6話 黎明の継承者 ― 目覚める記憶 ―
女だらけのパーティーで男ひとり。
戦場よりも複雑なのは、女心と記憶の迷宮。
第六話では「死」ではなく、「愛と嫉妬」が中心となる。
過去と現在、そして封印された女神が交錯し、物語は新たな段階へ
迷宮の第十二層。
黒曜石の壁に反射する光が、俺たちの影を細く裂いていた。息を吸うたびに、空気が鉄のように重い。
「この層……他と違う。魔力が“生きてる”」
そう呟いたのは、紅の髪を持つ剣士――リリア。
彼女は常に俺の一歩前に立つ。女だらけのパーティーで唯一、俺が背中を預けられる戦士だった。
「おい、待って。こっちに来て」
奥から声を上げたのは、治癒術師のセレナ。透き通るような銀の髪が揺れ、彼女の指先が光の紋を描く。
床の紋章が淡く輝き、ひとつの扉が現れた。
「……見つけた。第十二層の聖域、“黎明の間”」
その名を聞いた瞬間、俺の胸の奥で何かが震えた。
見たこともない場所なのに、懐かしさが込み上げてくる。
「カイ、大丈夫? 顔が真っ青よ」
セレナが心配そうに俺を覗き込む。
その仕草に――リリアの目が、一瞬だけ鋭く光った。
……まただ。
最近、二人の視線が俺の上で交錯することが増えた。
戦闘中でさえ、隙をつくような火花を散らす。
「別に、気にする必要なんかないわ。あんたが誰に向けて笑うかなんて」
「でも、命を預け合う仲間なんだから……放っておけないでしょ?」
「仲間、ね。――ほんとに、それだけ?」
リリアの言葉に、セレナが小さく息を呑む。
俺は慌てて口を挟もうとしたが、声が出なかった。
“仲間”という言葉が、今の俺にはうまく信じられなかった。
扉を開けると、そこは一面の光だった。
宙に浮かぶ白い石柱、ゆらめく水の床。
その中心に――“彼女”がいた。
金色の髪、閉じられた瞳。
全身を光の繭に包まれ、まるで眠る女神のように静かに呼吸していた。
「……生きてる?」
「間違いない。封印されてるんだ。千年前の“黎明の巫女”……」
セレナが震える声で呟く。
リリアは無言で剣を構えた。
「どうして武器を?」
「感じない? この女……カイと同じ匂いがする」
「同じ……?」
次の瞬間、俺の頭に閃光が走った。
視界が反転し、知らない記憶が流れ込む。
戦火の中で、女神と契りを交わす男――その顔は俺と同じだった。
“カイ”ではない、別の名を呼ばれていた。
“黎明の継承者”。
息をのむ俺を、二人の少女が見つめていた。
愛情か、疑念か、あるいは憎悪か。
光の巫女が目を開く――金の瞳。
「――貴方は、私のもの」
その言葉と同時に、リリアの剣とセレナの魔力が衝突した。
迷宮が震え、光が砕ける。
俺の心の奥にある“記憶”が、ゆっくりと呼び覚まされていった。
戦いの傷よりも深いのは、心に刻まれた感情の爪痕。
カイが“継承者”として目覚めた時、彼を取り巻く女たちの関係はもう戻れない。
次回、第七話――「契約の口づけ ― 真実の封印 ―」。
愛が誓いか、呪いか、その境界が試される。




