欠片の王国 ― もう一つの継承者 ―
…
風が荒ぶ荒野を抜け、リュウたちは丘の上にたどり着いた。
その先に広がるのは、天空のように浮かぶ奇妙な城。
石造りの城壁は透き通るような青い光を帯び、まるで自ら呼吸しているかのようだ。
「ここが……欠片の王国?」
ひびきが呟く。
「そう。アーク・コードの欠片が生み出した世界の一つ。
ここには“もう一人の継承者”がいるはずよ」
エリカが慎重に足を進める。
丘の中央、光る石の円盤の上に一人の少年が立っていた。
銀髪、漆黒の瞳。リュウとは似ても似つかないが、どこか彼の影を帯びている。
「……君が、もう一人の継承者か?」
リュウが声をかけると、少年は微笑んだ。
「そうだ。私はアルト。君と同じく、アーク・コードの力を受け継いでいる」
アルトの背後には、欠片の王国を統べるような青い光が渦巻き、王国の住人たちが彼を守るように並んでいる。
リュウたちは緊張したまま一歩踏み出す。
「アルト、君は何を望んでいる?」
「望み? この世界を……私だけの世界に変えることさ」
アルトの言葉に、リュウは眉をひそめる。
「俺たちと同じ“守る”ための力じゃないのか?」
アルトは肩をすくめ、笑った。
「守るだけじゃつまらないだろう?
力を手にした者には、選ぶ権利がある。君も同じだったはず」
緊張が頂点に達し、空気が裂けるような衝撃が走る。
アルトは手を掲げ、王国の欠片から無数の光の槍を放った。
リュウたちは反射的に防御魔法を展開し、光と闇の嵐の中で互いの力を試す。
「俺は、絶対にこの世界を守る!」
リュウの声に、アーク・コードが応えるように輝きを増す。
その光がアルトの攻撃を打ち消し、衝撃波が王国の空に広がった。
戦いの中、ひびきとエリカはリュウを支えつつ、アルトの背後を探る。
「リュウ、彼は本当に“守るため”じゃない。
でも、この力は……弱くはないわ」
エリカが小声で告げる。
やがて、戦いの最中にアルトの瞳に迷いが生まれる。
「君……俺と同じだ。力を持ちながら、守りたい者がいる。
俺は……間違っていたのか?」
その瞬間、リュウは歩みを止め、手を差し伸べる。
「アルト、力は“独り占め”するものじゃない。
共に使えば、もっと多くの人を救える」
アルトは一瞬、黙ったままリュウの手を見つめる。
周囲の光が揺れ、欠片の王国そのものが呼吸するように光を変える。
「……君と同じ道を歩むか」
ついにアルトが頷く。
緊張が解け、空に虹のような光が現れる。
欠片の王国は、闇と光の調和を取り戻し始めた。
リュウとアルトは互いに微笑み、手を握り合う。
「共に、この世界を守ろう」
「ああ、俺たちならできる」
遠くで風がささやく。
“欠片の王国”は、新たな二人の継承者によって再び生まれ変わる――。
… …




