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獣人の姫  作者: MTL2
貴族の宴
115/876

説明不足

【サウズ王国】

《王城・応接室》


「……おい、おい」


「何だぁー?」


眉根を強く押さえつけたゼルは、怒りを抑えるように酷く低い声を漏らす。

一方、その声を向けられた人物は何と言う事はない、とても飄々として軽々しい声でそれに応えた。

尤も、その人物の左右に居る二人はそれほど軽々しい空気でない事を充分に承知しているのだろうが。


「お前、俺の話聞いてた?」


「うん」


「いや、確かに護衛を頼んだのは俺だけどさ」


ゼルは震える手で人差し指を立て、ゆっくりと前方、つまり先程まで応答していた男であるメタルへと向けた。

メタルは指差された事に気付き、先程まで飲んでいた水の入ったコップを机に置く。

そんな、不思議そうに首を傾げる彼とは違って、彼の左右で姿勢を正した二人はさらにきっちりと姿勢を正し直した。


「何でハドリーとデュー・ラハン!?」


「いや、私が聞きたいです」


「右の女性に同じく……」


獣人達の副リーダー的存在であるだけでなく、第三街の事務の主軸、ハドリー・シャリア。

ギルド指折りのパーティーである[冥霊]の一人、デュー・ラハン。

一体、メタルは何を考えてこの二人を寄越したというのか。

この場には余りに不釣り合いな、この二人を。


「えー? だって条件には当て嵌まってるだろ? 」


護衛である条件は三つ。

そこそこの戦闘力を持っていること。

地位があること。

貴族間で睨まれていないこと。

確かにハドリーは第三街の中で名は知れているし、暴動時もジェイドの影に隠れているとは言え、女王に直談判した事は貴族間でもある程度の噂にはなった。

戦闘力についてもデューが居れば補って有り余ると判断したのだろう。

しかも、デューはギルド有数のパーティーだ。

地位という点については少し意味が違うが、充分に有しているはず。

だが、貴族間で睨まれていないという点についてはどうだ?


「ハドリーは獣人だ。今回、どうして俺がジェイドに護衛を頼まなかったと思う?」


「否定派の貴族だろ」


「そうだ! だからこそ条件こそ当て嵌まるお前に……!」


「戦闘力の問題だよ」


「何?」


「ジェイドは戦闘力がありすぎる。お前と張り合えるほどにな。そりゃー、貴族連中も警戒するだろ」


「……そうか、ハドリーは」


「メイドがスズカゼの衣装を直すために来てるのと同じ理由だ。秘書としてでも寄越せば良い」


確かにその通りだ。

獣人の姫という二つ名まで付いているスズカゼ。

戦闘能力の低い獣人を連れてくるというのは、擁護派には立場の確立を見せ、否定派には反論の芽を潰させる事となる。

秘書や部下という立ち位置であるならばメイアも文句は言わないだろう。


「考えたな、メタル! お前の案とは思えねぇ程だ!!」


「うん、ハドリーの案だからね」


「えっ」


「……だって格好良く言いたかったんだもん」


「お、おう……」


「…………あー、で、だ。話を戻すが」


眼前で顔を覆い尽くす男は置いておいて、だ。

今はこの見栄っ張りの男を慰めるよりも、現状を理解出来ていない二人に説明をすべきだろう。

と言うか、どうしてこの二人が現状を理解出来ていないのか。


「あの、今、初めて仕事の全容を聞いたんですけど」


「……左の男性に同じく」


ゼルはにっこりと微笑んで、ふぅーと深くため息を吐いた。

先程まで力みの余り震えさせていた指を机に下ろし、口端をゆるりと緩める。


「何て説明されて、ここに来た?」


「「来い、と」」


その言葉からゼルの拳がメタルの顔面を捕らえるまで一秒足らず。

少しばかり同情してやろうとしたのが間違いだったようだ。


「ま、まぁ、私は依頼料をいただいてますし! ギルド登録パーティーとして任務は遂行しますよ!」


「わ、私も別に問題は……」


「デューはともかく、ハドリー。お前、意味解ってんのか? 獣人のお前がパーティーに参加するっつー事の意味を」


「……えぇ、解っています。ですけど、さっきも言った通り、そんな大事は起こらないと思いますから。もし起きても私が我慢すれば良いですし」


「……はぁ、ったく」


ゼルはため息混じりに頭を掻きむしり、視線を床へと落とした。

確かに戦闘力もない彼女に対し、否定派の貴族が下手な行動を取る事はないはずだ。

だが、貴族とてまともな人間ばかりではない。

何があるか解らない以上、彼女にも細心の注意を払って貰わなければーーー……。


「まぁ、大丈夫だろ!」


「……メタル、その根拠は?」


「勘」


「よし解った。歯ぁ食いしばれ」



《王城・準備室》


「……何か変な声しませんでした?」


「さぁ……?」


応接室で騎士団長が放浪者を殴り倒そうとしているのを二人の人物が止めている最中。

貴族達が入り乱れる準備室で、スズカゼはメイドに髪を結って貰っていた。

結うと言っても、元より然程長くはない髪だ。

梳かして少しだけ纏め、髪留めを付ける程度の事しか出来そうにもないだろう。

だが、それでも過ぎた衣装を身につけた馬子には充分だ。


「……にしても」


周囲を見渡すスズカゼの視界に映るのは、豪華絢爛を具現化したような人々。

一体、何処から持ってきたのかと思うほど華美な宝石や装飾を身につけており、光を当てて外に放っておけば昆虫が集ってくるほど発光するのでは無いかとすら思えてくる。

まぁ、そんな事を口に出したりすると大変な事になるので、心に閉まっておくとしよう。


「余り周りを見回さない方が良いですよ? 貴女様はただでさえ好奇の視線に晒されているのですから」


「……まぁ、仕方ない事だとは思いますよ。こんな巨乳美人だし」


「え、あ、はぁ、え? そ、そうですね」


「ここ笑い所ですよ。ほら、笑えよ」


満面の笑みを浮かべるスズカゼとただひたすら困惑するメイド。

困惑する女性の笑みは乾いており、自らを卑下する少女の笑顔も、女性とは別の意味で乾いていた。


読んでいただきありがとうございました

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