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第十一章・六尾の急襲と、三匹の妖怪

この物語には新選組等歴史的人物の子孫が登場いたしますが、フィクションですので実際の人物や団体等とは全く関係ありません。

また、未来がこのような形になっていたりするのはあくまでも“空想”ですので、ご了承ください。

また、「宇奈月さんとナイトメア」のサイトを見ている人は分かるかもしれませんが、私が書いてる一作品と同じ名前のキャラクターが登場しますが、こちらとそしらはまったく関係がないので、お気になさらずに。

『ごめんなさいね、狐依こより。本当にごめんなさい…。』

誰かの謝る声が聞こえ、狐依は眉をしかめた。

どうして、見ず知らずの人に謝られるのだろうか?

『お前が、こんな運命を背負うことになってしまって、本当にすまない。』

(見ず知らずの人――――?)

狐依は、自分で思った言葉に疑問を抱く。

しかし、どうしてそんな疑問を抱くのかも、分からない。

『だけどね、狐依。あなたは大丈夫よ。』

『そうだ。お前はどんな運命にも負けない。なぜなら―――』

『『狐依は、強くて優しい子だから。』』



「――――――っ」

狐依が跳ね起きたのは、屯所の自室だった。

障子を通して、明るい陽光が差し込んできて、狐依は目を細めた。

「……変な夢だったな…。」

狐依はそう呟いて、小首を傾げた。

夢と言ったものの、なぜか懐かしく感じてしまった。それが、不思議でならない。

「…わけが分からない。」

はぁ、と小さくため息をついて、狐依は身支度を整え始めた。

部屋を出て廊下を歩いて行くと、途中で、部屋から出た左槻さつきと出くわした。

「おっ…と、狐依か。」

「原田さん、おはようございます。」

狐依が頭を下げると、左槻は険しい表情で狐依を見つめた。

「?どうされたんですか…?」

「あ?あぁ、いや……。―――――狐依、なんかあったのか?」

「へ?」

思わずとんきょうな声を出した狐依に、左槻は困ったような顔をして、

「なんか、湿気た顔してるからよ。俺で良ければ、相談に乗るぜ?」

どうやら、知らずに険しい顔をしていたらしい。

狐依はこうして心配されて初めて気付き、そして、心配してもらったことが不甲斐なくもあり、また嬉しくも感じた。

「心配かけてすみません。――――大丈夫です。ちょっと、変な夢を見てしまって。」

「そうか、そうか。ま、夢なんて、所詮幻みてぇなモンだからな。気にすんな。」

「はい。」

そして、二人で広間へ向かうと、食事の用意は整っていた。

「おせぇぞ、二人とも!早く座れ!」

新一がそう言って、二人に向かって手招きをする。

「すみません。」

狐依は慌てて席に座り、左槻も席に座ったところで、勇輝ゆうきの朗らかな挨拶で食事を始めた。

――――食事が終わり、狐依がお茶を運んでくると、一口すすってから歳信としのぶが口を開いた。

「今日の巡察は、斎藤の三番組だな。」

「はい。」

かおるがそう返事をすると、歳信は狐依の方を向いた。

「お前も付いて行く予定だったな?」

「えぇ、そうです。」

狐依はたまに、巡察に同行して、和魂にぎみたまの妖怪の様子を見ている。

「――――気をつけろよ。狩宮かりみやの奴、この前の小間使いを探しているらしい。それに、伊藤も出てるしな。万が一バレたら、厄介なことになる。」

「――――――分かりました。気をつけます。」

狐依は顔を引き締めてそう言うと、支度をするために自室へ戻った。



―――――同日 江戸町 迷桜めいおう通り

入り組んだ路地にあるため、「迷路通り」とも呼ばれる迷桜通りを、三番組と狐依は巡回していた。

少々道幅が狭いために、一列に近い状態で歩き、しんがりには郁と狐依が並んでいる。

こう細い通りは、日光が差し込みにくいこともあり、闇を好む妖怪達が出没しやすい。

郁はいつも以上に目を光らせながら、辺りを見回していた。

ふと、頭上でカラスの鳴き声が聞こえ、郁と狐依は顔を上げる。

カラスは一見何の変哲もないが、よく見ると、その足は三本あり、更に三番組の隊士達はまったくその存在に気付いていない。

