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獣人の姫  作者: MTL2
四つの国を結ぶもの
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水着選び

【海辺の店】


「水着水着水着ぃ~~~!」


簡素な石造りの雑貨屋には、ご機嫌で店の水着を漁る少女の姿があった。

海辺から少し離れたここは現世で言う所の水着屋と海の家が合体したような場所で、その異質さにスズカゼは一瞬だけ違和感を覚えたが、そんな物は直ぐに消え去った。

と言うのも、外で待たせる2人を思っての事である。

いや、正しくは諦め悪く逃げようとする女性も合わせて3人だ。


「み、ず、ぎ!」


平均的な胸のハドリーはサイズ的に問題は無いだろう。

薄肌色の羽毛に似合うよう、淡い水色など良いかもしれない。

小さな胸のデイジーはサイズ的に自分と同様で良いはずだ。

普段は軽甲で隠れているが、あの膨らみすら軽甲に元からある、衝撃を逃がす構造のためのそれだろう。

同類は嬉しい。


「……えーっと」


そして、ファナ。

齢15にしてあの驚異的なサイズ。

サラに勝るとも劣らないアレをどう形容したのか。

スイカ? ……いや、メロン? ……いやいや、砲弾?

何にせよあの大きすぎるサイズを包むのは普通の水着では無理だ。


「紐で良いかなぁ……」


とんでもない事を呟きながら、彼女は顎先を指先で摩る。

もうあのサイズを包むのは諦めて先に引っかける方が良いのでは……?

ちょっと衆目を集める事にはなるだろうが、まぁ、彼女なら大丈夫だろう。

変な趣味に目覚めることは無いはずだ、多分。


「あのぅ、よろしいかしら?」


本気で紐に手を掛けかけた彼女に、しわがれた声が掛かる。

急に声を掛けられた物だから何だろうかと振り返った彼女の目に映ったのは、一人の老婆だった。

その老婆の蒼色の瞳は先程まで泳いでいた海のように透き通っていて美しい。

純白の衣服と頭髪は、まるで老婆を天の使いと思わせるほどだ。

何処か神々しい雰囲気もそれを助長させているのだろうが、それを気にするスズカゼではない。

と言うか、それを感じ取れる微細な感性を持ち合わせてないというだけなのだが。


「あ、はい。どうしました?」


「私、水着を選びに来たのだけれど……。最近の若い子はどんなのを着るのかしらねぇ?」


「わ、若い子のですか?」


「えぇ。だって年老いても泳いだって良いじゃない?」


ふふふ、と柔らかな笑みを浮かべるその女性。

スズカゼは思わず田舎で縁側に座って野菜を食べている老人の絵を思い浮かべたが、流石にそれは失礼だろうと首を振る。

続いて自分が着ているような派手な水着に服を包んだ老婆の姿を考えた。

……こればかりはちょっと考えない方が良かったかも知れない。


「でも、若いのって派手なのが多いですよ?」


「派手なのが良いんじゃない」


再びふふふ、とおかしそうに笑みを浮かべる老婆。

確かに元気なお婆さんだが歳通りに背筋は曲がっているし顔や手にも皺がある。

そんな老婆が派手なのを着ると、先程の[アレ]が現実に顕現してしまう。


「止めた方が……」


「そうかしら?」


「え、えぇ、まぁ……。でも、ご老人のお方用の物もあるみたいですし、無理に若い人向けのを着るとお洒落どうこう以前に危険ですよ?」


「うぅん、駄目なのかしらねぇ……」


老婆は何処か寂しそうに首を傾げてみせる。

決してスズカゼが悪いと言う訳では無いのだが、彼女は何処か罪悪感を感じながら、あー……、と声を伸ばした。

まぁ、何処の国でも老人の話は聞いて老人には優しくしろと言うし……。


「……あの、良ければ良い柄のを探しましょうか?」


「あら、よろしいの?」


「えぇ、この店、品揃えは良いみたいですし」


スズカゼは先程まで自分が何をしていたかも忘れて、老婆と共に老人用の水着売り場へと歩いて行く。

初めはぎこちなく案内していたが、段々と親しんできたのか、最後には祖母と孫のように親しく話出すほどだ。

それは老婆の人当たりの良さとスズカゼの明るい性格故の結果とも言えるだろう。



【トレア海岸線】


「いやだぁああああああああ! 離せサラぁああああああああああああ!!」


一方、こちらはスズカゼの居なくなった海岸線。

デイジーの凄まじい叫び声は周囲の注目を集めているが、本人はそれどころではない。

自分を抑えるサラを必死に振り解こうとするが、訪れるのは背中の柔らかい二つの感触だけである。


「離せ! 離すんだぁあああああ!!」


「諦めて水着になるが良いですわぁ」


「嫌だ! 私は……!!」


「胸の小ささなど気にするな。女々臭い」


「私は女です! ファナ殿ぉ!!」


どうやら、デイジーは未だ水着を着るのを拒んでいるらしい。

それに比べハドリーとファナは何かの境地に達したかのように清々しい顔をしている。

まぁ、現実逃避と言えなくもないのだが。


「私、思うんです。もしかしてスズカゼさんは女色家の気があるんじゃないか、って……」


「あの女がそんな物か。アレは単なる嫉妬心だ。……単なる醜い嫉妬心だ」


「否定できぬ辺りが何とも言えないぞ……!!」


自分の放置してきた面々が悲惨なことになっているなどいざ知らず。

全ての元凶である少女は老婆と楽しく水着選びをしているのであった。


読んでいただきありがとうございました

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