23話 再臨の詩 ― 世界を繋ぐ書 ―
“奈落”に沈んだはずの少年が、再び光の中から帰還する。
世界を繋ぐ書が開かれた今、天と地、女神と人間、全ての記憶が交錯を始める。
だが、リュウが取り戻したのは“記憶”だけではなかった――
光が収まったあと、世界は静寂に包まれた。
崩れかけた森の中心に、白い光柱が立ち昇り、その中からゆっくりと一人の少年が姿を現す。
「リュウ……!」
ひびきが駆け寄る。涙が頬を伝い、声が震えていた。
「ほんとに……帰ってきたの?」
リュウは微かに笑みを浮かべた。
「ただいま、ひびき。少し、長い夢を見てたみたいだ」
その背後で、アーク・コードが浮かび上がり、淡い金色の光を放つ。
それはもう、ただの書物ではなかった。
彼自身の“魂の延長”として呼吸し、意思を持っている。
エリカがその光を分析し、息を呑む。
「……まさか、アーク・コードが“世界の記録”そのものに融合してる。
リュウ、あなたの存在が、この世界の再構築の鍵になってるのよ!」
バンが剣を握りしめる。「つまり、こいつを失えば……世界そのものが消えるってことか」
エルミナが一歩前に出る。
「だからこそ、護らなければならない。この“世界を繋ぐ詩”を。」
その時、地の底から低い唸りが響いた。
暗雲が空を裂き、女神アル=ラグナの影が再び現れる。
「愚かなる子らよ……“再生”とは、同じ“破壊”を繰り返すこと。
お前たちはまだ、学ばぬのか。」
闇の中から、無数の幻影が現れる。
それはリュウたちが倒してきた魔物たちの姿――だが、どれもかつての仲間や人々の“記憶”の形をしていた。
「やめろ! そんな姿を見せるな!」
リュウの叫びに、アル=ラグナの声が響く。
「ならば証明してみせよ。お前が“女神の詩”を継ぐ者であることを。」
次の瞬間、アーク・コードが開き、金の文字が宙に浮かび上がった。
リュウは深く息を吸い、胸に手を当てる。
――詩が、流れ出す。
『願わくば、空に祈りを。
大地に声を。
失われし魂よ、再び風となれ。
その名は“再臨”――。』
光が大地を覆い、幻影たちが浄化されていく。
闇を裂くように“女神樹”が再び輝きを取り戻し、折れた枝の先に白い花が咲いた。
ひびきがその光を見つめ、囁く。
「……戻ってくる。世界が……」
リュウの体から金色の羽が舞い上がる。
それはエルミナの翼と共鳴し、二人の間に光の環が生まれた。
「エルミナ、君は――俺の中にいたんだな」
「ええ。あなたが選んだ“果実”は確かに奈落だった。けれど、それでもあなたは“光”を選んだの。」
その瞬間、アル=ラグナの影が裂けた。
「まだ終わらぬ……我が力は“永劫”――」
しかし、リュウは静かにアーク・コードを閉じる。
「終わらせるさ。
俺が――この世界と共に生きる限り、何度でも。」
光が溢れ、世界は白に染まった。
やがて闇が消え、青空が戻る。
空からは“羽の雨”が降り、かつて滅びた都市が蘇り始めた。
リュウは空を見上げて呟いた。
「これが、“空からの贈り物”の本当の意味か……」
仲間たちが笑顔で集まる。
エリカが小さく笑った。「ようやく、再出発ね。」
ひびきが涙を拭いながら微笑む。「リュウ、次はどこへ行くの?」
リュウは少し考え、アーク・コードを見つめた。
「この本が示す場所へ――“最後の詩”を探しに行こう。」
光が舞う中、彼らは再び歩き出した。
それは、新たなる“世界の再生”への旅の始まりだった。
第23話「再臨の詩」では、ついにリュウが“継承者”として覚醒し、物語が一つの終焉と再生を迎えました。
“アーク・コード”はただの遺産ではなく、“意思ある世界そのもの”。
リュウはそれを通じて、人と神の間の橋となったのです。
だが、全てが平和に終わったわけではありません。
再構築された世界には、まだ“詩の欠片”が散らばっており、それを狙う新たな影が動き始めます。




