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第六章・義眼の志士

この物語には新選組等歴史的人物の子孫が登場いたしますが、フィクションですので実際の人物や団体等とは全く関係ありません。

また、未来がこのような形になっていたりするのはあくまでも“空想”ですので、ご了承ください。

狐依こよりが神選組に来て一カ月。ようやく暮らしに馴染んだ頃のことである。

狐依は掃除だけでなく、料理も手伝うようになった。

初めのころは覚束ない手つきでやっていたが、元々手先が器用なのか、すぐに料理に慣れてしまい、今では簡単な料理なら作れるようになった。

そして、この日はかおると共に夕食の買い出しに赴いていた。

「えぇと、今日は……、鯖の甘露煮と、春野菜のサラダにお豆腐のお味噌汁とご飯ですね。」

狐依が献立を確認すると、郁がてきぱきと指示を出す。

「魚はあの店がいいだろう。春野菜ならあの店、豆腐と味噌と米はまだ屯所に余っているから、今日は魚と野菜を買って帰るぞ。」

「はい。」

狐依は郁の生真面目で無口な性格にだいぶ慣れてきた。

共にいる時は、二人だけなので無口がそんなに気にならないが、幹部が数人交わればすぐに無口が目立ち始める。

しかし、皆の話をしっかりと聞いており、そこが郁の冷静さに繋がっているのだと狐依は思っている。

この日も、桜里さくらざとは平和そのもの――――そのはずだった。

狐依と郁が魚介類専門店へと近づいて行くと、ふいにその視界に黒い小鬼のようなものが現れた。

「!斎藤さん、あれ!」

狐依が小さな声で呟くと、郁は頷いて刀の柄に手をかけた。

――――――その時、

「ちくと待ちう、斎藤っ!」

どこからかそんな声が響き、馬の足音が響いてきた。

二人が道の向こうを見ると、黒馬がこちらに駆けてくるのが見えた。その背に、一人の人間が乗っている。

「――――あんたは…!」

郁が目を見開いてそんなことを言う。しかし、狐依には誰だか全く分からない。

馬上の人はその手に黒光りする物――――どうやら拳銃らしい――――を構えると、

「おまんら伏せろ!!」

そう叫んだ。その声に、人々は躊躇いもせずに体を伏せる。

狐神こがみ、伏せろ!」

郁がそう言って、狐依の肩に手を置いて共に伏せた。

ズガンッ と銃声が一発轟き、狐依と郁の前で店先の商品を持ち去ろうとしていた小鬼に命中し、小鬼は「キィィ!」と小さな叫びを上げながら砂のように消えた。

黒馬は店の前にくると、手綱を引かれて立ち止まった。

「そいつは西洋妖怪じゃきぃ、刀じゃ斬れんよ。」

馬上の者がそう言って、かけていたサングラスを外して笑った。

「元気そうじゃのぅ、斎藤。最近顔を見てなかったから、ちくと心配しとったんじゃ。」

馬上の男は日焼けした肌に焦げ茶色の癖毛を後頭部で一括りにし、左目を跨いで縦に傷痕がある男だった。

右目は茶色の瞳だが、左目は橙色の瞳で、どうやら義眼のようだ。

「あんたも相変わらずだな、坂本さん。」

「――――それで、そこのかわいい嬢ちゃんはどうしたんじゃ?斎藤がクラブかどこかから、かっぱらってきたのか?」

ニヤリ、と悪戯っ子のように笑ってそう言う男に、斎藤は小さくため息をついた。

「こいつは狐神狐依。――――貴光たかみつがあんたのところへ話をしに行ったと思うが。」

「おぉ!来ちょった、来ちょった!ほう、そうか、おまんが狐依のぅ!―――ちゅうことは、もしや屯所から駆け落ちか?」

どうやらこの男、そんなにも狐依と郁をくっつけたいらしい。

「狐神、この人は坂本刀馬とうまさん。―――前に話しただろう。」

狐依はその言葉を聞き、少し驚いた。

警察官だと聞いたが、まさかこのような人物だとは思ってもいなかったのだ。

服装も制服ではなく、私服に近い。

「なんぜよ、無視しなくてもいいじゃろう、斎藤。相変わらずつれない男じゃ。」

刀馬はわざとらしくため息をつくと、ようやく馬から降りた。

「よろしくなぁ、狐依!街ん中で困ったことがあったら俺を呼べ!名前呼んでもらえればすぐにこいつで駆けつけるきにの!」

そう言って刀馬が馬の背を叩くと、黒馬は肯定するように嘶いた。

「よろしくお願いします。」

狐依が深く頭を下げると、刀馬は笑顔で何度も頷いた。

「おぉ、そうだ、おまんの家族のことだが、他県の警察にも申請しちょるで、安心するぜよ。」

その言葉を聞き、狐依は顔を輝かせた。

「坂本さん、俺達は買い出しがあるので、これで。」

「ちくと待ちぃ!俺も神選組に用があるきに、一緒に行くぜよ。」

刀馬がそう言うと、郁は少し嫌そうな顔をしたが、頷いた。



―――――神選組屯所。

ばくばくと、遠慮も何もなく夕食を頬張る刀馬を、神選組幹部達は唖然として見ていた。

「一日中動き回ると腹が減るでの、やっぱり夕食は欠かせんぜよ!」

「それはいいが、刀馬。お前、何の用があってここに来たんだ?」

呆れを滲ませた歳信としのぶがそう尋ねると、刀馬は大げさ気味な素振りでポンと手を打った。

「おぉ、忘れてた!仕事のことじゃきに!」

そう言った途端、義眼の志士の表情に鋭さが現れた。

「貴光に言われて調べちょった事だが、こりゃあ神選組の管轄ぜよ。―――近頃妖狐ようこ族が多く人間界に出回ってることは知っちょるの?」

その話を聞き、幹部達も同様に視線を鋭くする。狐依は少しだけ身を引いて、皆のことを見ていた。

「その妖狐族の、妖力のかなり高い妖狐が人間と接触をもっちょるらしい。―――尊王派の狩宮辰則かりみやたつのりは知っちょるな?」

狐依を除く全員が頷くと、刀馬は話を続ける。

「目撃情報によると、どうやら狩宮と妖狐が接触しちょるらしい。狐と接触しちょるっつうことは―――――」

「狐憑き、か?」

歳信が言葉を継ぐと、刀馬は頷いた。

「―――――分かった。こちらで調べてみる。ありがとな、刀馬。」

歳信がそう言うと、刀馬は瞬時に元のちゃらけた顔へ戻った。

「ほんじゃあわしの仕事は以上じゃ。いやぁ、料理美味かったぜよ!また来るな!」

刀馬はカラカラ笑いながらそう言って、屯所を出て行った。

「狩宮辰則か……。」

歳信はそう呟くと、席を立った。

「トシ、どこへ行く?」

勇輝が尋ねると、歳信は顔だけ振り返って、

「監察方に張らせる。」

それだけ告げると、広間を出て行った。

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