわぁ」
「巨大ながらも若さ故に崩れない形と絞られた体が芸術が如く美しい。何食ったらあんなサイズになるんでしょうか」
「それはもう、生まれつきの素質ですわぁ」
「もぐぞ」
ハドリーは周囲の人々の視線から逃げるようにして、ファナは周囲の視線を逆に睨み殺すようにして、スズカゼとサラの元へと歩いてくる。
相変わらず真っ赤なままの彼女達を見て、スズカゼはにまりと頬端を崩した。
「グッジョブ!」
「死ね」
スズカゼの髪先を擦る魔術大砲。
彼女はそれを背筋を仰け反らせて回避し、その場で後転するように一回転。
立派な決めポーズと共に立ち上がった。
「だが甘い」
「この小娘ぇええええ……!」
「年齢的にはファナさんの方が下なんですけれどねぇ」
「あ、あの落ち着いてください……」
衆目を集めている事すら、最早、何処吹く風。
スズカゼはハドリーの尻を触りファナの胸を揉み。
サラはそんな光景を見て笑い、ハドリーはスズカゼの手を払いのけ、ファナは魔術大砲を連発する。
水着二つでトレア海岸は混沌の渦に巻き込まれ、魔術大砲という嵐が吹き荒れる。
一つ間違えば海岸を阿鼻叫喚とするその嵐に、海水浴に来ている他の人々はただ唖然とするしか無かった。
その渦を起こした張本人は一通り尻と胸を楽しんだ後、ある事に気付いた。
「デイジーさんは?」
「あら、そう言えば」
「デイジーさんはまだ着替えに手間取ってましたけど……」
一時的に収まった嵐に、人々は安堵の息を零していた。
魔術大砲が撃ち荒れたせいで周囲の砂浜は焼け焦げてしまったこの惨状に終止符が打たれた、と。
そう、思っていた。
「……アレではないのか?」
ふと、ファナがスズカゼ達の背後にある防波堤を指差した。
おずおずと、まるで強盗でも見てしまった子供のように怯えているデイジー。
スズカゼ達が急に静まりかえった物だから、彼女達どころか他の人々の視線までそちらへ向けられる。
すると、彼女はびくりと肩を震わせて防波堤へと完全に隠れてしまった。
「あ、ホントだ」
「照れてますわねぇ」
「確か紐でしたか……。気の毒に」
「大丈夫大丈夫。どーせ私と同じぐ……、私より小さい胸なんですから!」
「そこで見栄を張るとは流石、スズカゼさんですわぁ。……けれど、何か勘違いしていらっしゃいません?」
「え?」
サラは迷い無き足取りで防波堤の裏へと歩いて行き、その場に隠れているデイジーの腕を掴んで引っ張り上げる。
だが、彼女は最後の抵抗だと言わんばかりに必死に屈んでいる様だ。
サラは仕方ないとため息をついて、そんな彼女の肩に優しく手を置き、にっこりと微笑みを見せる。
流石はサラだ、とデイジーの安堵の声が聞こえた瞬間、サラは彼女の腰元を持って強制的に立たせ、スズカゼ達の前に突き出した。
「……えっ」
その光景が何だったのか。
スズカゼがそれを理解するのには数十秒の時間を要した。
言うなれば幻を見ただとか幽霊を見ただとか、そんな物に近いと思う。
それは不確定的な物を見た、という意味では無く、信じられない物を見た、という驚愕から来る物だ。
「お、大きい……」
「……むっ」
ハドリーとファナですら言葉を失ってしまうほどに。
それは至大的で、強大的で、巨大的だった。
しかも、そのサイズが紐で先っぽだけが覆われているのである。
別の意味の破壊力も類を見ない所の話では無い。
「え? いや、え? だっていつもの……、え?」
「デイジーはいつも戦闘の邪魔だと言って堅布で縛った上にキツめの鎧を着てるんですわぁ。家だと普段着ですから、コレが拝めますけれど」
「は、恥ずかしいぞ、サラぁ……」
「うふふ。紐ですものねぇ」
肌色の先端にある桃色と局部だけを包み隠した紐状の水着。
大切な部分は隠せているが他の部分が完全露出という、何とも大胆な物だ。
しかもデイジーの、ファナとサラすら超える巨大な破壊兵器に戦法的な物もあって引き締まった見事な身体。
文句の付け所など一切無い、健康的で魅惑的な女性像がそこにはあった。
「おぉ……」
誰が上げたか歓声の声。
デイジーの姿は最早、欲情の対象だとかそんなレベルではなく、一種の芸術作品に近かった。
彼女に集められるのは男の下心に溢れた眼差しでは無く、称賛の拍手である。
海水浴に来ていた他の人々から送られる惜しみない称賛の嵐に、デイジーはただ恥ずかしそうに顔を真っ赤にして縮こまるだけであった。
「……嘘だ」
だが、そんな芸術作品を否定するかのように、少女は怨嗟の意を込めて呟いた。
その少女、スズカゼ・クレハの目には血涙が流れており、表情は般若が如く歪んでいる。
「す、スズカゼ殿……」
「信じてたのに……! 貴女こそは仲間だ、って!!」
「わ、私にそんなつもりは」
「後で揉ませてください!!」
「……え、あ、はい」
「ハドリー・シャリア。質問がある」
「……はい、何でしょう」
「奴は、本当は女色家ではないのか」
「ただの醜い嫉妬って言ってたじゃないですか……」
「だが、アレは……。アレだろう」
「貴女でも言葉を濁すほどって相当ですよね……」
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