ハイテク似顔絵
柾谷 稲穂と野々下 灯枇の、6年時の担任は呼び捨てPC先生だった。
果たして柾谷がどうだったかは不明だが、少なくとも灯枇に関しては、それまでどの歴代担任教師達からも、呼び捨てにされた事は一度として無かった。だから呼び捨てPC先生から、いきなり野々下と呼び捨てされた時には度肝を抜かれた。しかし灯枇以外はクラスの誰も、呼び捨てされても全く気にしていない様子で、灯枇はその事にもぶったまげて、しばらく先生から呼び捨てされる違和感に、たった1人で密かに戸惑い続けた。
それ以外の呼び捨てPC先生は、至って気さくな教師という感じで、当時としては変わっていたのは、PCや映写機、スクリーンを自在に使いこなして授業をしていた事だ。先生はその一環として、若草市立ヒヲス小学校の全クラスで毎学年繰り返されて来た、年度初め1番最初の風習・教室の黒板上にデカデカと貼り出す為の自画像製作にも、得意のハイテクを導入した。
具体的には、呼び捨てPC先生がクラス全員の顔写真を1人1人撮ってデータ化し、それをパソコン室で各生徒個人ごとに、マウスを使って白紙に黒線でトレースさせると、それが出来た順に印刷して教室に戻り、水彩絵の具で着色するのだ。灯枇はどうにもそれが苦手で、結局パソコン室に残る最後の一人となってしまった。
「灯枇ちゃん、まだ出来てないの?」
呼び捨てPC先生は、一人遅れる灯枇を心配して、パソコン室に柾谷を派遣した。
「こんなのちゃっちゃと済ませちゃえば良いんだよ。貸して」
柾谷はそのアドバイス通り、灯枇の代わりにテキパキとマウスで写真をトレースして行き、大体出来上がった所で灯枇にマウスを返却した。後は目を塗りつぶすか否かという所になり、灯枇は悩んで目の反射を残そうとした。
「あー、それはやめた方が良いって。皆塗りつぶしてたから、たぶん完成して貼ったら変になるよ」
へー、そういうものか。灯枇はそれに従って、皆と同じ様に瞳を黒く塗り潰した。
結果、どうなったかと言うと、賢くも一人だけハイライトを残しておいた閑香という女子一人を除いて、クラス全員の目が死んだ似顔絵が、黒板上にデカデカと掲示された。
「何か灯枇ちゃんの似顔絵、雲母さんの顔によく似てない?」
絵の具の塗り方の問題なのか、暇で灯枇のクラスまで似顔絵を見に来た妃鞠がそんな感想を述べた。灯枇はそう言われると確かに…と、妃鞠の感想に深く同意した。




