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獣人の姫  作者: MTL2
森の魔女
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生命を持ちて森より去る

「世話になったな、イトー殿」


「スズカゼたんとハドリーたんは置いていっても良いのよ」


「「全力で断ります」」


木造の家の前で彼等は荷物を纏めて持ち、イトーと別れを告げていた。

スズカゼの身体にも人工のそれが馴染み、彼等は漸く大森林から出られるようになったのである。

そう長く居た訳でもなかったが、数日でも住めば思い入れは生まれる物だ。

それに、彼女のお陰でスズカゼが救われたのだから、相応の礼をするのは当然と言う事でもあるだろう。


「一応はメイアから色々貰って来てんだけど、要る?」


「あー、メイアたんの下着なら」


「俺はそう言ったんだけど殺され掛けたよ」


「でしょうね」


「……下らない話は置いておいて、だ」


呆れ気味に片目の端をヒクつかせ、リドラは大きく息を吐き出す。

手の良い者ほど変人だな、と聞こえないような小声で付け足したのを、ハドリーは確かに耳にしたのだが、貴方も大概じゃないですか、という言葉はどうにか呑み込んだ。


「えーっと、暫く激しい運動は控えた方が?」


「まぁ、ある程度なら大丈夫よ。激しすぎると駄目だけれど……、夜の運動はどうかしら? 私と試す?」


「いや、もう帰るんで」


「チッ」


「でも、何のお礼も無いってのも……」


小首を傾げたハドリーに、イトーは鋭い目付きを向けるが、何を言ってくるかは大抵予想が付いていたので事前に断る。

それはそうとして、メタルはコイツはこう言ってるから別に良いと言っているが、流石に何もしないというのも気が引ける。

押しつけがましいとは思うが、それでも何のお礼もしないと言うのも……。


「……あっ、そうだ。イトー、アレくれてやれよ」


思いついたように、メタルは指先で軽く円を描く。

イトーは納得したようだが、他の面々は何が何だか解るはずもない。

間もなく彼女は外見相応の、小さな歩幅で室内へと戻っていってしまった。

困惑する面々に対してメタルは俺が取ってきたんだぜ、と自慢げに笑んでみせる。


「これよ」


彼女が持ってきたのは卵、だったのだが。

現世で言う所のダチョウのそれぐらいの大きさはあるだろうか。

柄も白の中に紅が混じった斑色で、彼女の立ち様からしても、かなりの重量があるようだ。


「……あの、それは?」


「ロドリス地方の遙か奥地にある火山で採れたんだぜ。色々とヤバかったけど面白そうなんで持って帰ってきたんだよ」


「……ロドリス地方と言えば人種も文化も、不明な点が多い場所だろう。そんな所の物を持ってくるのは」


「美味そうかな、って」


「食う気だったのか!?」


「卵焼きでも目玉焼きでもいけそうだったんだけど、俺、料理そんなに出来ねぇし、イトーの所に持ってきたらさぁ」


「これ、私も知らない卵なのよ。……何処かで見た気はするんだけどね? 食べるのは勿体ないから,取り敢えず置いておいたのよ」


「何だっけ? 孵化しないんだっけか」


「この森じゃ、環境的にね。だから、この卵を孵して欲しいのよ。……それがお礼で良いわ」


彼女はぐーっと背筋を伸ばし、スズカゼの手に卵を渡す。

確かにずっしりとした感触が有り、生物特有の暖かさも微かにだが、ある。

何の卵かは解らないが、これほどの大きさだ。孵化するとどうなるのかなど、想像も付かない。


「孵したら、どうしたら?」


「面倒なのだったらそっちにあげるわ。元はメタルのだし、責任取って貰うわよ」


「了解したが……、流石に危険な物だと受け取る訳にもいかんぞ」


「その時は卵焼きが肉焼きになるだけじゃない?」


「さらりと凄いこと言いますね……」


彼等はあぁは言っているが、一名を除きまさか本気で食べるわけでは無いだろう。

この卵は確かに見た事がない。ゼルの屋敷に居た頃もジェイドの勉強や興味本位で幾つか本を読みあさっていたが、大きさは似ていても模様まで似たものはなかったはずだ。


「ま、後は任せたわ。来るときと違って帰り道は真っ直ぐ行けば着くわよ」


「あ、あの! ありがとうございました!!」


「どう致しまして。次はもう来ないでね」


突き放すような言い方ではあったが、その言葉の真意を皆は解っていた。

だからこそ家の中に戻っていく彼女に再び礼を述べ、そして振り返る事無く家を後にする。

その手に大きな生命の塊を持って、ゆっくりと進んでいった。




【サウズ草原】


「……えート」


数日間、草原の前で待ち惚けていたレン。

スズカゼ達の身を案じながら待っていた彼女だったが、漸く帰ってきた彼女達は何とも言えない様子だった。


「何でそんなにボロボロなんですカ?」


「……[森の魔女]が寝れば森の中の生物は制御を失う」


「それをメタルさんが言い忘れてたせいで」


「危うく死にかけたんじゃゴラァ……!!」


「いやぁ、だって来るの久々だし。襲われてたの女性陣だけだし」


「ハドリーさん、この馬鹿を上空まで引き上げて落としてください。許可します」


「了解しました」


「冗談! 冗談だって!! 助けたんだから許してくれよ!!」


ぎゃあぎゃあと喚く彼等を遠目に、レンは呆れ気味なため息をつく。

あんなに心配していたというのに、帰ってきたらこの様だ。

それでもまぁ、スズカゼが助かったという事は祝福すべき事なのではあるが……。


「……ハドリーさんとスズカゼさんは解るし、助けようとしたメタルさんも解るんですけど、どうしてリドラさんまで泥だらけなんですカ?」


「避難しようとしたら転んだのだ」


「……ダサいですネ」


「……五月蠅い」



読んでいただきありがとうございました

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