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第十七章・命を懸ける誓い

この物語には新選組等歴史的人物の子孫が登場いたしますが、フィクションですので実際の人物や団体等とは全く関係ありません。

また、未来がこのような形になっていたりするのはあくまでも“空想”ですので、ご了承ください。

――――桜里さくらざと 江戸町・誠桜せいおう通り 源條院げんじょういん家の屋敷「誠魂せいこん御殿」


「はい、誠魂御殿でございます。」

源條院家使用人頭の佐武さたけは、電話をとって丁寧にそう言った。

「―――――おや、安倍様でございますか。お久しゅうございます。―――本日はどうなされましたか?定期報告でございましょうか?」

佐武は通話口から聞こえた声にそう答えると、一瞬眉を顰めたが、すぐに元の顔へと戻った。

「―――――畏まりました。すぐに変わります。」

そして、通話口に手を添えると、小さな声で横の主へ電話の相手を伝えた。

貴光たかみつ様、安倍様でございます。お話したいことがあるとのことです。」

貴光は書類に走らせていたペンを止めると、佐武から受話器を受け取って耳に当てた。

「もしもし、お久しぶりです、安倍晴翔せいしょうさん。」

貴光はそう挨拶をして、さきほどの佐武と同じように眉を顰めた。

「娘?一体何の話ですか、私は安倍さんのご息女さんを預かってなど――――」

そして、通話口から発せられた一人の少女の名に、貴光は目を大きく見開いた。






――――同日 桜香はるか通り 神選組屯所


古い書物に目を通していた歳信としのぶは、自分の横で鳴りだした携帯のポップな着信音を聞き、額に青筋を立てた。

「静司の奴、また懲りもせずに俺の携帯いじりやがって……」

後で説教してやる、と低い声で呟いて、歳信は苛立ちを隠せずに少し乱暴に携帯を耳に当てた。

「もしもし。」

『あれ、どうしたんだい、歳信。また苛々して――――いや、今はそんな場合じゃない。』

馬車内にいるのか、微かに車輪と馬の蹄の音と共に聞こえた貴光の声に、歳信は肩の力を少し抜いた。

「どうした、貴光。何かあったのか?」

『どうしたもこうしたもないよ、歳信!狐依こよりさんのことだ!』

「狐依?」

貴光の口から出た名前に、歳信はチラリと時計を仰ぎ見た。

もうすぐ三時になるところで、この時間帯なら狐依は勝手場でお茶の準備をしている。

「あいつの出生なんかは、お前に洗いざらい話しただろ。」

この前の夏祭りの帰り、歳信は貴光と刀馬とうまに同行して狐依の正体や両親のことを話した。

『あぁ、そのことなんだけど。彼女の父親の、晴翔という名前。どこかで聞いたことがあると思ったら――――』

夏祭りの帰り、「晴翔」という名を口にすると、貴光は怪訝そうに眉をしかめたが、その後何も言わなかった。

その時の答えが、どうやら出たようだ。

『安倍晴翔―――――陰陽宮の首魁しゅかいで、安倍晴明の先祖憑きだ。』



―――数分後 屯所広間


突然の収集だったために、巡察に出ていた五番組の柳助りゅうすけと九番組の壱樹いつきはいなかったが、これだけいれば十分だということで、他の幹部達は揃って上座の貴光を見ていた。

幹部達の後方には、広間の重圧感で縮こまっている狐依がいる。

「狐依さんのお父上から、私のところに先刻連絡があった。」

貴光が切り出した言葉に、全員が同じように驚いた。

「お父様は……お父様は、何とおっしゃっていたんですか!?」

狐依が身を乗り出す勢いでそう尋ねると、貴光は柔らかく微笑んだ。

「『貴光と神選組の方々には、私の大事な娘を預かっていただき、感謝している。美咲みさきから、狐依がそちらに留まりたいと思っている旨を聞いて、少し安心した。狐依がいる場所は、彼女にとって安全な場所であり、留まりたいと思う場所であって何よりだ。』と言っていたよ。それから、あなたが元気かどうかも、話が一通り終わると何度も聞いてきた。」

貴光の言葉に、狐依は安堵の表情を浮かべて座り直した。

「晴翔さんは、陰陽宮おんみょうきゅうの首魁――――つまり、最高位の陰陽師だ。」

陰陽宮とは、貴光が預かるもう一つの依巫よりまし組織のことで、それこそ一代目の帝の時代から存在する場所である。

安倍晴翔は、陰陽宮の歴史の中で最も強力な力を持つ首魁であり、本来、浄魂じょうこんすべき対象の妖怪と恋仲になった場合は、陰陽宮どころか人間界を追放させられてしまうのだが、晴翔ほど強力な陰陽師が敵に回ってしまうと厄介だ、ということで、未だに首魁の座にいる。

「まぁ、あの人が出るほどの仕事なんて滅多にないから、ほとんどの時間を狐里こざとで過ごしているそうだけど。」

貴光は苦笑しながら肩をすくめて、すぐに真剣な面持ちに変わった。

「で、その晴翔さんから、私達に直々に“依頼”があった。」

“依頼”という言葉を強調して、貴光は懐から紙を取り出した。

それをすっと皆の前に出して、紙の説明を始めた。

懸命約書けんめいのやくしょ――――依巫が命を懸ける契約の際に使用する、特殊な紙だ。この紙に書かれたことを破れば、すべての霊力を失う。これは、晴翔さんからの依頼の内容を考えて、私が使用することを決めたんだ。だから、使いたくないのならいい。使いたい者だけ、ここに署名をしてくれ。ちなみに――――」

貴光は、紙を高く掲げた。紙の右下の方に、薄桃色で桜の花が刻まれていた。

「私はもう、署名をしたよ。」

そして、紙を置き直す。

「では、内容を説明する。晴翔さんからの依頼の内容は――――“狐依さんの守護の続行”だ。」

「えっ?」

意外な依頼に、本人である狐依は呆けた声で貴光を見た。

「――――貴光が珍しく声色変えて電話してくるから、なんだと思えば。」

唐突に、歳信がため息をつきながら言葉を吐き出した。

「そんなこと、言われるまでもねぇな。」

歳信は貴光の前、紙の置かれた場所に行くと、指先を紙につけた。

すると、その指先からチリ、と紫の電撃が走り、一枚の花弁が刻まれる。

「そういうことなら。」

「やらないわけにはいきませんね。」

勇輝と敬斗の二人も、そう言って自分の花弁を刻みつける。

「こんなものまで用意するなんて、貴光本気だねぇ。」

「ま、いいじゃねぇか。こういうのあった方が、燃えるだろ?」

「そうだぜ、静司。しかも、なんだかんだでお前もやるんじゃねぇか。」

「よっしゃ、変な狐なんかに狐依は渡さねぇぜ!」

「神選組の実力が試されますね。」

「久しぶりに、血がたぎるよ。」

「いつも狐依ちゃんには世話になってるからな。たまには俺も、かっこいいとこ見せな。」

組長達も次々に花弁を刻み――――そして、最後に

「俺のすべてを、この盟約に。」

胸元で熱を持つ桜のペンダントを感じながら、かおるが、青い桜を一輪刻んだ。

鮮やかな四輪の桜を見て、狐依は泣きそうになりながら言葉を紡いだ。

「皆さん―――――本当に……本当に、ありがとうございます。」

・懸命約書の説明・

貴光と郁は桜の花一輪を刻み、他の幹部達は花びらを一枚ずつ刻んでいます。

桜の花びらを五枚として、合計四輪の花が刻まれているというわけです。

ちなみに、花びらの色は刻んだ人によって違います。

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