ざまぁの加減はどうしますか?
仕事も終わったし、ざまぁが読みたくなったので、俺は近くの店に入る事にした。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ、当店のご利用は初めてですか?」
「ああ、看板を見たので入ってみた」
「お客様、当店はざまぁ専門店となっておりますがよろしいでしょうか」
「うん、それは分かってて入った」
「それでは、お席ごあんないします」
店員に案内され、カウンター席に座ると、店員がメニューを広げながら説明を始めた。
「お客様、当店はざまぁの程度を二十種類からお好みの物を選べる様になっています」
「それはちょっと選ぶのが大変かも」
「ご安心下さい。お好みのざまぁが見つかる様に、分かりやすいサンプルを用意しております。こちらを参考にしてお選び下さい」
そう言い、店員は二十本の四コマ漫画を見せた。成歩堂、ざまぁのイメージをこうやって伝えてくれるのか。これはありがたい。
俺は早速、一つ目から順番に四コマ漫画を読み進めた。
【ざまぁ1】
王子「1点負けてて九回裏、ワンアウト三塁。よし、ここはスクイズで同点にしよう」
悪役令嬢「殿下のスクイズのサインは、既に見破ってますわよ!」
王子「そんな、飛び出した三塁ランナーがアウトになって、ラストバッターも三振で終わるなんて…」
【ざまぁ2】
王子「1点差三塁!よってここはスクイズだ!」
悪役令嬢「愚かな人ね。貴方が愛人と電話している間にツーアウトにしておきましたのに」
王子「はあああ?何でゲームセットなんだよ?スクイズ成功したのに!?」
【ざまぁ3】
王子「よし、ランナー三塁。スクイズだ」
カキーン
王子「えっ」
悪役令嬢「監督でも無いのに、何でスクイズのサイン出してるんです?」
王子「えっ」
【ざまぁ4】
王子「ランナー三塁なのに、何でスクイズしなかった!クビだ!」
悪役令嬢「えっ?得点圏打率九割でホームランダービートップで連続試合出場記録更新中の私を退団に?」
王子「何故だ…スクイズしない奴を退団にしただけで、何故球団が消滅した…」
【ざまぁ5】
王子「よし三塁スクイズだ。ランナーリードしろ」
悪役令嬢「殿下、これはソフトボールですわ。投手がリリースする前に塁を離れたらアウトになるのですわよ」
王子「な、な、な」
【ざまぁ6】
王子「よーし、ワンアウト三塁。スクイズ」
悪役令嬢「なんて事を!貴方のお父様がスクイズでチームを崩壊させたから、現在はスクイズをやった監督は退団して違約金を払うと契約時に何度も言ったではありませんか!」
王子「おくちパクパク」
【ざまぁ7】
王子「三塁だからスクイズ!」
悪役令嬢「はあ…」
王子「何だ!言いたいことがあるならハッキリ言え!」
悪役令嬢「殿下、今はこちらが守備です」
【ざまぁ8】
王子「ランナーが三塁に居ない!これではスクイズが出来ないじゃないか!」
悪役令嬢「ホーッホッホッホ、ランナー三塁でスクイズを指示する王子を止めるなら、三塁を踏ませない完璧な投球をすれば良いだけの事ですわ」
王子「スクイズー!スクイズー!」
【ざまぁ9】
王子「ここはスクイズだ!」
悪役令嬢「殿下、このチームの監督は陛下です。勝手にスクイズをさせるのは許されません」
王子「親父は主審に抗議中なんだ、だから今は俺が監督だ」
国王「そんな理屈通るか!」
【ざまぁ10】
王子「ランナー三塁ならスクイズだろ!」
悪役令嬢「三塁ランナーのピンクは百メートル30秒の鈍足でスタートも苦手ですわよ」
王子「い、今から教育する!」
悪役令嬢「絶対に間に合いませんわ」
【ざまぁ11】
王子「スクイズだー!」
悪役令嬢「無理です。だってこれまで一度もスクイズの練習させて来なかったじゃありませんか」