このカラスの妖怪は、八咫烏やたがらす

太陽の化身とも言われ、神の御使いともされている。

数日前に、三番組とこの通りに来た時に発見した八咫烏で、とても友好的な和魂だった。

影光かげみつ!」

昔の武将のような名前は、八咫烏が自ら狐依に告げたものだった。

しかし、名を呼んでも、影光は頭上で鳴き叫ぶばかりで、この間のように話をしてはくれない。

「影光?どうしたんだろう…?」

狐依が首を捻っていると、

「――――――!全員、刀を構えろ!」

郁の鋭い声が聞こえ、刹那、

「ぎゃあっ!」

一人の隊士が、悲鳴を上げて倒れた。

「!?どうした……うわぁ!?」

同様に、隊士達が次々と倒れて行く。

「み、皆さん!?どうされたんですか!?」

悲鳴に近い声を狐依が上げると、郁が狐依の前に立ち、刀を抜いて刃を正面へと向けていた。

「―――――貴様…!」

郁が押し殺した低い声でそう言ったので、狐依は郁の視線を辿る。

その視界に、男の姿が映った。

瞳孔の細い金色の瞳に、禍々しい紫のオーラがまるで六本の尾のような。

「狩宮辰則たつのり……!」

数日前に見た狐憑きが、目の前で光悦とした表情で笑っている。

狐依は背筋に寒気を感じ、顔を青くした。

「――――あの者の情報は正しかったようだな。」

目を細めて、狩宮―――否、妖狐ようこがそう言葉を発する。

「貴様、狩宮に憑いている妖狐だな?何の目的で、俺達を襲った?」

郁が鋭い目を向けてそう言うと、妖狐は郁に視線を向けて、おや、と小さく呟いた。

「お前は――――どこかで見たことがある気がするな。」

そう言って、妖狐はしばらく考えると――――ニタリ、と、気味の悪い笑みを漏らした。

「あぁ、もしや、十年ほど前の、道場の子か?あの時は世話になったな、人間よ。」

その言葉に、郁は大きく目を見開く。

「まさか、貴様―――――っ!」

そして、その顔を瞬時に歪めて、刀を振りかざす。

「“我力を求める者なりて、力を手にする者なり。依り代よりしろことわりを以って依巫よりましとす”!」

郁がそう叫んだ途端、その身体からだから青白いオーラが滲みだす。

周りに冷気が立ち込め始め、それを見渡した妖狐はますます邪険な笑みを浮かべた。

「やはり――――。まさか、因縁の相手が姫様を匿っていようとは。運命とは、実に数奇なものよの。」

「戯言を――――!」

郁が噛みつくように言って、刀を払う。

妖狐は狩宮が腰に下げていた刀を抜いて、郁の国重くにしげを受け止めた。

「国重換装――――雪月華せつげっか!」

ピキピキ、と音がして、妖狐が後ろに飛びのく。

妖狐の切っ先が、凍り漬けになり、そして砕け散った。

「――――さすが、我を一度斬り伏せたことだけはあるな。」

「今度こそ、貴様を地獄に落としてやろう!」

「斎藤さん……っ!」

いつも冷静な郁が、ここまで怒りをあらわに刀を構えていたことはない。

先ほどからの会話によると、どうやらこの妖狐と斎藤は過去に何かあったようだが、狐依はまったく分からない。

郁がもう一度刀を構え、妖狐に向けて地を蹴った、次の瞬間――――

「生憎、今日はお前に用はない。姫様を返してもらうぞ。」

ザク―――と、肉の裂ける嫌な音がして、郁が地に倒れた。

「斎藤さん!?斎藤さん、大丈夫ですか!?」

狐依が傍に駆け寄ると、郁は憎々しげに顔を歪めながら、体を起こそうとして左肩を押さえた。

赤い血が、浅葱色の制服を彩っていく。

狐依が小さく悲鳴を上げると、妖狐が怪しげな笑みを浮かべて近寄ってきた。

その腕が獣のようになっており、長い爪から赤い血が滴り落ちている。

「さぁ、姫。我と共に。」

妖狐がそう言って手を差し伸べてきたので、狐依は反射的にその手をパンッと平手で叩いた。

「近寄らないで………!」

上ずった声で狐依は叫び、郁を匿うように自分の腕に包み込んだ。

「――――人間の味方をするというのか。」

妖狐は途端に笑みを崩し、冷たい表情になる。

それでも、狐依は怯まずその顔を見据えた。

鬼切おにきりがあれば―――、私も戦えたのに。)

