自宅レイヤー・結尾 咲良
ある土曜、その日はたまたま、俺も通ってる習い事の、西原児童館の卓球教室が無かったので、家でダラダラ過ごしていると、母親に用事を言い付けられた。
「ねぇ。野々下さんから回覧板が届いたから、次の結尾さんの所に回して来て」
「えー…めんどくせーなー、今TV見てるから後にしてよ」
「ダメでしょ、早く回さなきゃ。さっき灯枇ちゃんは1人で届けに来てくれたのに。アンタはこんくらいのお手伝いも出来ないの」
「はいはい、分かりましたよ。やればいいんでしょ」
俺はどっこらしょと重い腰を上げ、嫌々ながら外に出て結尾君の家へと向かって、ピンポンを押した。
「は~い、ちょっと待って下さい。どなたでしょうか」
「柾谷です。結尾君、回覧板を届けに来たから早く開けて。俺見たいTVがあるから、さっさと帰りたい」
「了解」
ガチャリとドアが開き、顔を出したのは結尾君…? と同い年くらいで若干顔の似た、髪の長い、よく似合う服とスカートを履いた、物凄く可愛い女子だった。
「うっふ~ん、結尾 咲良よ。なんちゃって」
「あ、なーんだ。やっぱり結尾君かぁ。どうしたの髪、カツラか何か」
「当ったり~、これウィッグ。コスプレとかに使う奴」
「凄え。完全別人じゃん、超可愛い。結尾君って結構顔良いよね」
「イヤ、柾谷君は落ち着き過ぎだろ。こっちがビビるわ」
単に可愛ゆきもの、美しきものを愛でるのに、何か問題があるだろうか。俺が、うっわキモ、オカマ野郎じゃん、とでも叫んで明後日から学校で言いふらすような、根性なしの弱虫野郎では無いというだけだ。
「じゃあ結尾君のそれって、何かのキャラのコスプレしてるわけ」
「そうだよ。可愛いでしょ、このキャラ好きだから頑張って再現したくて。だからオレの場合は、別に女になりたい訳じゃない。キャラになりきるのは好きだけど」






