出戻り転入生
よりによって、どうしてお前が個人としてはオオトリを飾るんだ。と、もし灯枇がこの話を読んでいたとしたら、頭を抱えながら地団駄を踏むことだろう。
そのひょっとこ案山子は元々、若草市立ヒヲス小学校に在籍していた人物で、灯枇が最後に見た時は、あの4町内のハーレム野郎と同じクラスで、ハーレム野郎からもふざけ半分に虐げられ、笑い者に仕立て上げられる可哀想な感じの男子だった。しかしひょっとこ案山子もまた、いつの間にやらフコーカに転校していたようで、6年生になってから、若草市立ヒヲス小学校に出戻り転入生として現れた。そして何の因果か、柾谷やアニーや灯枇達と、同じクラスになってしまった。
悪いのは、全部都会のフコーカだ。フコーカが彼を変えてしまった。つまりはひょっとこ案山子もまた、あの目玉焼き小僧とは違った方向に、良くない変化を遂げていた。要するにかつての虐められっ子男子は、どこかヘンタイっぽく変化していた。しかし律の様な直球の変態行為を働いた訳では無いと信じたい。あれは恐らく、早めの中二病患者か何かだったのだ。
ひょっとこ案山子は、いわゆる逆張り野郎だった。それを象徴する出来事が、制服派が勝利したディベートだ。
ヒヲス小学校は私服だったから、制服の学校から来たひょっとこ案山子以外は、皆私服こそが絶対正義だった。他校合同の音楽会の際に、真冬に半ズボンやスカートで過ごす他校の生徒達を見た事のある灯枇もまた、もちろん私服派の1人だった。まあいかに私服とはいえ、ヒヲス小学校にも指定の体操着はあり、それは半袖半ズボンしか無かったのも、制服嫌いの一因かも知れない。
そんな訳で、ひょっとこ案山子以外の全員が私服派だったせいで、制服派の彼有するアニーや灯枇達の所属する学習班は、ディベートでは制服派として討論する羽目になってしまった。アニーはひょっとこ案山子にマジ切れし、灯枇も彼女と同感だった。しかしディベートにはきちんと取り組んだ結果、制服派の勝利に終わってしまい、灯枇もアニーも複雑な思いで一杯だったが、ひょっとこ案山子は何だか満足そうだった。
ひょっとこ案山子はまた、担任の呼び捨てPC先生が提案した「夢キップ」という企画に応募するか否かについても、大変面倒がり、非常に冷笑的に構えていた。「夢キップ」それ自体は、各小学校から応募してきた夢企画を、市役所か何かが選考して、選ばれれば何かしらの夢実現の為に、色々と協力して便宜も図って貰えるという企画で、灯枇達のクラスの場合は、呼び捨てPC先生による主導のもと、小学校近くの味噌天神にちなんで味噌のあれこれを調べて各所へ見学に行き、実際に味噌も作らされ、クラス全員が調べ学習や、自身の家族から味噌レシピを聴取させられ、その中から良さげなレシピをピックアップして味噌料理まで作った。
灯枇は正直「夢キップ」が何なのかさっぱり分かっていなかったが、その最終発表の場で、別段熊本城近くでも何でもない学校の生徒達が、お城の中に一泊するという本物の夢を叶えたという発表を聴いて、心底羨ましくなった。そしてこれとは関係無しに、たまたまひょっとこ案山子と席の近かった灯枇は、ある大失敗をしでかしてしまった。




