五話:形態・其の二
草原に降り注ぐ太陽は変わらず燦々と輝き続けている。この世界に来てから、体感的にはさらに一万年が経過していた。時間にして約876万時間。この途方もない時間の中で俺は自分自身を鍛え続け、進化を遂げてきた。
身体能力は人間の枠を超え、骨と肉の形状変化は完全に安定して制御できるようになった。それだけでなく、衝撃波――ソニックブームの形状や色も自在に操れるようになり、俺の舞はまるで芸術作品のような美しさを誇るまでになっている。
そして千年前、俺は新たな能力――「プラズマ」を生み出す力に目覚めた。
プラズマ。とてつもないエネルギーで原子核と電子を引き剥がし、物質を高温でイオン化させるその力は、俺自身の進化の象徴。やり方は骨を光速に近い運動で動かし、一点集中で熱を放射。これは形状変化との相性も抜群だ。
「……次の段階に進むか」
俺は草原の真ん中で立ち尽くしながら、自分自身に問いかけた。これまでの鍛錬で得た力をさらに昇華させるべく、新たな形態――の構築を試みることにした。
まずは背中に意識を集中させる。骨格変化の技術を活用し、背骨から二本の骨を生やすことを試みる。
「痛っ」
すぐに回復するため問題ないが、最初はわずかな痛みがあった。
「よし……これでどうだ」
徐々に骨が伸びていき、背中から二本の骨が槍のように尖って突き出る形状。その骨は柔軟性を兼ね備え、プラズマを放つための超速が簡単だ。
次に、その骨をプラズマ発射装置として機能させるべく、内部構造を調整する。骨の内部に微細な管状構造を作り上げ、プラズマを一点集中で放射できるように設計する。
「……ふぅ、これで準備完了だな」
俺は試しに背中の骨からプラズマを発射してみることに。まずは軽くエネルギーを集中させるため、空気中と摩擦を起こす。
「……おおっ!」
背中から放たれたプラズマは鮮やかな青白い光を帯びながら、一直線に草原を焼き尽くしていく。その威力は圧倒的である。
「これは……凄い」
俺は歓喜しながら、その力をさらに磨き上げるべく試行錯誤を繰り返した。プラズマの色や形状も調整可能であり、まるで光の芸術作品を作り上げるような感覚。
「まだまだ進化できるはずだ――!」
***
草原に降り注ぐ太陽は変わらず燦々と輝き続けている。この世界に来てから、体感的にはさらに100年が経過した。しかし――。
俺は100年の間、全く進化していなかった。
これまでの千年、いや一万年と比べても、何も変わらない。身体能力は極限まで高めた。舞と斬撃も芸術の域に達した。プラズマの制御も完璧だ。だが、それ以上の何かが見つからない。
「……くそっ」
俺は草原に腰を下ろし、ため息をついた。目の前には変わらぬ景色。青い空と広がる緑の絨毯。
この十年、俺は新たな技術を模索し続けた。骨格変化をさらに複雑化しようと試みたが、すでに限界を超えてたいた。プラズマの応用も考えたが、これ以上の改良は思いつかない。何をしても、新しい突破口が見えない。
「俺は……ここで止まったのか?」
五億年という途方もない時間に挑み続ける覚悟を持っていたはずなのに、今の俺はただ立ち止まり、足掻くことすらできない。
孤独な世界で、自分自身との戦いに意味を見出せなくなっていた。
「……何か、何かきっかけが欲しい」
そう呟きながら俺は空を見上げた。その瞬間、何かが心の中で微かに揺れた。これまでとは異なる感覚――まるで遠くから呼びかける声のようなもの。
「これは……?」
俺は立ち上がり、無意識にその声に耳を傾けた。