終幕
次の日の朝早く、わたしは簡単な荷物を助手席に積むとマンションを出発した。
見慣れた風景の木々は、すっかり葉を落としていた。
もうすぐ、冬だ。
いつもの道を走る。
6年近く、いっこく橋動物病院へ通った道。
でも、もうこの道を、このまままっすぐ行くことはないだろう。
左折する。
しばらく走り、そして高速に乗った。
まぁ、小さな街に、数件しかない動物病院だから...。
きっとすぐ見つかるよ。
赤いサンクターボは、軽やかに高速を走る。
高くなった太陽が、暖かさをくれる。
きっと、
わたしはこうやって走り出したかったんだ。
ねぇ...、
先生は、なぜ、突然病院を辞めたんですか?
なぜ、開業したんですか?
緩やかな右へのカーブ。
速度を落とさず、そのまま進入する。
サンクは姿勢を崩すことなく、路面に張り付くように走り抜けていく。
自分の病院で、どんな顔して診察してるのかなぁ...。
今もお気に入りのアニソン流して、あの車乗ってんのかなぁ...。
もえちゃん、わたしのこと忘れてないといいな...。
...想いは巡る。
今の生活になじんでしまうと、先に進むのがおっくうになる。
それは未来への不安。
今が崩れてしまうのではないかという恐怖。
でも、
心地よく感じる今だって、元をたどれば過去を振り切って手に入れたもの。
そう、わたしの思いとは関係なく時は進む。
どんなに心地よく感じても、今に留まっていることは出来ないのだ。
ならば、勝手に流されてどこかにたどり着くのではなく、自分で先に進んでみよう。
壊れる不安ではなく、新しいものに出会える期待だってあるはずだから。
やがて、目的のインターが見える。
わたしはウインカーのレバーに手をかけた。
全幕 終了
ここまで『代診編』を読んでいただきありがというございます。
これをベースに続きの話や派生した話を書いていくつもりです。
興味がおありでしたら引き続き読んでいただけるとうれしいです。 Kei




