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獣人の姫  作者: MTL2
森の魔女
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魔女との語らい


「……順調に適応してるわ。問題はないわね」


胸下まで上着を捲ったスズカゼの柔肌に手を沿わせながら、イトーはそう呟いた。

私の手術なんだから当然だけれど、という言葉を付け足した彼女はとても自信に溢れている風に見える。

だが、自らの腹部の手術痕から見ても彼女の自信は相応の物なのだろう。

いや、手術痕というのは語弊がある。正しくは何の傷も無い柔肌、だ。


「あの、これ明日もですか?」


「動かないでよ? また隠れて素振りとか腕立てとかしだしたらお仕置きだから」


「お仕置きの意味が全く別に聞こえるんですが」


前日の、夜遅く。

スズカゼは就寝時間となっても、今まで寝ていた、と言うよりは仮死状態だったせいで全く眠い様子はなく。

体も鈍っているという理由でなんと木の棒で素振りと腕立てを始めたのだ。

慌ててリドラとハドリーが止めたが、本人は不満そうな様子。

なのでイトーと同室で寝かせようぜ、という提案をメタルが行い、結局は事なきを得た。

流石のスズカゼもその提案を聞いた瞬間にベッドに飛び込んだそうである。


「貴方はまだ慣らしてる状態なの。無理に動いて滞在期間を延ばしたいというのなら構わないけれど?」


「あ、いえ……、流石にそれは」


「なら結構。私だって長居して欲しくないしね」


「……そうですか。そうですよね」


物寂しそうに頷くスズカゼに対し、イトーは驚愕の表情を返した。

スズカゼもそれにつられて驚いてしまうが、彼女が一体、何に驚いたのかが解らない。

自分は何か驚かれるような事を言っただろうか?

いや、ただ単に返事をしただけだ。そんな驚かれる事はないはずだが……。


「……外に出ろ、とか言わないの?」


「え? いや別に……。ここに居らっしゃるのはイトーさんの自由ですし、私が指図できるようなことでも……」


「……ふーん」


感心、と言うのが最も適切だろうか。

何処か嬉しそうに、納得した様子でイトーは微かに目を細める。

そんなに妙な事を言っただろうか、と首を傾げるスズカゼを見て、彼女はくすりと笑みを零した。


「いえね、少し珍しかったのよ。今までの連中は外に出ろだの知識を寄越せだの五月蠅かったのよ」


確かに解らない事もない。

話に聞かずとも、彼女の知識や技術が他と逸脱しているのがよく解る。

それを求めたり利用したりする人間が多く居たとしてもおかしくはない。

まぁ、現世で呼んだ小説や漫画にだってありがちな設定だった。

そういう点もあったから、敢えて多くの意見を述べる事はしなかったのだが。


「メタルとかメイアとかね」


……それらは権力に飢えた者だったり、力を求める者だったりするのだが。

この二人はそういう物が全くないと言い切れる辺り、やはりそう物語どうこうと同じには行かないようだ。


「もー、うるさいの何の。メタルは外で遊ぼうだの何だのと言うし。メイアなんて知識を与えれば直ぐに呑み込んじゃうもの。そんな子としたら私のアイデンティティは崩壊するじゃない」


「は、はぁ…………」


「私は森の中でしか生きられないのよ。静かにゆっくりとね」


「た、確かこの森全てを掌握してるんでしたか……」


この森全てを掌握している、という事はこの森は自らの手の内にあるという事だ。

全てを知り得るというのは人類の目指す一つの極地でもあるし、一部とは言えそれが得られる森の中でしか生きられないというも解る気がする。

それは人の弱さだとか欲望だとかではなくて、ただ単に。

人の本質、ではないのだろうか。


「ま、何にせよ、どーでも良いんだけどね。遙か昔に面倒事なんて、どうでも良いと思うようになったし」


「……その精神は羨ましいですね」


「割と気楽なモンよ? 何も気にせず何も知らず、ただ気ままに生きていく……。……こんな生き方、私とアイツぐらいでしょうけれどね」


肩をすくめながら、何処か自虐の色を含めて微笑むイトー。

彼女の微笑みは何処か寂しそうで,それでいて何か達観しているようで。

スズカゼは彼女の言葉に、アイツという言葉に何処か違和感を覚えた。

けれど、それを追求できるような雰囲気でもなく、彼女は仕方なく疑問を喉奥へと押し込んだ。


「……イトーさんって、知り合いとか多いんですか?」


「え? 何? ボッチって言いたいの? 喧嘩売ってる?」


「い、いやいや! そうじゃなくて! そういう人も多く知り合いに居るのかなって……」


「私はそんなにね。そもそも知らない奴が無断で森の中に入ってきたら男は速効で追い払うし」


「……女性は?」


「決まってるじゃない。[×××××]して[×××××]して[×××××]よ。病み付きにして上げるわ」


「禁止用語連発するの止めて貰えません!?」


「男も女も禁止用語の上に成り立ってんのよ」


このままでは色んな意味で身が危ない、とスズカゼは彼女から全力で視線を逸らす。

この人は色んな意味でタガが外れているような……。


「常識って言うか、良識って言うか……」


「ンなモンくそ喰らえよ。人間、住む場所も状況も変われば、自身も変わる物よ。……人間、適応力が高い為に、変わってしまうのよ」


「……は、はぁ」


やはり、彼女には何処か達観した様子がある。

何百年も生きたという彼女だ、そういう所があっても不思議ではない。

しかし、この達観の仕方というか、この様子には何処か親近感がーーー……。


「……あっ」


「どうしたの?」


「イトーさん、ばんざーい」


「ば、ばんざーい……?」


ぺたーん。


「……これだ」


「あぁ、なるほど。……全裸で確かめない?」


「現実見たくないんで嫌です」



読んでいただきありがとうございました

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