第一章 幼馴染の行方 其の弍 喫茶店
九月二十日 PM 5:30 旭日市 高校近くの喫茶店
ゆったりとしたクラシックが流れる中、僕らは入り口近くの席で紅茶を愉しむ。やっぱり紅茶はいいね。態々紅茶のせいで戦争する羽目になる国があるのも納得なくらい。本当に美味しいなぁ。
「うーん、簡単に請け負ったはいいけどどうするんだい? やっぱり無難に家を見てみる? それとも聞き込み?」
僕の問いかけには大岩君が答える。
「そうですねぇ……とりあえず家に行くのがいい気がしますね。もし既に帰ってきていればそれで解決ですし、そうでなくともご両親に会って何か聞き出せれば早急な解決に近づくかもしれません。情報が集まりにくい聞き込みはその後でどうでしょう」
確かに、それがよさそうだね。後、パッと思いつくのは彼の通学路の周辺を調べるくらいかな。
「ところでなんだけど、高田さんってどんな人なの? 僕は他クラスの人とはあんまり交流がないから知らないんだよね」
ふと僕が聞くと大岩君がさらりと煽ってくる。
「ああ、まぁ確かに貴方では他人との交流は期待できなさそうですしね」
大人な僕は笑顔で聞き返す。
平常心、平常心。
そう強く思いながら、一応大岩君に聞き返す。
「どういう意味かな?」
「そりゃあ、貴方みたいな変人には一般人との交流は難しいという話ですよ」
うーん、もしかしてブーメランだと気づいてないのかな?
というかもう怒ってもいいよね?
「ほう、場合によっては宣戦布告と受け取るけど?」
笑顔で睨み合う僕らに野崎さんが溜息をついてから口を開く。
フッ、勝ったな。野崎さんも分かっているのだよ、君の方が余程おかしいのだと。
「……全く、どうせ二人とも同類なんだから。見苦しいよ?」
あれ? おかしいな? これじゃ、僕も変人みたいな扱いじゃない? 不適切な対応にはちゃんと異議申し立てをしないとね!
「「同類じゃない!」」
ハモった。
まぁ当然か。真っ当な僕が変人な大岩君と同類な筈がないじゃないか。野崎さんもこの差が分からないとは……残念な事だ。
僕が二人に憐れみの視線を向けると二人からも似たような視線を向けられた。うん? 何故だ?
「まぁいいや、高田君は二〇五のクラス委員の子だよ。うちのクラスとは違ってごく普通の真面目なクラス委員ね。確か近松ちゃんの恋人でもあった筈」
「なるほど、それで彼女はあれだけ必死だったのですね」
成程、そう言う事だったのか。確かに今はLGBTQ+の時代だし、そうであっても不自然ではないね。これは盲点だったな〜。
「とは言え、真面目な人ならば尚のこと音信不通になる理由が分かりませんね。何かの事件に巻き込まれていなければいいのですが」
「うーん、此処らの直近の事件って何があった?」
僕の問いには野崎さんが即座に答える。やっぱり野崎さんは記憶力いいな。
「確か、先月に殺傷事件が一つと誘拐未遂が一つだったかな。後は特別大きな事件は無かったと思う」
殺傷事件なんてあっただろうか? そんな僕の顔を見てか野崎さんが補足してくれる。
「一月前に三つくらい隣の町で起きた事件だよ。別名終末事件」
名前が物騒すぎる……。
大岩君はこの名前に心当たりがあったらしくポンと手を打つ。
「ああ、あれですか。全ては我が主の為にとか叫びながら周囲の人を斬りつけた事件」
そんなのあったかな?
「そうそう、容疑者は神の為に生贄を捧げないと人類は滅ぶとかほざいてたの。それで終末事件って名前になったらしいよ」
そんな事件があったのか……。全く宗教は恐ろしいなぁ。
「というか割と報道されてたと思うけど、知らなかったの? ちょうど先月の今頃だと思うけど」
先月か……。うん、ニュースは見てなかったな……。
「野崎女史、コイツに期待しちゃ駄目ですよ。多分先月の今頃はプラナリアの生態を実験してましたから、他は何も見てない筈です」
うげ、バレてる……。大岩君に実験の事言ってたっけ?
「因みに私が知ってたのはコイツが昼休みに寝言でプラナリア、再生、多能性幹細胞の位置が云々とか言ってたからです」
二人から残念そうな目を向けられる。
くそぅ、そんなことからバレたのか……。まぁあの日はプラちゃんを見過ぎてちょっと寝不足だったからなぁ。仕方ないか。
「……とりあえず、彼の家に行ってみませんか? もしかしたら気が変わって何か話してくれるかもしれませんし」
その場の空気を変える様に大岩君が言う。
ナイス! 僕も即座にその言葉に乗る。
「僕も野崎さんの意見に賛成だな。駄目元でも行ってみる価値はあると思う。聞き込みをするのはそれからでも十分じゃないかな。よーし、そうと決まれば早速行こう! 善は急げって言うしね」
と、出発しようとすると野崎さんに袖を引っ張られる。どうしたんだ?
「ねぇねぇ、お会計はどうするの?」
凄くいい笑顔だった。
……うん、分かったからついでとばかりにスタンガン押し付けるのはやめようか。逃げないから。
「い、いつも通りジャンケン?」
二人に押し付けようとしたのがバレたか? 今月はもうお小遣いがヤバいんだって……。
内心の動揺を悟られないようにしながら僕は答える。
「貴方、いつもそれで負けてるのによく懲りませんね……」
「ふん、いつも負けてるという事は今回こそは勝てると言う事だよ」
「独立した試行では確率は前の結果の影響を受けないんですよ。知ってます?」
確かに……いや、でも流石に十連続で負け続ける事は滅多にないでしょ……
結果は・・・・・・
負 け ま し た
……知ってた。なんでだろうね? 三分の一の筈なんだけどな……。