人間にできるだけ
私は大学1年生。という設定のヒューマノイド、商品名は「友里」値段は60万円で売られている。
「お帰りなさい、マスター」
「ただいま、友里」
マスターは、私のことを友里と呼ぶ、初期設定で名前は決めれるのに。
「マスター、そろそろご飯しよう?」「そうだね、僕も手伝うよ」
マスターはいつも夜遅くに、とても疲れた顔で帰ってくる。それなのにマスターは優しくて、今まで一緒にいた2年間で一度も私に怒らなかった。どうしてかは教えてくれない。
マスターの仕事は一つじゃなくて、何個かある。私を買えたのも、それが理由だと思う。
本業は声優、でもお金がないから、ほかにも曲を作ったり、新聞を配達したり、時間があるときにはバイトをしているの。でも心配なの、ヒューマノイドは働けないから私には何もできないけど。それでも心配なの、だってマスターは休みの日がないから。
「マスター。そろそろ休んだほうがいいんじゃない?」
「いいや、まだ大丈夫だよ」
ご飯を食べた後のこと、マスターはすぐに仕事を始めた。いつも通りの変わらない光景だ。
小さな家だけど、マスターが曲を作るスペースも、私が歌うスペースもある。いつも通り、マスターは曲を作り始めた。なんか「ボカロ曲」?という部類しか作れないらしい。
それから、私は何もできないまま、マスターの作業を見ながらずっと立っていた。
そんな時だった。
バタン!と大きな音を立て、マスターが椅子から落ちて倒れた。
「マスター!マスター!」
何度も呼びかけた。でも反応がない。
「きゅ、救急車呼ばないと!」
私の中の、非常時通報システムで救急車を呼んだ。
救急車は10分足らずで到着し、マスターと私を乗せて病院へ急行した。
乗っている間。車に揺られながら、自分への嫌悪感でいっぱいだった。マスターを守れなかった、そんな自分に。でも、同時に気づいた、これが、昔にマスターが教えてくれた「恋」ってやつなんだと。
その後マスターはなんとか一命を取り留め、後遺症などもなかった。
「マスター...大丈夫ですか...?」
「大丈夫だよ、友里」
「マス...ター!マスター!」
私は、マスターを抱きしめた。私は機械だから、死という概念がない。だから怖かった。だから、マスターが自分を置いて行っていくのが怖かった。
私は機械。それなのに、涙が溢れていた。
「マスター、もう、もうこうならないようにして!」
「もちろんだよ、心配かけてごめんね」
「マスターが無事なら...それでいい!」
おかしいな、私は機械なのに、それなのにどうして涙が出るんだろう...
心の中で、たった一つの疑問が浮かび上がった。
すると、マスターは答えた。
「それは、友里が人間に近づいた証拠だよ」
そう、たった一言を。