鬼切を持ってこなかったことを悔いながら、狐依はどうしようかと考えを巡らせた。

「もういい。利用する価値すらない。あなたには、死んでいただくしかないようだ。」

妖狐の呟きに、狐依はハッとして、郁を庇うように身をよじった。

狐神こがみ、どけ!」

郁が苦しげな声でそう言っても、狐依は首を振る。

妖狐が刀を振り上げ、

「人間に味方する愚かな者よ、その人間ともども斬り伏せてやる―――!」

そのまま、刃を振り下ろした。

狐依はぎゅっと目を閉じながら、精一杯に郁を庇い、そして、前のように肩を治そうと手を添えていた。



―――――キィンッ



金属同士がぶつかる音が響き、狐依は目を開けた。

自分と郁の前に、黒い翼が広がっている。

「だ………れ…?」

黒い翼の主は、妖狐が振り下ろした刀を、自分の刀で受け止めていた。

「く……、おのれ、烏天狗からすてんぐめが…!」

妖狐がそう悪態づいたのを聞いて、狐依は漆黒の翼の主を見た。

暗色が基調の山伏姿に、漆黒の翼。

あとは人間に近い姿だが、体から湧き出るオーラは、妖狐のような禍々しさはないものの、妖怪の発する妖気と良く似ている。

「姫様、ご無事ですか!?」

ふと、そんな声が聞こえ、狐依の横に少女が駆け寄った。

猫のような三角の耳に、二股に割れた尻尾。

「あ、あなた達は……?」

狐依が警戒しながら言うと、妖狐と相対している烏天狗が平然と口を開いた。

晴翔せいしょう様の言う通り、記憶をなくされているようだな。美咲みさき、そしてけい殿、姫をお連れして、その男の属する場所へ戻っていろ。」

黒苑くおん、大丈夫ですか?」

少女が烏天狗にそう尋ねると、黒苑と呼ばれた烏天狗は小さく頷いた。

「“白桜はくおうの君”に仕える者が、主を守らずしてなんとする。」

その言葉に、少女は笑顔で頷いた。

「姫様、行きましょう。」

「で、でも、斎藤さんが………。」

「俺は問題ない。」

郁はそう言うと、よろけながらも立ち上がった。

「どうやら、またあんたに助けられたようだ。」

肩の出血は止まっており、それを見た狐依はほっと胸を撫で下ろした。

「急ぐです!黒苑の邪魔にならないように、早く戻るです!」

少女がそう言って、狐依の手を引こうとする。

「――――どうやら、この者達はあんたを狙っているわけではなさそうだな。」

郁が小さく呟くと、いつの間にか狐依の肩に乗っていた小さな狐が口を開いた。

「まさか、ワシらが姫様を狙うなんてあるわけがない。これだから人間は困ったものよ。」

郁がその言葉に眉間にシワを寄せると、

「早く!」

一層激しくなった鍔迫り合いの中で、黒苑がそう叫んだ。

「ほれ、ぼさっとするな、人間よ。姫様を早く、ヌシらの“あじと”とやらに連れていくのじゃ!」

郁は小狐に何か言いたげだったが、それよりも狐依を守ることに専念しようと、狐依の手を引いて駆けだした。その横に、少女も続く。

「あ、あの…!あなた達は、一体…?」

狐依が走りながらそう言うと、肩の上の小狐は唸りながら、

「―――後で、全部話します。それまで、どうかしばらくお待ちくださいませ、姫様。」

その“姫様”という呼び方に、狐依は少し困りながらも、仕方なく走っていく。

しばらくすると、バサバサという羽音と共に、黒苑が空を飛びながら追いついてきた。

「黒苑!六尾の廉丞れんじょうは倒したのですか?」

少女がそう声をかけると、黒苑は首を振って、

「逃げられた。――――不覚だ。」

「では、早く逃げた方が良かろうな。おい、人間!もっとスピードは出ぬのか!」

「狐神を引っ張って早く走れとは、随分無茶を言うものだな。」

郁がそう言い返すと、小狐は「う、」と言ったきり黙りこんだ。

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