プロローグ:空から落ちた五億年ボタン
学校の帰宅途中、いつものように軽やかな足取りでスキップをしていた俺は、突如として空から降り注ぐ奇妙な影に気づいた。視線を上げると、そこには不思議な箱が宙に浮いている。瞬間、胸の奥に得体の知れない不安が芽生えたが、それを押し殺して箱へと近づく。
「なんだこれ……?」
その箱は、まるで俺を誘うかのように静かに地面へ降り立った。慎重に手を伸ばし、蓋を開けると、内部には赤いボタンがひとつだけ鎮座している。見た目からして怪しさ満点だが、ボタンの中央には日本語でこう書かれていた。
「? 『押せば好きな能力を得ることができる。ただし、五億年の間この部屋で過ごすことになる。また、五億年を過ごせば適応的世界へ飛ばされます』好きな能力……」
その言葉に俺の心は大きく揺れた。異能力的なものが手に入るという甘美な誘惑に抗うことは難しい。だが同時に、五億年という途方もない時間の重みが脳裏をよぎる。しかし、欲望というものは時に理性を凌駕するものだ。
俺は迷いなくボタンを押した。
カチ--
次に目を開けた時、俺は草の上に横たわっていた。青空が広がり、太陽が燦々と輝いている。だが、その光景はどこか現実味を欠いていた。
「ここはどこだ」
俺はゆっくりと体を起こし、辺りを見渡した。視界には一面の草原が広がり、どの方向にも人影は見当たらない。風が吹き抜ける音だけが耳に届く。
「嘘だろ……」
心臓が激しく鼓動する。五億年という言葉が頭の中で反響し、その意味を改めて理解する。俺はこの場所で、何をすればいいのだろうか? いや、それ以前に本当に五億年もの時間をここで過ごすことになるのか?
「あの時、なんで容易に押してしまったんだ……」
後悔が胸を締め付ける。だが同時に、少しだけ希望も感じていた。五億年という膨大な時間の中には、何かしら楽しみや発見があるはずだと、自分自身に言い聞かせる。
「まずいことになった……」
拳を握り締め、大地を踏みしめる。その瞬間、俺は決意した。この異世界とも言える場所で、自分がもう一度何者なのかを見つけ出す旅に再出発することを。
絶望と希望が交錯する中で、俺――神谷掀侍の新たな物語が幕を開けた。