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一話:楽しさを見出す

 目を覚ました俺は、広がる草原をただぼんやりと眺めていた。どこまでも続く緑の絨毯。風が吹き抜ける音だけが耳に届き、そこには生命の気配は微塵も感じられない。


「本当にここで五億年を過ごすのか……」


呆然としたまま立ち尽くし、周囲を見渡す。しかし、どの方向にも同じ景色が広がっている。丘もなければ木もない。ただ平坦な地形が永遠に続いているだけだ。どこかに出口があるのではないかという淡い期待を胸に、足を踏み出してみる。


歩く。歩いてみる。しかし歩いても歩いても景色は変わらない。太陽は燦々と輝き続け、空には雲ひとつない。時間の流れすら感じられないこの世界で、俺は何をすればいいのだろうか。


「寝ればいいんじゃないか……」


ふとそんな考えが頭をよぎる。五億年という途方もない時間も、眠り続ければ一瞬で過ぎ去るのではないか。そう思い立った俺は、その場に横たわり目を閉じた。


しかし、どうしたことだろう。眠気がまったく訪れない。瞼を閉じても脳は冴え渡り、体は疲労を感じることもなく、ただ静寂に包まれるだけだ。


もしかして、腹が減ることもなく、喉の渇きも感じない。この世界では俺の身体は、物理的な欲求から解放されているのか。


「じゃあ五億年どうすればいいんだ……」


絶望感が胸を締め付ける。この世界で何をすればいいのか、何も思いつかない。勉強でもして時間を潰そうかとも思ったが、道具も何もないし、そもそも五億年も勉強するなんて正気の沙汰ではない。


俺は草原に横たわり、ただ空を見上げた。青空は変わらず美しいな。それが逆に俺の心を蝕む。どこまでも続くこの単調な景色に、俺は次第に絶望感を覚えるようになった。


「こんな場所で五億年も過ごせるわけがない……」


苛立ちと焦燥感が入り混じり、俺は立ち上がった。そして無意識に走り出していた。走れば何か変わるかもしれない。


走れば出口が見つかるかもしれない。


草原を駆け抜ける。風が顔に当たり、足元で草が揺れる。その感覚が妙に心地よかった。走ること自体に意味はないかもしれない。それでも、この単調な世界で何かに打ち込めるのは案外良い気がする。


「走るのって……意外と楽しいな」


俺はただ走り続けた。この世界では疲労を感じることもなく、息切れすることもない。ただ心地よい風と草原の感触だけが俺を包む。それはまるで、この世界が俺に与えた唯一の慰めのようだった。


絶望と希望。その狭間で俺は走り続ける。この草原には出口などないかもしれない。それでも、走ることで俺は自分自身を保とうとしていた。


そして、この行動こそが五億年という途方もない時間を乗り越えるための鍵になるのではないかという予感が芽生え始めていた。


「まだ終わっていない……俺はここで生き抜いてみせる」


 胸の奥で小さな炎が灯る。それは微弱ながらも確かな決意に違いない。

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