誕生の危機
しばらく様子を見ていると、眩しさが少し変化したような気がします。本当に微かですが…もうすぐ生まれるのでしょうか?
「あらあら…これはいけないわ。生まれるために必要な魔力が足りていないみたいね」
「こ、このままでも大丈夫なのでしょうか?」
「そうね…運が良ければ、としか言えないわ」
ビビさんがやや険しい顔をして本を見つめています。状況があまり理解できていませんが、どうやらこのままでは妖精さんと会えないみたいですね…。魔力が足りていないと仰っていましたが、それを外部から注ぐのはどうなのでしょうか。
「生まれてくる子と相性が良かったら問題ないのだけど…。相性が悪かったら最悪の場合、魔力障害を持って生まれてきてしまうわ」
「その魔力障害とは…?」
「魔力回路に異常が生じてしまい、魔法が上手く使えなくなったり魔力を操ることが難しくなるの。特に私たち精霊や妖精は生物が呼吸するのと同じように魔法を使うから、デメリットが大きすぎるのよ。人間が魔力障害を持っても魔法が使えないで済むけれど、妖精が魔法を使えないのは生きていくことができないのと同じ道理だわ」
それは…何も言えません。ですがこのまま私たちが何も干渉せずに妖精さんが生まれても問題ないのですか?魔力が足りないままだと、それこそ何か障害や病気になったり…。
「えぇ、もしかしたら生まれてくることすらないかもしれない。でも…そうね。知恵の精霊である私にも難しい問題だわ」
「…」
ビビさんと頭を突き合わせて知恵を振り絞っている間にも、本がチカチカと不安定に光っています。あ、段々と小さくなっていってる気が…。
「…あらあら、ここは腹をくくりましょうか。幼子を見捨てるわけにもいかないしね。ステラ、本に魔力を流してちょうだい」
「!良いのですか?」
「ただし、ゆっくりと慎重にね。何か異変があったらすぐに止めるわ」
「…わかりました」
私も覚悟を決めます。ルノーとフォスが心配そうに見守る中、本に近づき手をかざしました。そしてビビさんに言われた通りゆっくりと魔力を流していきます。…今のところ拒絶されている感じはしませんね。それどころかグングンと魔力を吸収している気がします。私の魔力で良ければいくらでも持っていってください。その代わり元気に生まれてくださいね!
・・・
・・
・
「ーーもう大丈夫そうね。ステラ、お疲れさま」
「…ふぅ~緊張しました~…」
「ホホー」
「…シュ」
張りつめていた空気が一気に緩みました。幸い今から誕生する記録の妖精さんと私の魔力は相性が良かったらしく、想定よりも早く魔力が足りたようです。安心からその場に座り込んでしまいました。後は無事に生まれてくるのを待つだけですね。
「あらあら、気が早い子ね。もう生まれるわよ」
「え?!もうですか?!」
今一息ついたばかりで、心の準備など何もできていませんよ!とあたふたしている間に、本がひと際まばゆく光り始めました。目が開けられませんーー。
『ワ~!』
「まぁ~元気な子ね~」
「はっ!」
目を開けると、そこには身長が本の大きさと同じくらいの妖精さんが。髪は新緑色のボブ、服装は私と同じケープを纏っており、背中にはトンボのような翅。とても可愛らしい男の子です!…誕生の瞬間は見られなかったのですね。ちょっと残念です。
少し落ち込んでいると、ビビさんの周りを飛んでいた妖精さんがこちらに来ました。そして私の周りとクルクルと回り始めました。
「わっ!め、目が回りますよ」
『ワ~!ステラ~スキ~!』
「あらあら、その子あなたが好きなのね。そんなに懐いちゃって」
なぜ生まれたばかりの妖精さんが私の名前を知っているのかは置いておくんですね…。ですが好かれているのは分かります。それはもう、飛び回って全力で愛を伝えてくださっていますから。
『ステラ!ステラ!』
「はい。ステラですよ」
「うふふ。可愛らしいわね~。相性も良さそうだし…あなたたち、召喚契約を結んでみたら?」
「召喚契約?」
とはなんですか?詳しく尋ねてみると、まずテイムできるのは実体がある生き物のみで、妖精や精霊と言った概念存在はテイムすることができないみたいです。し、知りませんでした…。そこで生み出されたのが召喚契約。相手と対等な関係を築き、対価を渡すことで一時的に契約した相手の力を召喚することができるスキルのようです。
「テイムは強制命令で、契約は雇用関係みたいなものかしら。まぁ、やりたくないことは拒否されることもあるけれどね。それと誰かと契約を結んでいる子と契約することはできないわ。つまりステラがこの子と契約すれば、他の者とこの子は契約できなくなるってこと」
「それは…」
少し契約することを躊躇してしまいますね…。私よりもっと良い人はいるでしょうし…。こんなに好かれていますが、本当に契約していいのか悩みます。
「あらあら、少し意地悪なことを言ってしまったかしら。でもね、裏を返せば悪質な者と契約しなくてすむという事よ。この子の力を悪事に利用しようとするものは出てくるでしょう。それがステラと契約していると未然に防げるの。そう考えるとプラスでしょ?」
確かに、そう考えることもできますね。記録の妖精さんは何かを期待したような目でこちらを見ています。…契約、しましょうか。これも何かの縁でしょうしね。
次の更新は4月9日です。
ちなみに今まで意識していなかったのですが、フォスの性別はどっちでしょうか?ルノーは勝手に男の子にしてましたが、フォスは正直考えていませんでした…。




