表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

人間にできるだけ

私は大学1年生。という設定のヒューマノイド、商品名は「友里」値段は60万円で売られている。

「お帰りなさい、マスター」

「ただいま、友里」

マスターは、私のことを友里と呼ぶ、初期設定で名前は決めれるのに。

「マスター、そろそろご飯しよう?」「そうだね、僕も手伝うよ」

マスターはいつも夜遅くに、とても疲れた顔で帰ってくる。それなのにマスターは優しくて、今まで一緒にいた2年間で一度も私に怒らなかった。どうしてかは教えてくれない。

マスターの仕事は一つじゃなくて、何個かある。私を買えたのも、それが理由だと思う。

本業は声優、でもお金がないから、ほかにも曲を作ったり、新聞を配達したり、時間があるときにはバイトをしているの。でも心配なの、ヒューマノイドは働けないから私には何もできないけど。それでも心配なの、だってマスターは休みの日がないから。

「マスター。そろそろ休んだほうがいいんじゃない?」

「いいや、まだ大丈夫だよ」

ご飯を食べた後のこと、マスターはすぐに仕事を始めた。いつも通りの変わらない光景だ。

小さな家だけど、マスターが曲を作るスペースも、私が歌うスペースもある。いつも通り、マスターは曲を作り始めた。なんか「ボカロ曲」?という部類しか作れないらしい。

それから、私は何もできないまま、マスターの作業を見ながらずっと立っていた。

そんな時だった。

バタン!と大きな音を立て、マスターが椅子から落ちて倒れた。

「マスター!マスター!」

何度も呼びかけた。でも反応がない。

「きゅ、救急車呼ばないと!」

私の中の、非常時通報システムで救急車を呼んだ。

救急車は10分足らずで到着し、マスターと私を乗せて病院へ急行した。

乗っている間。車に揺られながら、自分への嫌悪感でいっぱいだった。マスターを守れなかった、そんな自分に。でも、同時に気づいた、これが、昔にマスターが教えてくれた「恋」ってやつなんだと。

その後マスターはなんとか一命を取り留め、後遺症などもなかった。

「マスター...大丈夫ですか...?」

「大丈夫だよ、友里」

「マス...ター!マスター!」

私は、マスターを抱きしめた。私は機械だから、死という概念がない。だから怖かった。だから、マスターが自分を置いて行っていくのが怖かった。

私は機械。それなのに、涙が溢れていた。

「マスター、もう、もうこうならないようにして!」

「もちろんだよ、心配かけてごめんね」

「マスターが無事なら...それでいい!」

おかしいな、私は機械なのに、それなのにどうして涙が出るんだろう...

心の中で、たった一つの疑問が浮かび上がった。

すると、マスターは答えた。

「それは、友里が人間に近づいた証拠だよ」

そう、たった一言を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