回復魔法の勇者は人間に復讐する
俺は勇者として生を受けた。
周囲からはさぞ素晴らしい身体能力、攻撃魔法を持っているのだろうと期待されていた。
しかし、周囲の期待とは裏腹に俺には回復魔法しか備わっていなかった。
周囲はそんな俺に落胆し、世界の滅亡論を信奉し始めた。
そんな周囲を見返してやろうと回復魔法だろうと完璧にマスターすれば魔王であれ倒すことはできると胸に言い聞かせ1日たりとも修行を欠かさなかった。
その甲斐あってか、それとも魔王と勇者の因果のせいか俺は今魔王の元へとたどり着いた。
「勇者よ、よくぞここまでたどり着いた。しかし、貴様の快進撃もここまで。この我魔王が貴様を打ち滅ぼしてくれる!」
魔王は重厚な声でそう叫んだ。
だが、そんなこと俺には関係ない。
俺がここに来たのは奴を倒すためではない。
奴と手を結ぶためだ。
「なあ魔王、お前疲れてないか?その疲れ俺が癒してやるよ」
「何を言うておる」
俺の予想外の発言に魔王は拍子抜けしている。
「2度は言わないぞ。お前のその疲れ俺が癒してやるよ。お前人間を支配するために働きづめで疲れてるだろ」
「馬鹿なことを言うな。貴様勇者だろ!ここは絶対に許さない魔王とか言って戦闘に入るところだろ」
俺の発言に戸惑い魔王のくせにまともなことを言ってきやがる。まぁ、無理もないだろう。
「俺はあんたの人間を支配する夢を手伝いたいんだ。勇者なんてのはただの肩書に過ぎない。俺は人間が許せない。」
「どういうことだ?」
「昔は俺も勇者として生を受けたからにはお前を倒すために修行に励みに励んでいた。そして修行を終えて魔王討伐の旅に出た。しかし、行く先々で俺は人々から罵詈雑言を浴びせられた。「お前のせいで世界は滅ぶんだ」と。俺が回復魔法しか使えないというだけで。しかも回復魔法しか使えないなりに魔物を討伐し、人々を救ったのにも関わらずだ。そしてどんどん俺の人間に対する憎しみは募っていった」
「そうか、それはつらかったな」
魔王は親身になって聞いてくれた。案が良い奴だ。人間と違って。
「そういうわけで俺をあんたの仲間にして欲しい。そのしるしにあんたのその疲れ俺に癒させて欲しいんだ」
「そういうわけならよいだろう。しかし、魔族の社会も甘くはないぞ。仲間といえど人間となれば今まで受けてきたようなつらい目にあう可能性もあるぞ。それでもいいのか?」
「それでも俺は人間に復讐がしたい」
「では、癒してくれ我のこの疲れを」
魔王は王座からこちらへと手を差し伸べる。
俺はその手に乗り、魔王の胸元に連れてこられた。
「では、始めよう」
俺はそう言うと魔王の胸へと手を当て、心を込める。
緑色に輝きが放たれる。
「ぐっ。ああぁ」
魔王は急に吐血し、苦しみだした。
俺は魔王の手から振り落とされる。
「貴様だましたな!この我を!」
「いや、騙してなどいない。本当に俺はあんたの仲間になりたくて......」
「ふざけるな!」
その断末魔と共に魔王は爆散した。
周囲に残骸が飛び散る。
魔王なんてこんなものか。まあ当然だな俺が極めたとびっきりの回復魔法をお見舞いしてやったんだからな。しかし、あいつが自分の弱点(回復魔法)にすら気づいていないという奴の部下からの話が本当だったとはな。余程部下から嫌われていたのだろうな。
これで邪魔者は消えた。
奴の部下は癒してやったらあっさりと俺に寝返り忠誠を誓った。
これからが俺の復讐劇の始まりだ。
「おい、お前たち。人間どもを一人残らず駆逐しろ!」
「承知しました。魔王様」
部下たちはきれいに揃えて言った。
人間どもの言うように俺が滅びの象徴になってやる。




