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山都町、旧矢部町は

 進級した灯枇(あけび)達の、トーリエ先生の次のクラス担任は、時折激しい郷土愛を開陳する先生だった。その郷土愛先生は、極々普通の先生で、口癖は「山都町、旧矢部町は――」だった。丁度ヒヲス小学校4年生の見学旅行先は、先生の愛する故郷である山都町、旧矢部町にある通潤橋だったのも、先生の語りに情熱が入る理由だったかも知れない。


 貴重な用水路として建設された通潤橋は、見事成功して切腹覚悟の白装束で開通の場に臨んだ責任者の布田保之助を生きながらえさせ、今日まで山都町、旧矢部町に存在し続けている。


 通潤橋には手すりは無いものの、今まで誰も落ちたことは無く、現に灯枇(あけび)も通潤橋に腰掛けて足をブラブラさせていたら、他クラスの担任に、その第一号になりそうだからこれ以上端によらず真ん中を歩くべしと、一休さんのとんちの様な注意を受けた。


 しかし通潤橋の放水の様子を見ていた灯枇(あけび)のクラスメイトの1人は、うっかり水筒のキャップを橋から落っことしてしまい、皆からそのまま海に流れて行ったんじゃないのかと大いに笑われた。


 それとこれはひとえにトーリエ先生が素晴らし過ぎただけではあるが、実は灯枇(あけび)はこの見学旅行の際に、見学内容を書くための旅のしおりを学校に忘れて来てしまっていたのを黙っていて、後で家に帰ってから覚えて来た内容を一所懸命に書いた。そうしなければ、極々普通の郷土愛先生に、たぶん怒られただろうからだ。





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