『恋に落ちる』
ー彼はどんな時でも私を救ってくれた。
その音楽と共に。
彼の全ての想いが歌詞に詰め込んでいる。
嬉しい想い、
悲しい想い、
寂しい想い、
全て全て。
その歌詞を見るたびに私は、恋に落ちる。
そう、何度でも。
「んー」
私は鏡を見ながら、顔をチェックする。自分でも顔を見過ぎだと思うほど見ているが、多分醜型恐怖症というやつなのだろう。昔から私は顔にコンプレックスがあり、その中でも三白眼が嫌いだ。醜い三白眼によって、親にもクラスメイトにも『目つきが悪い』と言われてきた。少しでも可愛く見せたいと、三白眼にあったメイクをしてみるが、元々のパーツが悪いし、メイクがあまり上手くないので、学校以外の日はメイクはやっていない。
それにしても今日も醜い顔だ。
教室に入った時、皆んなのざわつきは収まった。いつものことだ。仲のいい子と一緒に私に聞こえないように、コソコソと容姿に対しての悪口を言っている。『目つき悪ー』『そんな目で見られても困るんですけど』まあ、否定はしない。今日も長い長い授業が始まる。
「学校行きたくないな」
午前の授業が終わって、昼食の時間だ。皆んなは友達同士で食べているのだろうけど、私は当然いないので一人で食べる。と言っても、いつもなら立ち入り禁止の屋上で食べているが今は八月上旬。さすがに暑いので、誰もいなさそうな静かな空き部屋で食べる。一ミリも聞こえない皆んなの声。
「〜〜〜〜♪」
誰かの歌声が聴こえる。誰の声だろうと主を探す。声を辿ると屋上についた。『こんな暑い日に、屋上で?』疑問を胸に抱いて恐る恐る、屋上へ向かう。扉の先には眩しい光の下に、声の主がいた。
「〜〜〜〜♪」
やっぱりいい声。心地いいな。歌は最後まで聴いた。とてもいい曲だった。でも聴いたことがない。
「座ったら?」
声の主は言った。
「名前は?」
「ええっと…姫川陽菜。名前は?」
「僕は柊優。よろしく」
「ところで歌よかったよ。すごく感動した」
私は咄嗟に歌のことを聞いてみる。
「ああー、ありがと」
優は小恥ずかしい感じで言っていた。『別にそんなに恥ずかしがらなくていいのに』そう思ったが、気を悪くしてしまうと困るので言わないでおく。そもそも、言えないだろう。
時計を見ると、午後の授業の5分前だった。そろそろ帰らないと。遅刻しちゃう。優は手に持っていたギターを弾きながら歌っている。私にはどうやら気づいていないようだ。『すごい集中力。相当音楽が好きなんだな』。私には趣味などなく、昔必死に見つけようと本を読んだり、音楽を聴いたり、絵を描いたりしてみたけれど、どうもハマらなかった。優には本当に尊敬する。私は急いで屋上を出る。
また優に会えるように。