王子「それでもスクイズ!」
悪役令嬢「サインも決めてませんよ?」
【ざまぁ12】
王子「スクイズしたいのに、何で選手が一人も来ないんだ!」
悪役令嬢「全員FA宣言で対戦チームへ行きましたわ。スクイズする様な王子のいるチームに未来は無いと言い残しました」
【ざまぁ13】
王子「なぜ、たかがスクイズでここまで叩かれないといけないんだ!」
悪役令嬢「殿下、ここはメジャーリーグです。勝敗よりも興行が優先される社会でスクイズばかりしたら、ねぇ?」
【ざまぁ14】
王子「よーし、スクイズで同点だ」
悪役令嬢「あらあら、バッターの騎士団長の息子様は、この打席でヒットか四球なら首位打者ですのに」
王子「なにっ、知らなかった!しかし、これもチームの為だ」
悪役令嬢「五年連続リーグ最下位が確定してるのに?これまでチームに尽くしてきた騎士団長の息子様もこれで移籍するでしょうね」
【ざまぁ15】
王子「悪役令嬢、スクイズだ!」
お兄様「貴様〜!我が妹にスクイズをさせるとは何事か〜!」
王子「そんな、スクイズを指示した選手が連盟トップの妹だったなんて…」
【ざまぁ16】
王子「悪役令嬢!スクイズで同点にしろ!」
悪役令嬢「えいっ」
バント逆転サヨナラ場外徳光号泣ホームラン!
悪役令嬢「あの、私何かやっちまいましたか?」
王子「ば、ばけもの」
【ざまぁ17】
王子「悪役令嬢、スクイズだ」
悪役令嬢「おっしゃる通りスクイズしてやりましたわ!」
王子「そ、そんな。俺はスクイズを嫌がり泣き縋るお前が見たかっただけなのに…」
悪役令嬢「六万人の観客の前でスクイズさせられたので、慰謝料下さい」
【ざまぁ18】
王子「あれ…?勝ってる?」
悪役令嬢「八点差のリードですわ」
王子「そんな、それじゃあスクイズは」
悪役令嬢「そんなの必要ありません」
【ざまぁ19】
王子「よーし、スクイズだ!」
悪役令嬢「…」
王子「何で悔しがらないんだよおおおおお」
悪役令嬢「だって、殿下は二軍監督で、私とは関係ありませんもの」
【ざまぁ20】
王子「悪役令嬢に代わり代打聖女。ここは一つ、犠牲フライを狙ってランナー生還させてくれ!」
聖女「酷い、私を犠牲にしてランナーを生かすだなんて!そんなのランナーが自分で努力して生き残るべきです!」
王子「はあ?何言ってるんだお前!お前は犠牲フライして貰う為に代打で呼んだんだぞ!俺の言う通りにしろ!」
聖女「ファック!」
王子撲殺。
俺は二十の四コマ漫画を見て、正直に思った事を口にした。
「なんで、サンプルが全部野球ネタなの?」
「ざまぁを好むお客様の平均年齢に合わせた結果、スクイズばっかりする監督が、ざまぁキャラとして一番イメージしやすいという結論になったからです」
確かに分かりやすい部分もあったかもなあ。しかし、ざまぁにも色々あるんだな。他のざまぁを知ってる事前提で味わう物、王子の頭をとことん悪くしてリアクション過剰にして歯ごたえを楽しむ物、反対に王子を極限まで薄める物。きっと、このメニュー以外にも沢山のざまぁがあるんだろうな。
「よし、決めた」
再度メニューを読み返し、俺は目当ての物を指さした。俺は、くどすぎるざまぁも、他のテンプレ知ってる前提のざまぁも苦手だけど今日はガッツリいきたい。だからコレ。
「かしこまりました。それでは、ご注文の品が届くまでしばらくお待ち下さい」
十分程して、店員が持ってきたざまぁを口にする。うん、これこれ。やっぱりこのざまぁを選んで良かった。
「ごちそう様、うまかったよ」
「ありがとうございました。こちら、次回使えるクーポンです」
クーポンも貰っちゃったし、好みのざまぁが選べるってのも嬉しいし、また行こうかな。