表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣人の姫  作者: MTL2
 
109/876

閑話[大総統と将軍]


【ベルルーク国】

《D地区・軍本部・大総統執務室》


「どうだったかね?」


バボックはにこやかな表情のまま、その言葉を述べた。

その表情の意味は機嫌が良いからだとか、そんな理由では無い。

ただ単に、答えが分かりきった問いだからだ。


「スズカゼ・クレハはやはり間違いなく精霊の要素を持ち得た人間だ。そして、それ故に非常に危ういバランスの上に成り立っている」


彼の、答えの分かりきった問いに答えたのはイーグだった。

大総統執務室に置かれた高級品のソファに腰掛けながら、物言わぬ表情を保ち、言葉を続ける。


「精霊が魔力によって召喚されるように、あの少女も己の魔力で召喚されている。使霊の主が己である、とでも言おうか」


「己の魔力で現世に存在できる、と。妖精はともかく、精霊ともなれば人間よりも遙かに能力は高い。張り合えるのは獣人でも難しいだろうね」


「そう、半精霊は人間よりも遙かに能力が高い。それが身体能力であれ感覚神経であれ、な」


「だけれど、それに対するデメリットもある」


「あぁ。先程も言ったように人間と精霊のバランスは非常に危うい。そもそも身体上の、物理的に存在し得ないバランスとなれば、それを左右するのは」


「魔力」


「その通りだ。魔力により精霊と人間の境界が変化するならば、現状のスズカゼは酷く不安定だった。クグルフ国での一件が影響しているのだろうな」


「なるほどね。その魔力を発散するのが君の[魔炎の太刀]という訳だ」


「あぁ。[魔炎の太刀]は魔力に呼応して威力を上げるように造ってある」


「即ち、常に魔力を消費すると?」


「魔力が一定量あるならば、な。余りに魔力を消費しすぎると精霊としての要素が消えてしまい、本人も消滅する事となる」


「なるほど、中々どうして面倒な体質だ。ほんの少しの差違で己を壊すのだからね」


「だが、そんな体質の人間だからこそ我々には必要だ。そうだろう」


「……あぁ、その通りだとも」


笑みを崩したバボックは酷く冷たい目で眼前を見詰める。

その視線の先にイーグは居ない。

ただ、あるのは遙か先にあるはずの虚空だけ。


「……まぁ、少し計算外な事もあったけど、大凡は計画通りだ。問題はない」


虚空を見つめる瞳を閉じ、バボックは机の中から封の施された煙草を取り出す。

その箱の装飾は非常に豪華で、一目でただの品では無い事が解る。

恐らくは彼が隠し持っていた極上の一品なのだろう。

だが、その極上の一品もひょいとイーグに取り上げられることとなる。


「あ!?」


「禁煙中、だろう。何を自然に取り出している」


「少しぐらい駄目かな? こんな大事が終わった後だ。慰安と祝勝で」


「全てが終わってからにしろ」


「む、むぅ……」



「それより話し合うべき事がまだ残って居るだろう」


「……あぁ、襲撃についてか。君はどう思う? イーグ」


「バレた、な。原因は間違いなくシーシャ王国に向かわせた調査団だ」


「ふむ、妙だなぁ。国籍とか情報は全部消して置いたのに」


「原因はこれだろう」


イーグは先程バボックから取り上げた煙草を指先で弾いて見せた。

同時に、バボックも納得したかのようにあぁ、と感嘆の声を漏らす。


「これは失敗したね。煙草か」


「取り上げておくべきだったな。国籍を消すことまでしたというのに、煙草の銘柄でバレるとは」


「銘柄だけ、ではないね。大方、今までの行動とそれで確実的に断定されたんだろう。それであの襲撃だ」


「……あの精霊や妖精は個人によって召喚された物だった。あの数の、あの質を、だ」


「人間の所行ではないね。こんな事が出来る存在を私は知らない」


「……ともかく、暫くは行動を控えるべきだろう。国力には未だ余裕があるが、消耗させられて良い事などないのだからな」


「ははは、大義に時は入り用なり、かな」


苦笑混じりにバボックは煙草へと手を伸ばすが、それはイーグによって打ち払われる。

物惜しそうに彼を見上げるバボックに対し、イーグはさらに不機嫌そうな視線を向けるだけだった。


「……しかし、今更だけれど。私に獣人の姫君のことをバラして良かったのかな? 約束していたんじゃないのかい?」


「口約束など破るためにあるような物だ」


「……確かにね」


くくっ、と小さく嗤い、バボックは椅子に深く腰を沈め込む。

彼のそんな様子を見て、イーグもまた、何かを思案するように深く瞳を閉じてみせる。

既に客人の去った国内で、彼等は。

深く、深く、深く。

何かの為に、彼等の言う大義のために。

ただただ、思案を深めていたーーー……。


読んでいただきありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